5.絡まれる魔王

衝動的に買った大鎌を担ぎながら、セバルドの冒険者ギルドに行くというアレーナについて行く。

街で活動するためには、その度に登録する必要があるらしい。


「金稼ぐには、何が手っ取り早いだろう」

「賞金稼ぎとかじゃないかな。1人分の首で金貨10枚くらい貰えるらしいよ。冒険者ギルドに手配書が貼り付けてあるから、ここのギルドに登録するついでに見に行こう」


大鎌が銀貨50枚で、俺の所持金が銀貨12枚で、鎧は金貨300枚で、賞金首は1人金貨10枚で……金貨と銀貨の換算がわからない。

すると、アレーナがお金は銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨30枚で金貨1枚に換算できると教えてくれた。


何回か道を曲がり、広場を抜け、セバルドの冒険者ギルドに到着した。

当たり前だが、村にあったやつの数倍は大きい。

両開きの扉を押し開けて中に入ると、室内のつくり自体は村のものとそう大きく変わらなかった。

ただ内部の広さや冒険者の人数はまったく違う。

受付も複数あった。アレーナと俺は真っ直ぐ中央の受付に向かい、受付の女性にプレートを見せながら名前を名乗った。


「アレーナ・バリシア、赤ランクよ」

「シェミハザ、黒ランクです」

「はい。承りました。それでは登録を──」

「オイオイ、そのナリで黒ランクってマジかよ!? 連れと釣り合ってなさすぎだろ!」

女性の声に被せるように、受付カウンターの近くに座っている冒険者らしい体格のいい男の一団が囃し立ててきた。酒に酔っているらしく、僅かに酒の香りがする。

反応したら駄目なやつだろう。


「だせえ帽子の野郎、ビビってんのか? 聞こえてんだろオイ!」

リーダー格の男が更に挑発してきた。

だせえ帽子ということは同意するが、ビビっていると言われて良い気はしない。

都会ってこんな感じなのか。村に帰りたくなってきた。無視しよう。


「なんなのあいつら。しばきたい」

「言わせておけばいいよ。ここで争っても無意味だろ」

それでも尚煽ってくるので、黙っている方が周りに迷惑がかるような気がしてきた。


「少し外の空気吸いに行ってくる」

「手続きはやっとくから構わないけど……気をつけてね」

「すぐに戻ってくるから」

カウンターにアレーナを残し、外の空気を吸うという名目で冒険者ギルドの外に出た。

案の定、さっきの冒険者達がぞろぞろついてくる。

水鳥の雛か何かかよ。


建物を出ると、やってきた大通りの方とは逆の路地裏の方に進んだ。

薄暗く狭い道で、正面は行き止まりになっている。


付いてきていることを確認すると立ち止まり、振り向いた。

ついてきた冒険者達が武器を構えて帰り道を塞いでいる。

リーダー格の男は、ナイフを取り出して俺に向けた。


「『ここで争っても無意味』つってたよなあ? なら路地裏なら争ってもいいってことだろ。ああ、助けを求めても誰も来ねえぞ。女の目の前で恥かきたいんなら別だがな!」

取り巻き達が笑う。

カツアゲでもするつもりだろうか。

それとも命を取りにきたのだろうか。


「俺があとで衛兵に報告したら?」

「衛兵に……だと? オイ、知らねえのか? 冒険者同士の争いには衛兵はほとんど関わらねえようにしてるんだぜ。まあ、つまりだ。逃げられると思うなよ」

「そう。親切にどうもありがとう」

なんて物騒な職業なんだ。

男達は俺にじわじわと距離を詰めてくる。

片付けるか。

試し斬りでもするかと背負った大鎌に手を伸ばしかけたが、殺すのはさすがにまずいだろう。

適当に殴って終わらせよう。




「ご、ごめんなざい……殺さないで!」

「殺そうとしてきたのに今度は殺さないで? 虫が良すぎでは」

全員半殺しにするとリーダー格の男が鼻血をダラダラ流しながら命乞いしてきた。

別に腹が立っているわけでもないし、命まで取ろうとは思わないけど。


「か、かねならありまず!」

そう言って男は懐に手を突っ込むと小さな袋を差し出した。

何か重いものが入っているような音がする。


袋を開けて見ると、硬貨が入っていた。しかも金貨である。数十枚は入っているかもしれない。

魔王として勇者達から略奪していたから俺は受け取ることに忌避感はないけど、アレーナはどうだろう。これだと逆にカツアゲしちゃったみたいになるし。


「シェミハザ様? 大丈夫…………みたいだね」

噂をすればなんとやら。

騒ぎを聞きつけたのか、アレーナが来ていた。

俺は袋を持ち上げる。


「襲ってきたから返り討ちにしたら、もらえた」

「そっか。貰っちゃおう」

あっさり。

冒険者ってそんなものなのか。

そのまま「受付終わったから依頼受けに行こ」とスタスタ歩いて戻ってしまうのでついて行くしかなかった。

一回振り返って倒れている男達を見たが、全員魔力反応が活発なので元気に生きているから平気だろう。


再び冒険者ギルドの扉を潜る。

あそこ、と指さされた掲示板で依頼を探そうとすると、アレーナが袖を引っ張って言った。


「やっぱりさっきも滅茶苦茶強くてかっこよかった。ね、シェミハザ様って見た目ハタチくらいだけど、長耳族って長命種族で実年齢はもっと上って聞くよね。ホントは何歳なの?」

本当の年齢は分からない。

寝ているか、勇者達と戦うかの生活だったから。

十歳くらいかもしれないし、百を超えているかもしれない。

だいぶはぐらかしたが、見た目通りの年齢ではないとは伝えた。


「浪漫あるね。アタシは19歳」

「若い」

アレーナは正真正銘の若者だな。


掲示板の前に立つ。

数日前は村の掲示板で、一人で、素寒貧だった。

今は都市にいて、隣にはアレーナがいて、武器もある。

人生(魔王だけど)というものはわからないものだ。

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