しっぽ

旭 東麻

しっぽ

 僕の前の席には、女の子がいる。勉強が出来て、運動も、まあ物によるけど、得意。ボーイッシュで、誰とでも仲良く、いつも笑顔で、真面目。正直ちょっとうらやましいかな。


 彼女には一つ、変わったところがあって。授業中、時々、彼女に尻尾が生える。狐みたいな大きくてふさふさの黄色い尻尾。ついでに言うと同じ狐みたいな耳も生える。クラスの皆は気づいてるけど、彼女自身は気づいてないみたいだ。彼女の幼なじみによると、幼稚園の頃からずっとらしい。なんでも「気分が上がる」と生えるんだとか。

 

 授業中、目の前で大きな尻尾がゆーらゆらゆれる。おかげで黒板が見えない。尻尾の動きに合わせて僕も頭を振ると、先生が


「どうかした?」


と聞いてきた。


「なんでもないです」


と返して、あとで移させてもらおう、と諦める。一度生えると、その授業が終わるまで消えないから、下手すると丸一日ノートがとれない。ほとほと困っているんだけど、なにせこの尻尾が見えるのは同じクラスの僕達だけ。先生にも見えないから、席替えで彼女を毎回後ろにしてもらうわけにもいかない。


「困ったなあ」


呟いて、いつもの親友に目配せした。


 彼女にはどんなとき尻尾が生えるのか。そんなことを調べてみたことがある。後ろの席になってからだから、ごく最近なんだけど。結果によると、多くは社会の時間に生えることが分かった。次に国語、その次英語。今まで生えたことがないのは保健の時間だ。社会の時間に「気分が上がる」ことが多いんだろうな。先生の発言に関わってるかと思って、尻尾が出たときの先生の発言をメモしてみたけど、先生が何も言っていないときにも生えるから、あまり役には立たなかった。


 件の幼なじみに、「気分が上がる」のはどんなときか聞いてくれるよう頼んでみた。


「いろんな国が出てきたときとか、かなあ」


という答えだったそうだ。なんとなく、社会の時間に多い理由は分かった。国語と英語は何でだろうと思ったけど、まあまず社会の時間を解決できれば、それでいいや。


 そんなこんなで、彼女の後ろの席になって半月くらい。ほぼ毎日、彼女の尻尾は僕の目の前を、ふさふさ。ゆらゆら。きつね色の尻尾。僕に出来ることは、そうだな。次の席替えで彼女の後ろになる人に、


「頑張れ」


ということぐらい。かな。

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しっぽ 旭 東麻 @touko64022

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