第4話俺お前とは絶対合わないと思う。

 な、なんだあれ! まてまてまて、絶対ネズミじゃないよな……え? お化け? でも俺は霊感ゼロだしお化けなわけ……そもそも、お化けが茶碗におっさんの脚と細い腕が生えてるわけねーよな。疲れてる? そーだよ、朝からずっと緊張してたし、そもそも数ヶ月引きこもりだったじゃん。


「ダメだ、疲れてるわ……」


 幻覚を見るほど疲れていると判断してみたが、やはり怖い物見たさには勝てず、茶碗が入って行った部屋の障子戸を少し開け、隙間から中を覗いた。明かりがないため真っ暗だが、中は8畳ほどの和室になっており、角には木箱のような物がいくつか積まれていた。

 

「おーい……誰かいますか?」


 恐る恐る小声で呼びかけるが、暗い部屋の中は静まり返っている。


「いない……ですよねぇ……?」


 やはりあれは何かの見間違えか、疲れによる幻覚症状だったのだとホッと胸を撫で下ろした時だった。


 ぽんぽん。背後から肩を叩かれた。


「ぎひゃあああああああああ!!!!」


 ガタガタガタガターーーーーーン!!


 心臓が口から飛び出るとはこの事かと言うほど驚き、そのまま障子戸と共に部屋の中へ倒れた。


「わああああ!! ごめんなさいーー!」


 そのまま四つん這いになり、カサカサカサカサと部屋の角まで進み、壁に背をつけたまま振り返ると、廊下の暗い明かりを背に黒い影が入り口を塞いでいた。


 ヤバイ! お化けだ!!


 蒼は極限まで手足を縮め、ガタガタと身体を震わせていると、その黒い影が部屋へと入り目の前まで来ると、頭上を覆い被さって来た。


「ひいっ!」


 殺られるーーーーーー!!


 蒼は、両腕で頭を抱え目を閉じた。


「アンタ、何やってんの?」


 自分の頭上てパチンと言う音がして、それと同時に声が聞こえた。


「へぁ?」


 真っ暗だった部屋が明るくなっており、自分とあまり変わらない年の男が、壁に手をつき頭上から見下ろしていた。


「電気もつけんと、何見よったん?」


 ほら、立てよ。と言って手を差し出した男は、口の片方と片眉をクイっと引き上げ八重歯を見せて笑った。


「え……あれ?」


 頭が冷静になっていくと同時に自分の行動が恥ずかしくなり、差し出された手を掴まずに立ちあがろうとした。しかし、下半身に力が入らず、また尻餅をついてしまった。


「わはははは! 腰が抜けてもーたんか?」


「う、うるさい! ちょっと疲れてるだけだ!!」


「ふ〜ん、なあアンタが蒼やろ?」


「……人の名前をいきなり呼び捨てすんなよ、まず自分の名を名乗るのがマナーだろ」


「ああ、すまんすまん、せやなワイは忌部氏朗。一応、忌部家の次期当主ちゅうやつや」


「いんべ、しろー」


「そ、みんなからシロって呼ばれてる。よろしく! 津雲のぼっちゃん」


 うわっ軽っ! 俺が一番苦手な奴だ。思い切り顔に感情が出たのだろう、氏朗が苦笑しながらもう一度手を出した。


「ほら、いつまでひっくり返っとんや。アンタのかーちゃんもう来とんで」


 蒼が氏朗の手を借りて立ち上がり、小さく礼をいうと「真面目なや」とまた鼻で笑われた。


 やっぱ嫌いだ! こんなやつ絶対仲良く出来ない!


 そう心の中でつぶやいて、部屋の電気を消し、外れた障子戸をはめて部屋を後にした。




 また部屋には静寂と闇が戻る。


 ……カタン……コロコロ……コトン。


 積んだ木箱の裏からまた音が鳴り始めた。


 コン……ッテ来タ……帰ッテ来タ……コロコロ、ゴトン。




つづく

 



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