再会

 分かっております。

 戯言だと、存じております。

 其れ等が、幻だと、存じております。どうして、私の胸の内が打ち明けられましょうか。

 生れて間もない我が子を、ごみ箱に棄てた親です。

 兄弟姉妹の事も、捨てたのです。

 兄弟姉妹は、奴隷に成りました。

 簡単に、奴隷になってしまいました。

 私は、厭でした。

 御飯が無くても、奴隷にはならないように、逃げて隠れてきました。

 御金の無い、弱い子供、は大人たちには恰好の素材なのです、永遠に子供を作らされ、未来永劫、奴隷として、働かされるのです、更に、奴隷の悪い処は、其れを良しとしている処なのです。

 働くとこを良しと、している処なのです。

 搾取されているとも知れずに、雇い主にありがたがり、仕事が或るのはいいねえと、媚びへつらう処なのです。

 世も末では、ありませぬか。

 此れでは、まるで、平和などではありませぬ。

 世界は、末恐ろしいもの、で御座います。

 私は逃げてまいります。

 如何か、私に神の祝福を。

 兄弟姉妹の事は、もはや知りませぬ。今も奴隷として、生産工業で、働いています。意味のない労働をさせられています。

 此の、国を恨んでください。

 あの、奴隷商人を恨んでください。

 私は、決して、奴隷には成りません、優しい言葉で、駆け寄り、そして、御飯があるよ、寝る場所があるよ、などと、いい言葉を吐いては、此のように、残酷な事をし、奴隷労働をさせるのです。

 私は、屈しません。

 奴隷には、成りません。

 妥協を許しません。

 国の従順な奴隷を又増やす、おつもりですか?。

 国民の皆さん。

 自由は勝ち取るものなのです。

 市民権は勝ち取るものなのです。

 国の為の奴隷でいいのですか。

 戦は無くていいのですか。

 今こそ立ち上がりましょう。

 

 「駄目だったでしょ。少年。」

 「はい。」

 「自ら望んで、奴隷を選ぶ人間もいるんだよ。」

 「此れは、酷い事実です。」

 「ああ、そうだ、奴隷と、いっても命の保証はされて居るからねえ。飼いならされているんだ。其れを良しとしている。酷いものだろう。」

 「なんて、酷い世界なんだ。」

 「そう、それが、其れこそが、この世界だ。信じられるのは、数学だけだ。」

 「人間なんて言うのは、信用ならない。数字だけが、真実を語っている。」

 「全くにその通りだ。バカな、愚かな、人間にだけは成ってはならない。」

 

 織部 黒矢は死んだ。

 糸識 色波は、其れを見て、呆然と、していた。もう八月十六日の、午前四時を過ぎ、朝早い、日の出が見えた。

 「どうすんだよ。これ。上に報告するのは、俺か、其れに、生きて帰れるのか・・・。」

 「私たちが、君たちを逃がすとでも、思った?。」

 高浜が、厭な笑みを浮かべた。

 しばらく黙っていた。

 無言の沈黙が続いた。

 手錠を付けられ逮捕された。

 其の後、諜報部隊長 遠山 加代 戦闘部隊副隊長 悪摘 蓮華が、捉えられ、牢屋にぶち込まれた。

 

 其のニュースは瞬く間に、全世界に、報道された。戦後、最も悲惨な戦争の一つとして、其れは、大きな話題を呼んだ。 

 日輪国では、ガナーが英雄の様に、祭り上げられていた。まるで、悪いベーダをやっつけたかのように。

 確かに、ベーダは、史畏莫国に加担し、裏でLLL研究所の研究をしていたが、彼等には、彼等の正義があった。しかし、そんな事は国民にとってはどうでもいい事だ。大半の国民は、簡単にマスコミの報道に騙され、踊らされ、扇動される。何が正義で、何が悪かなど、考えて居る国民の方が少ないのだ。マスコミのリードに従って動いているだけの能の無い国民が、其の人口の大半を占めているとは、世界が崩壊する訳だ。

 ガナーにも、言い分が或るのだ。其れについては一切報道しない、其れがマスコミだ。

 真実は、自分で考え、自分で、判断する、リテラシーが無ければ、騙される、愚鈍な小君と成るのだ。君子は、自分で考え、自分の判断で、責任をもって行動するものだ。

 

