二十

その人を探すのはかなり骨が折れた。というのも、もう既にたえさんの家には居なかったからである。最終的にどうやって見つけたかと言えば、またも栄吉さんの力を借りた。

「こんにちは、貴美子さん」

玄関から出てきた彼女は、にこやかに出迎えてくれた。

「あら、どうもごきげんよう真琴さん。よくここがわかったわね」

「すみません、栄吉さんに聞いちゃいました」

あらあら、と言って彼女は私を招き入れた。

「お紅茶かなにか入れましょう。お菓子はあまり良いのはないけれど、お茶っ葉には自信がありますので」

「ありがとうございます、ご馳走になります」

彼女がティーポットを温めている間、囲炉裏の近くで座って待っていた。こんなに西洋のお嬢様風な服に身を包み喋り方もそれに準じている彼女だが、やはり住んでいるのは藁ふき屋根の家だからもちろん囲炉裏もある。なんかちぐはぐな気もしたけど、すこし面白おかしくも感じられた。待ってる間、壁にかかっている写真に目線を向けた。あまりジロジロ見るのは良くないとわかっていたけど、気になってしまった。

そこには、恐らく20年前に亡くなった……もとい殺された旦那さんらしき人物と、5~6歳に見える光也さんが映っていた。そして、光也さんは嬉しそうにしながら腕に赤ちゃんを抱いていた。

「貴美子さん」

「はい、何かしら」

「この方が亡くなった旦那さんでしょうか」

そうよ、とこちらを見ずに言って紅茶の缶詰と格闘していた。

「それが旦那で、眼鏡をかけてる方の子供が光也ね。小さいのが1歳の時に亡くなった娘の有紗よ」

ありさ……この村に来て新しく聞く名前だ。しかし、既に亡くなっている。

「そうでしたか……すみません、また思い出させてしまって」

いいのよ、とティーセットをこちらへと運び、カップとソーサーを私の前に置いた。

「アールグレイにしようかと思ったけど、やっぱりダージリンにしたわ。なんとなく真琴ちゃんが好きそうだと思ったの」

「はい、私ダージリン好きです」

ゆっくりと陶器のカップに琥珀色の紅茶が注がれていく。そろそろ、事件の話を聞きはじめよう。

「貴美子さん、たえさんが亡くなった夜はお一人で眠られたんですか」

「あら、なんでそんなことをお聞きになるの?」

少し怪訝な顔をして、逆に聞き返された。

「いえ、お姿が見えなかったものですから。ゆいとお話をしに伺ったのですが」

もちろん、これは嘘である。

「あら、そうだったのね。でもおかしいわね、私は部屋で遅くまで本を一人で読んでいたから気付くはずだけど」

うん、嘘はついていなさそう。もし私の言葉を信用し、尚且つ嘘をついていたとしたら「部屋にいなかった」とか言ってアリバイを偽装する発言をする可能性の方が高い。

「あれ、じゃあ私たち部屋を間違えたのかな。あはは、まあ仕方ないか」

「ええ、そうかも知れないわね。誰にだって間違いはあるわ」

「私の場合間違いばかりですけどね、はは……」

「そんなことないわ。それに真琴ちゃんはその間違いをリカバリー出来る子だと思うの。ほら、証拠にこうしてお話しに尋ねて来てくれてる」

「……そう、ですね」

罪悪感に襲われた。それは嘘をついてしまったことにだろうか。それともただ事情を聞くため来たことについてだろうか。

「ほら、見て。この写真の光也。とても有紗のこと可愛がっているでしょう」

「あ、本当だ。すごい大切そうにあやしてあげてますね」

貴美子さんはその写真を眺めながら、続けた。

「そう、僕はいいお兄ちゃんになるんだって。有紗が産まれる前から言ってたのを今でも覚えているわ」

「……事故って、揺りかごが壊れたんでしたよね」

「あなたになら、話してもいいのかしら」

私になら?この人は何を知っていて、何を隠していると……?

「もう失うものなど何もないのに、私はなぜあんな約束を律儀に守っていたのかしらね。もういい加減、話して楽になりたいわ」

貴美子さんは私に初めて見せる、悔しそうに歪んだ顔で写真を見つめ、それに爪をたてた。

「貴美子さん、一体何が……」

あのね、と私に向き直って微笑みながら、しかし涙を零しながら残酷過ぎる真実を語った。

「有紗もね、殺されたの」

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