8.賞金稼ぎの魔王

幸い、帰りも首に巻かれたものが何なのか聞かれることもなく検問を通過できた。


「凄いです! 無傷でドクヘドラーを3体も倒すなんて」

何やら凄いことらしく受付の女性には褒められたが、俺に毒が効かなかっただけで技術もチームワークもへったくれもないので微妙な気分だった。

毒液を秤でわけて売り、討伐数とは別に報酬を貰う。基準はよく分からないが、銀貨20枚も貰えた。


昨日の宿屋で今日も泊まる。三人分金額を請求されることもなく、何も訊かれずに昨日と同じ部屋に通された。荷解きをして俺が井戸水で体を洗い、戻ってくるとクエレブレが俺に話しかけてきた。


「聞くべきなのか迷いましたが、シェミハザ様とアレーナ殿はどのような関係なのでしょうか? 男女の仲というふうには見えないのですが……」

「言うのは憚られ「仲間だ」

アレーナの言葉を遮って答える。仲間だ。拭ききれない髪の毛をベッドから下に垂らし、俺は布団に潜り込んだ。


「あ、そういえばクエレブレは戦えるのか?」

「もちろん。若輩者とはいえ、これでもドラゴン族のはしくれですので。魔法で戦わせていただきます」

後衛か。鋭い牙が並んだ口を見ると前衛でもやっていけそうに見えるが。

アレーナはその後、食事に行くといって襟巻きクエレブレを連れ、宿屋に併設されている酒場に出かけて行った。


俺は一人になった。

一人でやることは決まっている。

寝る。




「あと6日で金貨300枚を稼がないといけない」

「この短期間に借金でもされたのですか?」

「いや、鎧が欲しくて」

「鎧に金貨300枚ですか」

翌朝、冒険者ギルドの掲示板の前でクエレブレに何故金を稼ごうとしているのか聞かれた。かっこいい鎧が欲しいんだ、悪いか。


大鎌が銀貨50枚だったのに比べると値段が高すぎるが、俺は一度欲しいと思ったものは絶対手に入れないと気が済まないので買う選択肢しかない。昨日のドクヘドラー討伐が1体金貨3枚で、3体討伐したから9枚。毒液を売り払って銀貨20枚。ちなみに先日ボコボコにした冒険者からカツアゲしたのは金貨12枚。そして今の所持金……は生活費から削るわけにはいかないので計上しないものとする。


「よく考えなくても、これ稼ぐの無理だろう」

「お気付きになられましたか?」

「いや俺は諦めない。アレーナ、難易度度外視で一番報酬が良い依頼ってどれだろう」

アレーナは掲示板の右上を指差した。そこには普通の討伐依頼とは違い、取り外しができないよう釘打ちされた羊皮紙が貼り付けてあった。


「やっぱり賞金首を捕まえることね。ほら、これとか金貨100枚」

「難しいな」

難易度度外視で訊ねたのに頭を抱える俺に、クエレブレが名乗り出た。


「自慢ではありませんが、私視力が良いもので。賞金首の特徴さえ分かれば、容易に見つけられると思いますよ」

「本当か!?」

「ええ。どれどれ、アレーナ殿が指さした賞金首は……42歳、鳥人族、この街を拠点にして強盗殺人を繰り返す強盗団のリーダー。隻腕。部下にも賞金首多数。生死を問わず。これだけ特徴があれば余裕ですね」

なんて心強い奴を仲間にしたんだ。俺なら判別できなくて罪もない同種族を皆殺しにしてしまうだろう。


「クエレブレが発見したら俺が捕まえて、アレーナが縛る。どうだろう」

「もちろん。いいよ」

「仰せのままに」

2人の同意も得られたことだし、行くか。俺達は冒険者ギルドから出て、賞金首探しにセバルドの街に繰り出した。



「どう? 近くにいる?」

「建物を含め、この通りにはいないようです。裏路地に行った方がいいかもしれませんね」

「そうね。あっ、あの串焼き買いたいからちょっと待って」

賞金首になるほどの犯罪者は大通りにはいないようだ。アレーナは出番がかなり後だからか、食べ歩きに夢中になっている。


路地裏に入ると、途端に街の雰囲気がガラッと変わった。道にゴミが多くなり、建物もなんだか古ぼけた雰囲気だ。辺りを見渡しつつ薄暗い通りを歩いていくと、クエレブレが小声で止まるように言った。


「見つけたか」

「はい。この建物の中にいます。部下……なのでしょうか。他に人もいますね」

壁を透視できるのは凄いと思う。魔法無しなら俺にはそんなことできない。


「普通に扉から入って殲滅する。リーダーの賞金首だけは取り敢えず生かしておこう」

アレーナとクエレブレは頷いた。俺は建て付けの悪そうな扉を発見し、迷いなく蹴破る。


蹴りの音、木がパキパキと音を立てながら崩壊する音、そして木屑が散る音。賑やかに扉が砕け散り、室内で話し合う盗賊団の目の前に俺達は現れた。


驚きで固まる彼らを俺の大鎌が襲う。

最初の犠牲者は、何が何だかわからないうちに首を吹っ飛んだ。初めてにしては上出来な大鎌さばきだろう。アレーナを間違えて輪切りにしてしまってはまずいので、アレーナには室内に入るのを暫く待っていてもらった。


「戦い方を拝見するのは初めてですが……魔法師とは思えない程の身体能力ですね」

「魔法だったらもう敵は全滅しているだろうけどな」

血と脳漿と臓物で部屋をめちゃめちゃにしたが、鳥人族の死体は見当たらない。

盗賊団の巣窟になっているこの家屋、天井が低く狭いが、部屋の数は随分と多いらしい。分かれて探した方がいいな。


「クエレブレ、変身解除して戦えるか? 炎は無しで。アレーナも頼む。分かれて戦うけど、まずそうならすぐ呼んでくれ」

「承知しました」

「おっけー」

クエレブレが俺の首から離れ、みるみるうちに姿を蛇竜に変える。アレーナは細剣を抜き、俺達は三方向へ散った。

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