 「ニュース見ました?。」

 赤羽香志探偵事務所で、和香が、羽子に訊く

 「見た。戦争があったらしいな。」

 あの戦争。

 遂に、ガナーとバーダが激突したらしい。が、結局の処、黒幕は未だに分からない。 

 確か、工藤一家の、棟梁、工藤 美香子は、スパイを送って、其の激突の戦争の調査をさせていたらしいが、何か分かっただろうか。

 ニュースでは、LLLコーポレーションの事は、触れられてはいなかった、ベーダは、外国に国を売っていると、報道されていた、そして、ガナーが英雄の様に、祭り上げられていた。

 二時間後

 工藤 美香子から、連絡があった。

 「分かってる、LLLコーポレーションの事は、調べがついていた。そのような、会社が存在する事は、知っていたんだ。」

 この事件が起こる迄は、空想の組織だと、ばかり、考えていたが、あの戦争で、ガナーの棟梁の話を聞くと、やはり、あの会社の存在が浮き彫りになってくる。

 天の川 謙介は、こういっていた。

 ベーダは、史畏莫国と、裏で手を組み、国際的な、科学研究組織を造り、其の技術開発を地下で、行っていた。

 そう言っていたのだ。

 LLLコーポレーションの存在は、ついさっき、

 工藤から、の連絡で、その事実が、分かったのだ。例の送り込んでいたスパイの一人が、その情報を得たらしい。

 勇敢な、スパイで、名は、射瑠間 縁と言った。

 そして、直ぐに、工藤家へ向かった。


 八月十五日の戦争中に、工藤は、その話を切り出した。

 LLL組織についての話だ。

 あの夜、その時は、未だ確証はなかった、あくまで、諜報部員が、ベーダ中枢の、主要人物の発言から、推測で、導き出した、会社の存在でしかなかった。

 そして、羽子は、その次の日の、午前二時に、帰宅したのだ。現在は、八月十六日の午前八時十七分だ。

 電話がかかって来たのが、三分前の事。

 そして、車に乗っている。

 工藤家へ向かっているのだ、詳しい話を訊きに、あの戦争で、生還し、見事、機密事項を入手したと、言う、工藤家のスパイから、話を訊きに行くのである。

 此の事務所から、三十分の処に、工藤家は、或る。

 赤羽香志 探偵事務所は、日輪国の首都、雨黙都にある。その都市部に、工藤一家の邸宅と、赤羽香志探偵事務所はある。

 都市部の中でも、比較的、閑静、で緑の多い処に、工藤家の家々は、建っている、辺りの土地を買い占めて建てたらしい。

 工藤は、私を見て、いった。

 「おかしな、事もあったものだ。」

 工藤は、ひねくれていた。

 其処には、射瑠間 縁がいた。

 「どうして、、笑っているんだ?。」

 工藤は、虚空を見上げていった。

 「全て、夢だったんだ。」

 工藤は、せせら笑っている。

 「この時代に、戦争があるだ何ておかしな話さ。」

 射瑠間が、地下実験室で見た、事は、その事実は衝撃的なものであったと同時に、あの戦争は、思考戦争、云わば、神経の異常による、思考上での戦いだったのだ。

 そのために、特異能力によって人智を越え能力をのったものがいたのだ。 

 「分かってた事さ。高々、右翼、左翼なんぞの、下らん思想争いで、重火器、戦闘機、原子爆弾、レーザビームが、使われるはずが無かろう。あれらは、思考戦争装置による、仮想空間上でおきた出来事。」

 世間は、其れを現実で、起きた出来事のように、報道している。

 「北波区 丹波市は、奴らの、思考歪曲によって、歪められていた。心理的トリックだ、其の為に、世間は、あの土地が焼け野原になったと、誤認しているが、現実の世界では、全く、森の樹々が生い茂っているのだ。」

