第2話 ISTAND BY MEMBERS
待ち合わせ場所の校門で待ち始めてから十分たってようやく蓮が出てきた。
「おーいこっちこっち」
蓮はこちらに気づくと驚いた顔をして一瞬顔を隠すような素振りをしたがすぐに笑顔で手を振って走ってきた。
「なんかあったのか?」
「別に何もないよ。そんなことよりまさかこんな時間まで待ってくれてるとは思わなかったよ。夕方とはいえこんなに暑いのに」
「案外大丈夫だったよ。さあ行こ、蓮も奏多も!」
優希は大丈夫と言ったが余程暑かったのか俺の手を引いて走り出した。
「それで蓮、どこに行くのか決めたのか」
俺はシェイクをズズズと吸って聞いた。
「うーん前言ってた遊園地は・・・・・・小野さんが行くってなるとね〜」
「それはどういう意味?」
優希は不満そうな顔になった。冷たい空気を察したのか蓮の表情が固くなる。
「お前の不幸体質のことだよ。天然物のドジっ娘にも限度ってのがあるだろ」
彼女は「ドジっ娘」と「小さい」に過剰に反応する。ポテトをうさぎのようにカリカリと齧るのをやめてこちらをギロリと睨んだ。
「ドジっ娘ちゃうわ!」
「ちゃうわって、お前に関西の血は流れてないだろ。それにドジっ娘じゃないかもしれないがお前が不幸体質なのは本当だろ?」
「それは・・・・う」
不幸体質であることはさすがに自覚しているらしい。優希は大人しくポテトを食べ始めた。
「あのさ」
蓮が口を開いた。その口には不敵な笑みを浮かべている。
「学校に忍び込む、とかはどうだい?」
俺と優希は目を丸くした。真面目な蓮がこんな事言うのは珍しい。
「学校なんてこれ以上壊すものなんてないだろう?だからいいかなって思ったんだけど」
「なるふぉろね」
優希は今度はハンバーガーを口いっぱいに頬張りながら相槌を打った。
蓮なりにちゃんと考えた結果なのか。
「そこ納得していいのかわからないけど確かに次に壊すとしたら校舎くらいのもんか。他のは壊しても今までのことを考えたら小さなことだしな」
優希がピクっと反応した。
「小さい?」
「お前のことじゃねえよ」
「まあまあ。行き先は学校ってことで細かい所も今決めちゃおうか」
二つ目のハンバーガーに手を伸ばし始めている優希が提案した。
「行くのは土曜だけどさ。学校なら夜に行くってのはどうよ」
夜の学校か。怖そうだけど楽しそうだな。
蓮も乗り気そうだ。
「いいね。忍び込むならそっちの方が雰囲気出るし夜の九時くらいに集合でいいかい?」
「いーよー」「異議なーし」
蓮は自身の胸ポケットからペンを出しトレーにあった紙の裏に書き出した。
「それじゃあ土曜日の九時集合ってことで持ち物は懐中電灯と携帯。服装は動きやすい服でスニーカーがいいかな。あと夜は夏といえど寒いかもしれないから長袖の上着ね」
「梅雨明けなら上着はいらないんじゃないか」
「一応、念の為にね」
優希が手をあげて質問した。
「蓮せんせー。おやつはいくらまでですかー」
「優希おやつは基本の三百円だろ。三百円までですよね。せんせー」
蓮は二方向からの呼びかけに困惑していた。
「うーんおやつか・・・・・・まあ奏多の言うとおり三百円でいっか」
優希は恨めしそうな目で俺を見た。一体こいつはいくら持っていくつもりだったんだ。
「あと蓮。やっぱ夜に学校に行くなら外せないイベントがあるよな」
「え、なんだい?」
優希も夜と提案した時からそれが楽しみでそわそわしているのがわかる。
「そりゃ──「学校の怪談でしょ!」
優希は机をバンと叩いて大声で言った。その衝撃で優希の前のまだカップに入っていたポテトが数本飛んだ。いや俺のセリフ取るなよ。
「夜の学校といえば怪談!都市伝説!七不思議!ああ、魅力的なものがたっくさんよ!」
「「あ、うん」」
俺と蓮は急に饒舌になった優希の熱量に押されてたじたじになった。
「蓮、まあそういうことだから」
「そうだね。ベタなところだと理科室とか音楽室とかかな」
蓮はまた紙にメモをした。
「よしこれであらかた決まったね」
「いやあ、学校をチョイスするとかさすが蓮だな。そのあとも決まるの早かったし」
俺は蓮の背中をバンバン叩いて褒めた。蓮は少しイライラを含んだ目で見てきた。
「痛いなあ急に叩くはやめてよ〜」
やめるとすぐにイライラした視線は消えていつもの柔和な表情が戻ってきた。
「ごめんごめん、痛かったか。でもそんなに怖い顔すんなよ」
「えっ、そんな顔してたかい?全然意識してなかったよ。ごめん、ねっ!」
今度は蓮が肩に腕をかけてもたれかかってきた。
「おいやめろって」
「さっきのお返しだよ」
俺も蓮に腕を回してやり返した。
「お二人さん?」
呼ばれたのでむくと優希がハンバーガーを食べながらじとーっとした目で俺と蓮を見ていた。
「仲がいいのはいいけど私の前でイチャつくのはやめてくれる?」
「へいへいわかったよ」
俺は回していた腕を離した。離してからも優希はむくれていて、その顔がおかしくてつい吹き出してしまった。
「ぷふっ、いつまで怒ってんだよ。なんだ、優希も混ざりたかったのか?」
「そんなことないし!」
優希は俺をべしべし叩いた。
「あとさっきからずっと気になってたんだけど」
「ふぇ?」
優希はジュースのストローから口を離した。
「お前食べすぎじゃない?」
「げ、」
優希は目の前のトレーを見た。
そこには優希の食べたポテトのカップやハンバーガーの包み紙が山のようになっている。
「明日からダイエットするからいいの!」
Stand by ・・・ 江戸文 灰斗 @jekyll-hyde
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