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その姿を目にした時。
私は体が震えるのを感じた。
王太子と同じ金髪碧眼なのに、どうしてこうも印象が違うのか。
厳しい顔つきの彼は、けれど私に向けた目はとても優しかった。
「リンティア」
そう彼は私の名前を呼んでくれた。
バルトが私の名前を呼んでくれたのだ!
はじかれるように立ち上がって、私は恥ずかしげもなくバルトに抱きついたのだった。
思い出すと、自分の大胆さに顔から火が出そうだ。でもあの時は考えるよりも早く体が動いたんだ。
ずっと安否の分からなかったバルトが目の前に居ると言うのに、どうやって押さえろと言うの?
私は流れる涙もそのままに、抱きついてバルトの名前を呼び続けた。嬉しくて嬉しくて……ただただ嬉しかった。
無事で良かったと私が言ったら、彼は優しく抱きしめ返してくれた。
「うん。ごめんね心配かけて。俺は大丈夫だから……。そしてリンティアも……もう大丈夫だよ」
そう言って、顔を覗き込んで来たバルトの顔はとても優しかった。
その時気付く。
バルトが随分立派な姿をしていることに。
そう、まるで王族のような立派な……
「バルティアス!?なぜお前がここに──!」
その時、驚愕の声と顔で叫んだのは、モルドール王太子だった。
その言葉に私は首を傾げた。バルティアスとは誰のことなのかと。そして、王太子はバルトを知ってるのだろうかと。
不思議に思っていると、バルトの背後から、更に立派な姿をした、頭上に王冠を輝かせた人物が現れた。
以前会った事のある、国王だ。
皆が──王太子とフレアリア、バルトと彼に抱きしめられてる私以外──一斉に膝をつく。
それを軽く手を上げて応え、立ち上がるように国王は声をかけた。
皆が一様に驚きの目で国王を見ている。それは私も同じだ。
卒業パーティに国王が出席したことなどない。王太子の卒業だからだろうか?
国王を含め、金髪碧眼の三人が集うのは、不思議な様だった。
まだその腕の中に居ながら、私はバルトと他の二人を見た。
同じ金髪碧眼とはいえ、どこか彼らは似通っていた。
別々に見ると分からなかったけれど、王と王太子はともかく、バルトもまた彼らと似た雰囲気を持っていたのだ。
バルト?と名前を呼んだら、また優しく微笑まれた。
けれど直ぐに顔を正面に向けたバルトの顔は、とても厳しいそれとなっていた。
「お久しぶりです、兄上」
その言葉に、私は息を呑んだ。
会場もざわめきで満たされる。
兄上?
たしかモルドール王子は一人息子だったはずでは──
ざわめきを制したのは、またも片手を上げた国王だった。
「皆の混乱も分かる。だが訳あって今まで伏せていたのだ。だがその必要も無くなったゆえ、ここで皆に紹介しよう」
そう言って、国王はバルトの肩に手を置いた。
「これは既に亡き我が側室との子──紛れもない私の息子、王家の第二王子バルティアスである」
ざわめきは起こらなかった。
誰もが驚きのあまり、言葉を失っていたのだ。
それは私も同じ。
第二王子?バルトが王子?
そんなはずはない。だって彼は以前話してくれたではないか。嫌いな食事を弟に押し付けては母に怒られ……などと話してくれていたではないか!
「黙っててごめんね、リンティア。ずっと俺を育ててくれた養父母の家での話なんだ。俺は王家のために陰で動く存在として育てられた。王族である事は、例え愛する者でも言えなかったんだ」
私の戸惑いを感じたのだろう。そうバルトは説明してくれた。
そんな私達を見ていた国王は、再び言葉を続けた。
「そう、バルティアスは国のため、影となって色々動いていた。こたびの隣国とのやり取りも……血を流すことになったにも関わらず戦とならなかったのは、ひとえにこのバルティアスの働きがあったからこそ」
そこでまたざわめきが起こる。
特に来賓として来ていた年配の貴族からは大きなざわめきが起きていた。
自分たちのあずかり知らぬところで、国が大きく動いていた事への戸惑いなのかもしれない。
「隣国……ドルゲウス王国は、バルティアスが王となるのなら今後も良い関係を築きたいとまで言ってきたのだ。あの残虐で、自国の為ならどんな悪行も平然と行うドルゲウスの国王が、バルティアスを認めたのだ!これは永遠に語り継がれるべき、歴史に残る大きな功績である」
おおお……と感嘆の声が上がるのは当然だろう。
たしかにバルトは──バルティアス王子は歴史的快挙を成し遂げたのだ。
あのドルゲウス王国と和平?と誰もが疑い、いつまた血が流れるかと不安げだったというのに──これを喜ばずにいられようか。
だが、それを喜ばぬ者が存在した。確かに会場に存在したのだ。
「お、お待ちください、父上!」
この国の第一王子にして王太子「だった」モルドール王子だ。
彼は蒼白な顔をしていた。それはそうだろう。
国王の話、それ即ちバルティアスが次の王であるという宣言に違いないのだから。
「バルティアスが王って……!次の王は私です!正室の子であり、第一王子の私以外に居るわけがない!」
そんな彼の叫びを、もはや国王は冷たい目で返すのみだった。
代わりに口を開いたのは、バルティアスだった。
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