 あの、事件の事を認識できる者は、いないのだ。

 その事実を知る事は、出来ても、思考の世界では、戦争があったと認識してしまう。

 人間の思考の限界が、あの幻想を見せているのだ。

 「なっ、そんな事が・・・、どうしてわかったんだ。」

 「射瑠間・・・、説明してやってくれ。あの後どうなったのかを。」

 「分かりました。」

 そうだ。あの戦いの後、私は、日と、地下研究所を、探索していた。

 バーダの幹部は、捉えられ、ガナーの人間は、バーダの遺体処理と、周辺の警備をしていた。バーダの人間は、世にも恐ろしい、終末の地下牢送りに成るのだと、ガナーの、諜報部隊長 高浜 次郎は、下衆な、笑みを浮かべていた。

 高浜 次郎は、ガナーには珍しい、糞野郎の性質を持っていた。

 残忍な性質を持っていた。

 其の間に、私達は、忍び足で、見つからないように、地下の施設を調査していた。地下は広く、未だ、其の全貌を知るものは、ガナー兵の中には、おらず、ベーダの研究者を、使って、案内させているだろうから、見つかる事は無かった。

 その中で、あの装置を見つけたのだ。

 「あの、装置・・・。なんだ、其れは???。」

 「まあ、話をきけ。時期に分かる事さ。」

 射瑠間は、続けた。其の身体は、恐怖で、震えている。

 「どうしたんだよ。はやくいえよ。」

 射瑠間は、尋常な様子では無かった、ブルブルと震えながら、声を震わせながら、言う。

 その装置は、直径十メートル、半径三メートル程の円柱だった。其の円柱に、操作パネルが付いている。円柱の周りには、螺旋状の、素材があり、其の円柱を囲うように、トカマク式の核融合炉の様に、なっている。

 其の設計図が此れだ。盗んできた。其れを、観て視れば、飛んでもない事が分かる。

 設計図には、神経の織り成す、微弱な電磁波と其れを利用した、仮想世界実現装置について。

 と書かれた設計図があった。

 「こんな、ものは、似非科学だ、嘘だ。」

 「そう、思うだろ。しかし、此れが本当なんだ。認識には、回路が或る、其れには、認識を作り出す、反応があるのだ、其処に、異常な電磁波を流し込めば、思考は鈍る、そして、仮想世界を認識する事になる。夢を見る原理と、同じさ。云わば幻術さ。」

 「嘘じゃないか。」

 「そう、嘘を見せているんだ。けれど、其れを本当と、信じ込んでしまうのさ。」

 射瑠間は、驚愕の目で言った。

 「脳にチップの埋め込まれたクローン兵や、キメラが、あの戦争では、五万程死んだ。」

 「クローン?。チップ??」

 其の恐ろしい、研究と、地下の危険な、最新の研究に驚きつつも、其れが悪用される未来を危惧した。

 「戦争が起こるのは、こういった技術革新が行われた時さ。」

 射瑠間は、虚空を見上げ、ため息をついた。

 「ま、落ち込んでいても、仕方がないさ。あのLLLコーポレーションの闇は深い。史畏莫国に繋がっている。本部は、其処にあるのだ。」

 「其れでは、史畏莫国の、LLLコーポレーションが今回の事件の黒幕なのか?」

 「いいや。そう、とは、限らない。あの、ネット配信の反世界政府組織のリーダ格だという、男の謎が分かっていない。」

 「あれは、やはりディ―プフェイクでは無かったか。此方も、その線で、調査していた処だ。」

 十七日前、ネットで、配信された問題の動画だ。

 政府や、マスメディアは、史畏莫国由来の最新の動画加工テクノロジーを使ったディープフェイク動画だ、最近は、こういった技術を使った詐欺や、反政府的な活動が活発化してきている。

 と言っていたが、あれは、間違いなく本人だ。

 其れは、直感でわかった。それと毅から、のある暗号で、分かった。

 「あの組織、あれは、一体味方なのか・・・。」

 「分からんが、史畏莫国よりは、ましさ。」

 工藤は、そう言って腕組みをした。

 「あの国は、完全にデジタル技術によって独裁されている。国民は脳にチップを埋め込まれ逆らう事も出来ない。恐ろしい事さ。」

 其れは、世界には公表されていないが、あの戦争で、浮彫になった事実で或る。

 「其れで、ガナーと、其の後ろ盾のアルダー国については、どうなのさ。アルダーは、何か企んでいるのか。」

 「さあな。此ればっかりは分からない。アルダーは、分断の危機にあった。其れに、近年は、力を失いつつある。かつての世界の盟主は、史畏莫に、手を焼いている。史畏莫のウイルス兵器や、デジタル監視カメラシステムによって、犯されつつあるのも、事実だ。救いの手はない。アルダーは、史畏莫に成りつつある。その中でも一部の、義勇兵くらいが、唯一の、希望さ。大統領暗殺は、案外其の為かも知れない。反政府組織は、史畏莫国に敵対している事だけは確かなのだからな。」

