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1月10日
今日、久々に学院で王太子を見た。相も変わらず腕にフレアリアを絡ませて。
「相変わらず陰気くさいな、お前は」
と言われてしまった。ほっとけ。
「お姉さまの陰気くささは災いをもたらしそうで不気味ですわね」
とはフレアリア。うん、確かに貴女という災いを呼んだのかもしれないわね。フレアリアが居なくて義母だけだったなら、私の生活はもう少し平穏だったのかもしれない。
けれど現実はどうあっても変えられない。
「あんなのと結婚などあり得んな!」
と大笑いして去って行く王太子と、甲高い笑い声を上げるフレアリア。
なんてお似合いの二人だろう。
もうすぐ卒業なのだけれど、いつになったら婚約を解消してくれるんだろうか。かなり期待しているのに。
その日はもうすぐ来ると確信しているが、何か嫌な予感がするのはなぜなのか……。
1月19日
大変な事が起きた。
隣国との和解の話は、隣国の罠だったというのだ。
和解をする調停の場で、争いが起きた。血が流れたと言うのだ。
互いの使者が集ったその瞬間、相手国が襲ってきたというもので。
鎮圧はできたものの、不意を突かれて使者の多くが亡くなってしまったと。
学園内でも噂でもちきりだ。
血の気が引いて、医務室で横になった。
バルトは大丈夫なのだろうか?
彼はどういった役割をしていたのか分からないけれど、まだ若い彼が不意を突かれていたとしたら、対処できたかどうか……。
ああどうか神様……バルトをお守りください。
私はどうなっても構いません。
どうか、どうかバルトを……。
言葉には魂が宿ると言う。
言葉にすれば真実になると言う。
だから私は今夜はずっと祈り続けよう。
大丈夫、大丈夫……バルトは絶対に無事だ、と。
夜通し祈り続けよう。
2月28日
ついに隣国と真に和解となった。
戦になるかと思ったけれど、これ以上の血を流すのは互いに無益と折り合いがついたようだ。
それでも殺された者は戻っては来ない。思う所は色々あるのだろう。国王もかなり渋い顔での調停となったようだ。
まだバルトは来ない。無事なのかどうなのか、何も分からない。
調停の場に居た者の名前は、国家機密だとかで公表されてはいないのだ。
国家の一大事だというのに、飄々と王太子は今日も学院に来ていた。王太子としてやる事は無いのだろうか。
「卒業式は盛大にしたいな!」
「わたくしは真っ赤なドレスが着たいですわ」
このバカップルの会話を理解することは時間の無駄だと思う。
それでも王太子なら何か知ってるのかもしれないと、隣国との調停について──被害者について聞いたら、
「そんなこと私が知るわけなかろう!私は今卒業後のことを考えるので忙しいのだ!王になるのだぞ、私は!下らんことで話しかけるな!」
と怒鳴り散らされ、突き飛ばされて終わった。
もう駄目だ、あの王太子は。
この国の将来は大丈夫なのだろうか。
3月5日
卒業式が執り行われた。
それは粛々と……とはならず。
王太子が「私の卒業式だぞ!」と盛大にやるように指示した結果、随分と派手なものとなった。
隣国との間で血が流されたばかりだというのに……大量の花飾りに賑やかな音楽、打ち上げられた花火……。
花火なぞ、国民が目にしたら──遺族がどう思うか、あの王太子には理解出来ないのだろうな。
理解出来ないと言えば、卒業式後にフレアリアに随分含みのあることを言われた。
「お姉さま、明日のパーティが楽しみですわねえ」
そんな事を言うような子ではないことは、私が一番よく知っている。
明日の卒業パーティは、全員参加の卒業生を祝うパーティだ。正直参加したくないのだけれど、侯爵令嬢として王太子の婚約者として、欠席するわけにもいかない。
ただ……フレアリアと王太子が、何かを企んでいるのだけは分かる。
バルトの安否が分からない今、何もかもが不安で仕方ない。
明日、無事に一日を終えることが出来るんだろうか──。
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