29.王都
村からセバルドの街に移動していた時と同じように、到着直後に揺り起こされる。陽射しの眩しさはなく、座席の窓枠から空を見上げた俺の目には代わりに満天の星空が映った。
「夜……」
だが、暗いはずの外は橙色の灯が点々と輝き、セバルドなら静まり返っていた通りでは、人々が賑やかに行き交っている。
冒険者ギルドの紋章のおかげで検閲をあっさり通過したらしい馬車が停まり、石畳の通りに降り立つとより街の大きさが分かる。セバルドの街でも仰天した俺は、更に大規模な王都に半ば圧倒されていた。
「凄いでしょ、ね? 宿は冒険者ギルド本部の部屋をタダで提供してくれるらしいよ。行こう」
手を引かれて歩き出す。俺はずっとすごい、すごいとおのぼりさん丸出しで騒いでいた。普段は冷静な性格を気取っているクエレブレも、王都の規模には素直に感心している。
「夜でもこんなに賑やかなんですね。いやはや、驚かされました」
「セバルドとも全然違うんだな。ただ歩いているだけでも楽しいな」
見たところ、特に何か催しがあるというわけではないようなのだが、露天もちらほらと見かけるし、テラス席の設けられた酒場などもあって賑わっていた。
武装している人ともすれ違うことから、冒険者も多いのだろう。セバルドの街では単独やペアで組んでいる冒険者が多かったが、王都は4〜6人規模が多いようだ。質も高いように見える。
「着いたよ。取り敢えず受付ね」
冒険者ギルドは相変わらず目立つ……内部の構造も今までのものと大きくは変わらない。半分酒場のようになっていることくらいだろうか。流石に夜から依頼を受ける人は少ないようで、受付は空いていた。
亜空間から出したことがバレないように、マントの下でこっそり書状を取り出してアレーナに渡す。受付の人に見せると、そのまま奥の部屋に通された。
「青ランク冒険者のアレーナ・バリシアさんと、そのお仲間の赤ランク冒険者のシェミハザさんですね。明朝に対アザゼル部隊で顔合わせがあります。それまでは裏手にある宿舎でお休みください」
噴水のある中庭を挟んで、裏手から出て反対側の建物が宿舎であるらしい。石造りで中々立派な造りをしている。
俺達の部屋は2階か。階段を上がって部屋の前まで来る。扉からして内装には期待できそうだ。部屋に鍵が付いているらしく、受付で渡された鍵をガチャリと回す。
「セバルドの宿屋よりも広くて快適そう!」
「旅してきた甲斐がある……王都に来てよかった」
「これで無料とは凄いですねえ」
安宿や野営に慣れきっている俺達は、提供された部屋に気分を高揚させてなだれ込んだ。
部屋にも灯りが灯され、テーブルセットや布張りの長椅子……ソファもある。背の高い俺でも圧迫感を感じない程度に天井も高い。
「ベッドの寝心地が最高」
「また寝るの?」
「寝る……」
鎧を脱いでベッドに横になった俺は、すぐに目を瞑った。下から聞こえる噴水の音が心地良く、5日眠り続けていた上にさっきまで寝ていた俺もまた眠ってしまいそうだ。
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