 アルダー国では、熱狂的な、ネット世界で流行り出した、ゲッシュと言う組織、が信仰され、その組織に支持されていた、デルダン大統領と、マネル大統領と、選挙で、マネルが、勝ち。其れによって、分断が、行われていた。

 そのゲッシュと言う組織は、非常に危険な思想の、嘘で、塗り固められた、オカルト組織で、あるが、世界中に其の信者がいると言われている。

 「ゲッシュは、この事件に関与していないだろうか?。」

 「していないだろうね。ゲッシュの考えや、思想は、似非科学によるものだ。在りもしない薬や、陰暴論を唱えている。けれど、あの、反政府組織は、本物だ。間違いなく、連続殺人をやり遂げている、其れも国家の重要人物を立て続けに殺している。」

 史畏莫国への報復か。

 首謀者の実態はつかめていない。

 様々な兵器の研究がLLLコーポレーションで行われている。LLLでは、誰もが知りもしない事実が、明らかになってきている。

 その背後にある。高校生男子自殺事件。と、其の研究成果。

 世界を変えた、七つの新技術。

 その一つ

 命の製造

 その二つ 

 神経と、デジタル回路の融合パーセプトロンの実用化

 その三つ

 完全なる人工知能による、コピー技術の確立

 その四

 核融合炉の実用化と、其のエネルギーを利用した、ブラックホールの製造

 その五

 遺伝子の解読による、古代生物の復元技術と、キメラ製造技術。

 その六

 仮想現実の実用化。

 肉体分裂による、細胞分裂は、分離した、細胞から、別の生命を造り出す事に成功した。

 その七

 エネルギー之変換による、世界システムの制御。

 永久機関の否定

 六十%のエネルギー効率の発電技術の確立。

 反物質の製造。

 粒子Nの破裂効果。

 反物質の呼び寄せ応答粒子七海の発見。

 ・・・・。

 あの世に惹かれた少年。

 「・・・。私は、何を言っているんだ。」

 誰の事を話しているんだ。

 羽子は、脳内に訳の分からない思考が流れてきている事に気が付いた。

 夢か、幻想か。

 和香・・・。

 和香・・・。

 「なんです?。羽子さん。急に倒れたんですよ。」

 「おい、語尾に、にゃを付ける癖は何処にいったんだ?。」

 「え?。何の事ですか。もう、意味の分からない事は言わないでくださいよ。」

 此処は、何処だ。病院。

 精神病棟だった。

 「私は、・・・。」

 そうだ、私は、探偵なんかじゃ無かった。

 私は・・・。

 ああ。

 思い出したくもない。

 沈んでいこう、あの世界は。

 もう、現実は懲り懲りだ。

 なあ、和香、御前は、如何思うんだ。

 なあ、もう、あの頃には戻れないのか。世界は、・・・。

 

 「おい、きいているのか?。羽子。」

 工藤は怪訝に、羽子を見る。其の目は、不安げだ。

 「、、、。ああダイジョブだ。」

 「最近は、羽子さんは、事件に追われて、一睡もしてないにゃ。」

 和香は、羽子を心配する。

 「ダイジョブ。私は、この事件を必ず解決させる。其れが使命だ。」

 あの夢は、なんだったのか。私は、どうして精神病棟にいたのか。そして、あの世界では、・・・。

 「和香。御前は、白波区で埋めれ育った、幼馴染で、大学卒業後に此の探偵事務所を最初に始めた三人の一人だ。語尾に、にゃと付ける、癖が或る。・・・。」

 「如何したんです、急に。」

 「いいや、訳が分からん。自分でもな。」

 和香の事も、志郎の事も、死んだ朱未の事だって、知っている。

 私達の絆は、本物だ。

 

