40.依頼

すぐそばに冒険者ギルドの建物があるのはありがたい。鎧を着て街中を闊歩する時ほどではないものの、今度は逆に軽装すぎて若干浮いている。


街の外に出る依頼は最近はあまり受けていない。遠いし、道に迷うからだ。街の中にモンスターがいるはずもないので、街の内部での依頼は──迷い猫を探すだとかその類のものを除いて──賞金首を捕まえることだ。


モンスターは易々と屠るのに、人間を殺すのにはどうにも良心の呵責で殺せないだとか、単純に組織されていて面倒だとかで受ける冒険者は少ない。その分、請け負う数少ない冒険者はかなり稼いでいると思う。俺にとって人間が異種族だからかもしれないが、モンスターを殺すのも人間を殺すのも抵抗はない。後始末が面倒なだけだ。

かくいう俺もその1人。セバルドの街ではほとんど俺達だけで街の凶悪犯罪者を殲滅してしまった。


王都には、ボードを埋め尽くすどころかはみだしそうなくらい大量の手配書が貼り付けてあった。いくら俺でもこの数を1日でこなすのは流石に……いけるかどうかは別として、これ以上目立つのは避けたい。それは手遅れか。


と、手配書の新しさや賞金などを見てあれこれと考え込んでいたのだったが。

その間、エイブラハムさんが「うんうん」だとか「そうきたか……」だとか深く頷きながら無駄に相槌を打ってくる。いつの間に俺の仲間に加わったんだか。

手配書に手を伸ばしかけると大げさな反応を寄越すため、無意識に俺の動きは止まる。


「そうだよな、これだけ沢山あると、中々決め辛いよな!」

理由はそれだけじゃないが。何も返さずに、手配書で最も新しいものを取る。


「おっと、そうきたか! 連続切りつけ犯を選ぶとは腕がなるなぁ」

「え、まさか依頼にも付いて来るんですか……?」

「ん? そうだぞ。まあ安心しろ。報酬は要求しないから」

なぜだかやる気に満ち溢れた顔を向けられ、困惑しかない。突然やって来てついて来るとか、タニアさんとやっていること変わらなくないか?


前触れがなさすぎて、俺の動向を確認するためではないかと勘ぐってしまう。実際そうなのかもしれない。そんなに怪しいことはしていない。



この賞金首には都合のよろしいことに手掛かりの証拠となる物が残されていたらしい。切りつけ犯なら職業で犯罪者やっているわけでもなさそうだしな。他の賞金稼ぎの人は推理とかやっていたりするみたいだけど……俺に思考能力を求めるな。クエレブレの透視がなくても、魔法で片をつけてみせよう。


「これがその手掛かり、と」

「はい。切りつけられた人が相手のマントをちぎり取ったものです。ありふれたマントですから、個人の特定は難しいかもしれません……」

おずおずと手渡された布きれは、なんの変哲もない素材と色だった。確かに、これ単体で……となると余程嗅覚でも鋭くなければ厳しいだろうな。

受付の人がやや怯え気味である。そういえば昨日滅茶苦茶不機嫌になってたんだった。


問題ないと答え、俺は布きれに簡単な魔法をかけた。

元あるべき場所に戻す魔法。布地に単に元に戻すだけだと、糸くずになったり紡ぐ前の羊毛になったりする。布切れがマントのところに戻るように、と命じる。ぼろ布はふわりと浮き上がって冒険者ギルドの扉へと向かう。


「ん? 今何をやった? というかお前は魔力使えないんじゃ……」

「最近急に使えるようになったんですよ」

エイブラハムさんは訝しげな顔をして首を捻っている。なるほど、タニアさんから知らされていないとみた。なら、俺を監視しているという線は薄いか。俺の警戒を解かせようとするための演技だということも考えられるものの、疑心暗鬼になっていてもしょうがない。強者はいかなる妨害だろうと歯牙にもかけないのが正解だ。


俺は風に舞うかのようにふわりふわりと宙を浮かんで移動する布きれの後を追った。その俺にエイブラハムさんもついて来る。いや、付いてこなくていいが。

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