6.毒のモンスターと宿屋の魔王
「うーん、どういう依頼がいいと思う? さっきは賞金稼ぎって言ってみたけどなんかこの依頼カードは古そうだし……」
「このドクヘドラー討伐はどうだ。1体あたり金貨3枚もらえるみたいだけど」
「報酬は高いけど…………解毒剤が必要でしょ。心配ね」
俺達は、意気揚々と掲示板の前に立ったのに中々依頼が決まらず時間を無為に過ごしていた。村のものに比べて依頼の種類が多く、よりどりみどりというのが理由だ。
陽が出ている間に宿を取らないといけないのでそうのんびりはしていられないのだが。
ドクヘドラー討伐が却下され、俺はまた別の依頼を探し始める。ドクヘドラーとは、話を聞く限りべたべたした有毒の蒸気を放つ軟体モンスターであるらしい。推奨ランクは赤だ。
そもそも、魔王に毒は効くのだろうか。勇者パーティーには毒使いがいなかったからわからなかった。
「あ、これなんかは? コボルド討伐50匹。銀貨10枚」
「いいかもしれない」
コボルドはゴブリンと同じような知能の低い人型のモンスターだ。なるほど、毒の軟体モンスターに比べれば安全に倒せるだろう。
いいかもしれないとは言ったが、俺の興味は完全にドクヘドラーの方へ向いていた。
報酬が高いというのもあるが、毒というのが興味深い。俺に毒は効くのか、ドロドロしているのに打撃は通じるのか、などなど。
アレーナはそんな俺の様子にすぐに気付いたらしい。
「もしかしてシェミハザ様、ドクヘドラーの依頼を受注したいと思ってるのかな」
「実のところそうだ」
アレーナはドクヘドラーとコボルドの依頼を見比べ、それから俺の方を見た。
「強いのはわかってるんだけど、こんなに顔の良い男を溶解毒のあるモンスターの所に送るのは不安になっちゃう」
「毒に触れないで倒せばいいだけだ。冒険者でやっていくならこういうのも少なくないだろうし、危険ならなおさらアレーナがついて来る必要は……」
「道、迷わずに帰れるなら一人でも大丈夫なんだけどね」
「ごめん。やっぱりコボルドの方にする」
顔が崩壊するほどに毒を食らうことはさすがにないだろうと思うが、行き帰りで道に迷わないのはそれよりも遥かに難易度が高い。地図は不正確だし。アレーナには世話になりっぱなしなので、あんまり我儘を言ってはいけないだろう。出した意見を引っ込めた。
「いいよ。アタシもついていく。解毒剤だけは買っていってもいいでしょ?」
予想外の言葉に、俺は驚いて顔を上げる。
ええ。本当にいいのか。
アレーナも顔が良いんだから、自分のことを大事にしてほしい。
そう伝えたら、思いっきり赤面していた。
なぜだ。事実を言っただけなのに。
受付で解毒剤を購入すると、ドクヘドラー討伐に向かう前に宿屋を探すことにする。
ちなみに解毒剤は1本につき銀貨2枚だった。高い。安価なものではなく、万一溶けても跡が残らない良質なものであるらしい。
セバルドの街の宿屋がある区画にやって来た。
宿屋がなんなのかすらもぼんやりとしか分からないが、要するに金を支払って宿泊できる施設らしい。少し本で読んだことはある。
宿屋の前に出ている立て看板の料金表を読み、吟味しながら区画を通っていく。
「連泊したいんだよね。連泊すると少し割引になるところがいい」
アレーナと俺は道を行ったり来たりして料金と施設の両面で検討を重ね、ここだという宿屋をやっと決めた。もう日が傾きかけている。ドクヘドラー討伐は明日だな。
「すみません、宿泊したいんですが」
建て付けの悪い開けっ放しの扉をくぐり、宿屋のカウンターへ声をかける。
昼寝をしていたらしい宿屋のカウンターの青年は、欠伸を噛み殺しながら、間延びした喋りで宿泊の受付をした。
「はい。おふたりですねー? 部屋数はいくつですかー?」
俺は部屋二つ、一つでもせめてベッドは別と言おうと思ったが、その前にアレーナが早口で言い切った。
「部屋は一つのダブルベッドで」
「わかりましたー。一泊分が銀貨1枚ですー。お手洗いは裏庭、洗顔とかは中庭の井戸を自由に使ってくださいねー」
ダブルベッドは気まずいだろう。
アレーナにはいろいろ世話になっているし、俺が嫌なわけでもないからいいんだけど。
2階の1番端が泊まる部屋で、俺はかがみながら狭い階段を登っていった。軋む廊下を進み、扉のついた部屋に入る。
部屋は廊下から考えると意外に広く、小さな窓が1つ付いていた。木の鎧戸を開ければさっきの通りが上から見下ろせる。
内装は思った通りシンプルで、2人用とみられるベッドの他には武器スタンドと小さな椅子くらいしかなかった。
睡眠欲の権化である俺は大鎌と荷物をベッド横の壁に立て掛けると、すぐにベッドに潜り込んだ。どうせ今日は予定もない。寝よう。
質素なベッドだが、地面や馬車よりはずっと快適だ。快適さで早くも眠くなり、俺は瞼を閉じた。
明日はドクヘドラーを討伐しに行こう。
いろいろ買ったりしていたら金欠でカツカツでもあるので、それも討伐することで解消したい。
ほとんど眠りに落ちた頃、何やら体温の高い動物のようなものが隣に入ってくる感触がある。
暖かい。
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