二十一
貴美子さんの衝撃的な言葉に私はただ愕然とし、硬直するだけだった。
「つまり私はね、旦那と娘を殺されたのよ」
「それって……もちろん同時にってことですよね……そんなことって、余りにも酷すぎる」
「いえ、正確にはそうではないの」
「え?」
「旦那が殺された半年後に、有紗は殺されたのよ」
旦那さんが殺害された半年後……?何故、そんな空白期間が発生したんだ?さっぱりわからない。頭がだんだんとぼうっとして、回らなくなってくるのがわかる。
「有紗さんが殺されたっていうのは、確実なことなんですか」
「ええ、確実も何も犯人は分かってるわ」
「はい?」
思わず、素っ頓狂な声が出た。有紗さんを殺した犯人は、分かっている、だって?
「その人は真琴ちゃんもこの村で会っているわよ」
「そ、それって……」
消去法で、もうあらかた検討はついた。しかし、そんなことがあっていいのだろうか?だって、あの人は……そんなこと……
「太一くんよ」
頭をガツンと金属で殴られたような衝撃で、前にそのまま倒れそうになった。そんな、そんなことが……あるはず……
「太一くんが家に入った時に、有紗を揺りかごから持ち上げてそのまま床に。その当時彼は4歳だったから、罪にはもちろん問われなかった……というより、この話は一部の大人によって隠匿されたの」
「隠匿……」
「ええ、だからもしかすると彼は記憶からその事実が消えてなくなってるかもしれないわね。その事を思うと本当に悲しく、辛くなるわ」
隠匿された貴美子さんの娘、有紗さんの死。そして彼女を殺した犯人は当時わずか4歳だった太一さん……この村は呪われてるんじゃないかと疑いたくなるくらいの惨劇が、20年前から続いていたことを私は知った。
「復讐したいとか……思わないんですか」
貴美子さんは紅茶を一口飲み、口を湿らせた。そしてクッキーを噛み、窓の外を見ながらその問いに答える。
「ないですわね。だって、そんなことしたら真っ先に私が疑われるもの。それにこの話は一部の大人しか知らないことになっていますから」
聞きたくなかったが、聞かなければならないことだったので心を鬼にして聞いた。
「そうすると美香さんも憎いはずですよね」
最初彼女はどういう意味か分かりかねていたらしいけど、すぐに理解し、また微笑んで答えた。
「ええ、憎いわ。だから勝手に地獄に落ちてくれて本当にせいせいしてるの。手を汚すまでもなかったわね」
本当……なのだろうか。嘘のようには聞こえない。ただ、鵜呑みにして良いものか悩んだ。
「真琴ちゃんもご存知の通り」
「ええ」
「美香さんが殺された時、つまり美香さんが自分の足で台所へ向かってから死体で発見されるまで、私は布団で横になっていたの。それはあなたもよく知っているはずよ」
確かにその通りであった。美香さんが出ていく時も、死体で発見される二、三分前までも貴美子さんが布団で横になっていたのを私は覚えている。ちなみにその私とゆいが目を離した二、三分でというのは不可能だ。家の裏に向かっていた私たちを後ろから追い越さないと美香さんのいた場所にたどり着き、先回りして殺すことが出来ないからである。
「ね。神は私を見放さなかったの。ようやく私に代わって天罰を下してくだすったのよ」
「……」
「真琴ちゃん、きっと本当はあなた、楽しい話を聞かせに来てくれたのでしょう。ごめんなさいね。こんな暗い話をしてしまって」
飲み終わった私のカップを片付けながら貴美子さんは少し困った顔で謝った。本当は謝るのは私の方なのだけど、そうはできなかった。
「あ、いえ。帰るまでにまた楽しいお話しましょう」
でもこれは本当だったし、そうしたいと思えたのは事実だ。きっと、そうなるといいけど。
「そうね、それじゃあまた来てね」
玄関でぺこりと頭を下げて、私はすぐにメモ帳を開いた。今回は得た情報はかなり衝撃的なものが多く、おまけに重要なことは明白だったから慎重に思い出しながら順に書き出した。
*貴美子さんの娘の名前は有紗、(漢字が合っているかは不明)1歳の時に当時4歳だった太一さんに床に落とされ死亡。
*この事件を一部の大人達は隠蔽。太一さん本人も忘れている可能性あり。
*時系列としては貴美子さんの旦那さんが殺害された半年後に有紗さん死亡
*美香さんへの殺害動機はあるものの、アリバイ的に不可能か。
あらかた書き終えると、メモ帳を閉じてポケットにねじ込んだ。しかしあることを思いつき、もう一度慌てて取り出した。そして、少し恐怖を感じながらも次のように書いた。
*隠匿していたという大人たちは誰なのか
どうも話を聞くうちに、貴美子さんの旦那さんの事件と有紗さんの事件が今回の一連の惨劇に関わっているように思えてきていた。
何故かは分からないけど、過去のすべての事象が複雑に絡み合い、今回の悲惨な結果を生み出しているような気がして。
さて、話を聞きに行くべき人物は残りあと三人だけど……そのうちの二人はかなり会い辛い人たちになってしまったなあ……
気持ちの整理をする時間も欲しかったし、言い方は悪いけどその中でも一番楽に話が出来るであろう人の元へ向かった。
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