9ページ

 

 

1月10日


 今日、久々に学院で王太子を見た。相も変わらず腕にフレアリアを絡ませて。


「相変わらず陰気くさいな、お前は」


 と言われてしまった。ほっとけ。


「お姉さまの陰気くささは災いをもたらしそうで不気味ですわね」


 とはフレアリア。うん、確かに貴女という災いを呼んだのかもしれないわね。フレアリアが居なくて義母だけだったなら、私の生活はもう少し平穏だったのかもしれない。


 けれど現実はどうあっても変えられない。


「あんなのと結婚などあり得んな!」


 と大笑いして去って行く王太子と、甲高い笑い声を上げるフレアリア。

 なんてお似合いの二人だろう。


 もうすぐ卒業なのだけれど、いつになったら婚約を解消してくれるんだろうか。かなり期待しているのに。


 その日はもうすぐ来ると確信しているが、何か嫌な予感がするのはなぜなのか……。




1月19日


 大変な事が起きた。

 隣国との和解の話は、隣国の罠だったというのだ。


 和解をする調停の場で、争いが起きた。血が流れたと言うのだ。


 互いの使者が集ったその瞬間、相手国が襲ってきたというもので。

 鎮圧はできたものの、不意を突かれて使者の多くが亡くなってしまったと。


 学園内でも噂でもちきりだ。


 血の気が引いて、医務室で横になった。


 バルトは大丈夫なのだろうか?

 彼はどういった役割をしていたのか分からないけれど、まだ若い彼が不意を突かれていたとしたら、対処できたかどうか……。


 ああどうか神様……バルトをお守りください。


 私はどうなっても構いません。

 どうか、どうかバルトを……。


 言葉には魂が宿ると言う。

 言葉にすれば真実になると言う。


 だから私は今夜はずっと祈り続けよう。


 大丈夫、大丈夫……バルトは絶対に無事だ、と。


 夜通し祈り続けよう。




2月28日


 ついに隣国と真に和解となった。


 戦になるかと思ったけれど、これ以上の血を流すのは互いに無益と折り合いがついたようだ。


 それでも殺された者は戻っては来ない。思う所は色々あるのだろう。国王もかなり渋い顔での調停となったようだ。


 まだバルトは来ない。無事なのかどうなのか、何も分からない。

 調停の場に居た者の名前は、国家機密だとかで公表されてはいないのだ。


 国家の一大事だというのに、飄々と王太子は今日も学院に来ていた。王太子としてやる事は無いのだろうか。


「卒業式は盛大にしたいな!」

「わたくしは真っ赤なドレスが着たいですわ」


 このバカップルの会話を理解することは時間の無駄だと思う。


 それでも王太子なら何か知ってるのかもしれないと、隣国との調停について──被害者について聞いたら、


「そんなこと私が知るわけなかろう!私は今卒業後のことを考えるので忙しいのだ!王になるのだぞ、私は!下らんことで話しかけるな!」


 と怒鳴り散らされ、突き飛ばされて終わった。


 もう駄目だ、あの王太子は。

 この国の将来は大丈夫なのだろうか。




3月5日


 卒業式が執り行われた。

 それは粛々と……とはならず。


 王太子が「私の卒業式だぞ!」と盛大にやるように指示した結果、随分と派手なものとなった。


 隣国との間で血が流されたばかりだというのに……大量の花飾りに賑やかな音楽、打ち上げられた花火……。


 花火なぞ、国民が目にしたら──遺族がどう思うか、あの王太子には理解出来ないのだろうな。


 理解出来ないと言えば、卒業式後にフレアリアに随分含みのあることを言われた。


「お姉さま、明日のパーティが楽しみですわねえ」


 そんな事を言うような子ではないことは、私が一番よく知っている。


 明日の卒業パーティは、全員参加の卒業生を祝うパーティだ。正直参加したくないのだけれど、侯爵令嬢として王太子の婚約者として、欠席するわけにもいかない。


 ただ……フレアリアと王太子が、何かを企んでいるのだけは分かる。


 バルトの安否が分からない今、何もかもが不安で仕方ない。


 明日、無事に一日を終えることが出来るんだろうか──。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る