第7話 わたるその3

気付けば、もう窓の外はとっぷり暮れて、縁側との境を仕切る障子に嵌めこまれた飾りガラスが部屋の明かりを跳ね返している。


見上げた柱時計の針はもう9時を回っている。


暦は自分がまだ受話器を持ったたまま呆けていることに気付いて身もだえる。


(ずいぶん話し込んでしまった……)

(航さんと言った)

何時電話を切ったのだろう。

つい今さっきまで、長々と話していながら、ぼんやりする暦の頭は夢見ていたように曖昧だ。

受話器を置こうとして、暦の手が躊躇う。

(受話器を置いたら航さんとのつながりが消えてしまう訳でもないだろうに……)

ゆっくり受話器を置くとチンッと小さくベルが鳴って暦の気持ちに区切りをつけてくれた。

振り向いた暦の目にはとうに湯気の消えたティーカップが映る。


カップを満たすほの赤い液体が、天井の灯りを浮かべて暦の目に優しい情景を見せてくれた。

カップの横に添えられたミルク入れをつまんでカップの灯りにミルクを注ぐ。

湯気は引いてもまだ温もりはのこっているのだろう、沈んだミルクが押し上げられるように底から再び湧き上がる。

(航さん……今度は自分から電話すると言ってくださった……)

口をつけた紅茶は冷めていたが暦はまるで気にならなかった。

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