二十五
「はあぁ!?」
私は店内にも関わらず、立ち上がり叫んでしまっていた。慌てて座り、声のトーンを下げて夜鷹に詰め寄った。
「ど、どういうことですかそれ」
「いや、だってさ。別の人物が僕を殴り気絶させて、そのままゆいちゃんを殺したとするよ。それからあの現場に来た太一さんが死んだゆいちゃんの横で僕を縛るならまだ納得がいく」
「いや、私はいかないですけど」
「これは勝手な妄想……推理で一番やっちゃいけないことだけど。もしかしたら太一さんは僕に犯人になって欲しくなかったんじゃないかな」
「……まあ、そうか。夜鷹さんを縛っておけば犯人にはなり得ないですもんね」
「そう、そして真の犯人にも捕まって欲しくはなかった」
真の、犯人。私の目の前で自白までして自殺した太一さんが犯人ではなかった、と……?
「でも本当に真の犯人……なんているんですかね。だって太一さんは自白をして自殺したんですよ」
そうだね、と八本目に火をつける。
八本目、一口目。
「でもさ、もし彼が嘘の自白をしていたら?」
「う、嘘の、ですか!?」
「そう。もし彼がすべての事件において嘘をついた、もしくは真の犯人を庇う行動をしていたと考えると解ける謎もある」
それって、と先を促した。
「ああ、美香さんの事件だね。彼はまるで美香さんが殺されたことを知らなかった。もし彼が犯人じゃなかったなら、本当にそうだった可能性が高い」
「でも……お母さんまで殺されてるのに、そんな嘘をついたり真の犯人を庇ったりしますかね?」
「そうだね確かに、嘘をついていた可能性は高いのに、その理由が見当たらない」
結局私たち二人の思考はあちらへ行ったりこちらへ行ったりを繰り返し、謎の答えに辿り着きそうになるとまた新たな謎の壁にぶつかるのだった。
「結局、本当に犯人が太一さんだったかも分からないし、ゆいのことも分からないままなのかな……」
ううん、と夜鷹はタバコの灰を落とすのを忘れ、ただ唸るばかりだった。
「結局名探偵でも警察でもなんでもない私たちには無理なんじゃないですか?」
「まあそう言わずに。僕たちは確かに名探偵じゃないけどさ」
「なんですか?」
「立派な嘘吐きだろう?なら、名探偵には到底出来ない方法で、僕らなりに暴いてみせようじゃないか」
「また誰かに嘘をつくんですか?今度の相手は誰なんです?」
そうだね、と夜鷹は立ち上がり会計のために店員を呼んだ。
「これからその相手の家に向かおうと思う 」
「ええっ。まさかまたS村に行くんじゃ……」
いやいや、と夜鷹は笑って手を横に振った。
「この辺だよ。君もよく知ってる家のはずだ」
「それってまさか……」
嫌な予感というか、不穏な感じが私の胸の中を一瞬で満たした。
「うん、これからゆいちゃんのご両親に会いにいく」
「え、な、何でですか」
「事件と関係あるかは分からないんだけどね、過去にあの村で火事があったらしい」
はあ、と気の抜けた返事をしてしまった。別に関係ないと思ったからだった。
「その火事の起こった家、貴美子さんと光也さんの家だったらしいよ」
「えっ、そうなんですか!?」
「うん、その話ももしかしたら詳しく聞けるかもしれない」
「そっかあ、それなら有紗ちゃんが太一さんに殺された話も聞けるかも。……でもそういえばこの事件、ゆいが養子に出されず、太一さんが有紗さんを殺さなければそもそも起こらなかったのかなあ」
「ん、ちょっと待てよ……ゆいちゃんが養子に……有紗さんが殺され……」
夜鷹が店を出たところで急に止まるから、背中に思い切り鼻をぶつけた。
「いてっ、なんですか急に」
「真琴ちゃん、有紗さんが殺されたのって一歳だっけ」
「そう、そのはずです」
「すると火事が起こったのも有紗ちゃんが一歳の時だ」
「……つまりなんです?」
「ゆいちゃんが養子に出されたのも一歳頃のはずだ」
「だからそれがどうしたんです?」
よし、と言って夜鷹は急に走り出した。
「ちょ、夜鷹さん!待ってくださいよ!」
「真琴ちゃん、僕が今思いついたことを忘れないうちに、早く行こう!さあ!」
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