9.ランクアップ可能な魔王

次の部屋は部屋というよりむしろ廊下のようだった。もう俺はどこから来たのかがあやふやになりはじめている。角が天井に確実に当たるのでずっとかがんでいるので早く出たい。

最初の部屋にいた人を皆殺しにした騒音で、この次の部屋もざわめきが起こっていた。さっきの部屋よりも人が多いようだ。人口密度が高いな。

廊下部屋には誰もいなかったので、そのまま次の部屋に突入する。


よくもまあこのせせこましい空間に10人も。人間族、人間族、ゴブリン、猫人族、そして鳥人族。

鶏頭のこの人が金貨100枚か。何人かは既に武器を取り出し、こちらに突きつけている。


「あ、あんたは……冒険者ギルドの……不良!」

この声は誰だと思えば、人間族の一人は俺がカツアゲした柄の悪そうな男だった。世間は狭い。


「冒険者か。だがおれ達を倒そうもんならバックにいる魔族様が黙ってねえぞ」

金貨100枚は腕組みをし、勝ち誇ったように言った。魔族。魔族と言ったか? コミュニケーションを取るのが苦手な俺は黙ったまま始末しようと思っていたのだが、自分に関係のある言葉が出てきたので思わず訊いてしまった。


「魔族と関わりがあるのか」

鶏の口がニヤリと歪み、自信ありげに語った。


「どうせ生きて帰れねえんだ、教えてやるよ。おれ達はな、セバルドで得た金の一部を魔族様に渡す代わりに他の盗賊団が活動できないようにしてもらってんだよ。魔族様は人のことなんざどうでもいいだろうが、金のこととなるとそうはいかねえ。たかが冒険者一人くらいすぐに消されちまうぞ?」

長々と述べてもらった。

魔族は金の亡者らしい。なぜ金に執着するのかは分からな…………いや、なんとなく分かる気がする。既得権益を損ねられたら、その元凶を絶ちに来るというわけか。だからといって見逃すわけもないが。顔を見られているわけだし、もう何人も殺してるし。

最後に、魔族魔族と語るので俺が魔族であるというアピールをして何か情報を聞き出そうと思う。


「どうせ生きて帰れないだろうから教えてやる」

うまいこと返したと思いながら帽子に手を掛け、屈んだ姿勢のまま脱ぎ、長い角を晒した。

俺も魔族だ。どうだ恐れ慄くがいい。

と思ったら逆に金貨100枚は笑い出した。

なんだ。お前達はすぐに笑って。なにもおかしくない。


「ふっ、そんな変な角生えてる長耳族とか見たことねえな。ありがとよ、面白えもん見せてもらったぜ。死にな!」

は?

恥ずかしくてむかついたので、攻撃を受ける前に金貨100枚の頸を捻り切って殺し、勢いで他も全員殺した。



やや道に迷いながら家屋の外に出ると、アレーナとクエレブレは待っていたようだった。クエレブレはなんともなさそうで襟巻きになっていたが、アレーナが二の腕を怪我しているみたいで心配だ。


「俺の方は金貨100枚含めて片付けた。アレーナ、怪我してるみたいだけど。洗って薬を塗ろう」

「これくらい平気。あっさり終わったね。ところで、シェミハザ様表情暗いよ? そっちの方が心配」

感染症になるかもしれないし平気とは言っても信用ならないので、後で治癒魔法士を呼ぼう。

病状が暗い理由は恥ずかしいことがあったからだが、話しておいた方がいいと思うので二人(ドラゴン族の数え方が人と同じかは知らない)にさっきのやり取りの内容を明かした。


「なるほど。彼らの背後には魔族がいるというわけですね。しかしながら、シェミハザ様の角を見ても何も思わなかったことを鑑みれば、恐らく彼らは直接魔族に会ったことはなかったのでしょう。ともあれ、魔族が実際に襲ってくるとなれば大変興味深……いえ、脅威的ですね」

「こっちはその魔族が誰なのかも分からないんで、対策の取りようもないな」

「それもそうね。ねえ、ひとまずは衛兵を呼ばない? アタシ達は血塗れ、扉の向こうは死体だらけなんだよね」

アレーナとクエレブレは、戦い方のせいもあってか腕や腹などしか汚れていなかった。そういえば、怪我している上に返り血は不味いと本に書いてあった。早く処置しよう。俺はゴブリン討伐の時と同じく頭から足先まで血をぐっしょり被っている。戦い方が派手すぎるんだろう。

そういえば、盗賊達は金を魔族に渡していると言っていたな。


「盗賊団なら金持ってそうだな」

「この後衛兵を呼ぶからすぐバレてお縄にかかっちゃうよ。やめてね」

死体から追い剥ぎしようと何気なく行ったところ、一瞬で意図を見破ったアレーナに制止され、クエレブレにも苦笑された。


「我々、シェミハザ様が犯罪者にならないように見守らなければなりませんね」




「首領の討伐報酬である金貨100枚に加えて、他にも賞金首がいたのでその分も加算して金貨306枚が今回の報酬です。お疲れ様でした」

衛兵が到着した後、返り血を浴びに浴びた俺達(特に俺)は衛兵の詰所で血を落とすことができた。ついでに治癒魔法士にアレーナを治してもらうこともでき、俺は胸を撫で下ろした。

その後は冒険者ギルドで報告をしたのだが、金貨100枚さん以外にも賞金首が結構混じっていたらしく、目標金額にあっさり到達してしまった。賞金稼ぎは名前の通り稼げるのでメインにして冒険者活動をやっていきたい。


「アレーナさんは現在赤ランク、シェミハザさんは現在黒ランクでいらっしゃいますが、今回の盗賊団殲滅でランクアップが可能です。シェミハザさんに関しては、一つランクを飛ばして昇格できますよ」

そういえばランクアップというものがあるんだった。俺は赤ランク、アレーナは青ランクになるということか。


「やった! 青ランクは実質最高位なの。体を張っただけあるね」

「そうか、俺も赤ランクに……赤以上って昇格試験があるんでしたっけ」

グレアムさんは、黄ランクまでは昇格基準が曖昧で、受付の裁量で決められると言っていた。つまり、赤ランクからは基準がはっきりと定まっているということだろう。


「はい。赤ランクへの昇格は教官について合宿という形になっております。詳しくは後ほど説明いたします。青ランクの昇格については、青ランク相当のモンスターを単独で倒すというのが条件です」

俺は合宿か。楽しいかもしれない。

アレーナは同格のモンスターを倒さなければならないようだ。時間的に俺よりはあっさり終わりそうだが、もし失敗したら。


「クエレブレ」

アレーナを守ってくれないかと頼もうとしたが、やんわりと断られた。


「私はあくまでシェミハザ様にお仕えしているので。それに申し上げた通り、シェミハザ様が犯罪者になることを抑止するため、ついて行きたいと思っているのですよ」

「いいのよ。そうやって守ってもらってランクアップしても自分のことじゃないみたいだから。駄目なら死ぬだけ」

アレーナが決めたことなら仕方がない。彼女の力を信じるしかないだろう。

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