第13話:ソニーのパソコン開発2

CP/M環境下のソフトウェアとしてフォートラン、コボル、C言語、パスカル、APL、Forth、Prolog、LISPがソニー扱いで発売され幅広いプログラミング言語学習用のパソコンとしての活用も検討されていたものと思われる。また、この時期に国内外で隆盛していたテクノミュージックブームを意識した。


そして、原始的ではあったが内蔵PSG音源を使用したDTMソフトウェア「カミヤ・スタジオのラッサピアター」をいち早く同梱していた。発売元が家電・AV機器メーカーで、一般家庭向け製品と同種の販売戦略を展開、当時人気絶頂にあったアイドルの松田聖子をイメージキャラクターに採用した。


 「人々のHitBit」というCMキャッチとともにパソコンに関心の無い層へのアピールを盛んに行っていた。当時としては革新的な表現能力を搭載、翌1984年には、カラーパレット機能を標準搭載したSMC━777Cを発売。しかし、8ビット御三家が覇権を争う市場を切り崩せずに姿を消していった。


 ソニーが作ったIT業界でもっとも有名な規格は3.5インチフロッピーディスクだ。ソニーが3.5インチFPDの販売を終了したのは、2011年3月末。当時、既に多くの会社が販売を終了していたが開発会社の撤退には特別な意味を感じた人が多かった。3.5インチフロッピーディスクを初めて見たのは1982年、ソニーSMC━777の製品発表会会場である。SMC━70は、8ビットCPU「Z80」を搭載したパソコンだった。


 そして、当時としてはグラフィック機能に優れたソニーらしい製品であった。その後、ソニーは、SMC━70の改良型普及機SMC━777を投入しMSXパソコンとともにHitBitブランドを展開した。MSX・HitBitのイメージキャラクターは松田聖子で「私よりちょっと賢い」というコピーが使われた。「松田聖子よりもちょっと賢いくらいじゃ、大したことないな」という軽口が叩かれた。


 SMC━70発売当時、私は大学生で、発表会のあとも残ってエンジニアの方にいろいろ質問していたら、3.5インチフロッピーディスクを1枚くれた。このフロッピーディスクは後にSMC━777を買った後輩に上げてしまったのだが、今思えば残しておくべきだったと後悔している。SMC━70に採用された3.5インチフロッピーディスクは、シャッターを開くための切り欠きと、シャッターを自動的に閉じるためのスプリングがついていない。


 そのため、手で開いてからドライブに挿入する必要があった。SMC━777の頃にはシャッターの自動開閉機構が追加され、スプリングとシャッターを固定する切り欠きが追加された。後輩はカッターナイフで削って切り欠きを作ったようだ。当時のフロッピーディスクは1枚千円したはずなので学生にとっては大事な1枚だった。


 ソニー DSC━SMC━777以降のフロッピーディスクにはシャッターを自動的の閉じるスプリングとシャッターを開けたまま固定する切り欠きがある。SMC━777は、内部にCP/M1.4互換のオペレーション・システムを搭載していたが、当時主流だった2.1とは互換性がなく、あまり大きな意味はなかった。


 一方、内蔵BASICは非常にユニークなものだった。たとえば、ユーザー定義関数に名前を付けて再帰呼出しを行うことができた。設計者はLispの心得があるようで、関数定義内での変数代入命令はSETQだった。SETQはLispの関数で、Qは直後の引数を評価しない「変数名として扱う」quoteの意味である。


 BASICでquoteには何の意味もないので「SETQのQって何やねん」と仲間内で笑い合っていた。私の勤務先は、プロフェッショナル向けコンピュータ教育会社だ。3.5インチフロッピーディスクの用途は主に2つあった。1つはPCのセットアップ用。


 システム管理作業の演習を行なうため、講習会の前日には人数分のPCをセットアップする必要がある。MSDOS・システムとネットワーククライアントを組み込んだフロッピーディスクから起動する事でサーバーからオペレーション・システムイメージをダウンロードしインストールを行なった。


 その後、フロッピーディスクイメージをネットワークに置き仮想フロッピーディスクから起動するシステムを構築。フロッピーディスクイメージの作成には仮想PCの仮想フロッピーディスクを使えるので、物理フロッピーディスクを使う必要はない。


 ウインドウズ・ビスタ以降は16ビットDオペレーション・システムベースのセットアッププログラムが存在しないためフロッピーディスクからMSDOSを起動してセットアップできない。セットアップにはウインドウズのサブセットである「ウインドウズ PE」をDVDまたはCDあるいはネットワークから起動する必要がある。

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