 「やはり、男子高校生自殺事件は、・・・。」

 「其れは、分からない。」

 「自殺したのか。本当に。あの高校生は、何処へいったんだろう。」

 

 消えて無くなった。

 

 「LLLコーポレーションは、あの技術を利用し、悪事を働いている。」

 「そして、世界を支配しようとしている。」

 あの、事件に、テレビに、出ていたのは、誰だ。

 あの、ネット配信に出ていたのは・・・。

 毅からの、暗号。

 生体に仕組まれた、願い。

 ナノマシンから、伝わる意識。

 

 「誰だ、貴様!!!。」

 其処には、雨傘 皧が、たっていた。

 工藤は、其の小さな子供に驚いた。

 傘を差している。小さな子供だ。

 雨傘 皧、此奴が、異能の子供か。

 「其れで、事件の真相は、分かったのかな。探偵君。」

 雨傘は、傘を閉じて、意地悪そうに訊く。

 「言わんでも、様子を見ればわかるわい。」

 ギュイーン。

 「此れが何かわかるかの。」

 雨傘は、左手を持っていた。

 其れは、あの白い、にょろにょろと、蛇のように、動く、腕に似ている。

 「其れは、渋沢 栄一郎の遺体の腕によく似ている。と言う事は、朱未の腕!!!???。」

 「其処迄は、推理出来ていたようですねえ。」

 腕が、変形し始めた。

 そして、朱未の殻に変形していく。緑色の光に包まれている。その光は、強力な光を放つ懐中電灯で、雨傘が、朱未にあてていた。

 「光反応。この腕は、この懐中電灯から、出る光で、変形し、肉体を醸成していく。ほら見て、腕から、首が、生え、身体がつくられていく様子を。」

 其れは植物が、樹々を募らせるように、腕から、身体や、その他の器官が生えていくのだ。

 「ねえ、羽子、私があれ位で、死ぬとでも思った?。」

 衝撃が走った。

 朱未は、死んだはずではなかったのか。

 羽子の推理でさえ、其の不可解な現象が、何であるのか、分からなかった。

 しかし、其の数十秒後、羽子の肉体は、土の様に崩れ去り、消えてしまった。

 「失敗か。なかなか、肉体をつくりなおすのは、難しい。」

 雨傘 皧は、そう言って、傘を差して、何処かへ行ってしまった。

 「一体なんだったんだ?。」

 工藤は、興味深そうに、其の、ドロドロの、残骸を見た。

 「その中に、朱未の一部が或るのでしょう。」

 朱未の体に、何かの、細胞が埋め込まれたのだ。古代の、再生能力の異常に高い、生物の、細胞かも知れない。

 「こんな、泥の様な、ものから、も、復活できるのかい。」

 「分からない。」

 「あの、赤ん坊に、訊けばいいじゃないか。」

 「訊いて教えてもらえると思うか。探偵の仕事は、其れを解明し、推理する事だ。」

 「確かに、そうだ。」

 「其れで、此れからどうするんだい?。」

 

 羽子は、気が付いていた。

 自分が、この世界の人間では、無い事に。

 この世界は、異世界なのか。そうではないのだ。

 此れは、夢だ。

 私が、世界から、拒絶され、断絶され、精神病棟に送られ、和香や、志郎、朱未から、拒絶され、病棟生活を進められ、あの隔離部屋の中で、苦しんでいる、私の夢なんだ。

 戦争なんて、起こっていないし、何も起こってなんかいない。

 私の、脳内が、作り出した、幻想だ。

 其れを具現化する、この装置が原因なんだ。

 射瑠間が視たという装置は、其の一種だ。

 きっと、そうだ。

 あの時・・・。

 どうして、私の脳に、あの、高校生男子の思考が、流れ込んできたのだろう。いいや、違う。あの時、実験部屋の中で、埋め込まれていたのだ、チップをそして、伝えていた。

 秘密を。

 雨傘 皧は、三日月ノヨラでは、ないのか。

 此れが夢で在るとして、どうして、此の夢を見る必要があるのだ。

 そして、夢の外の世界の記憶を思い出せないのだ。

 外で、自分が何者であったのか。

 此の世界で、二十八年生きたと、いう記憶しかない。現実世界では、私は、何歳で、何をしていたのか。

 七つの世界を変えた研究と言っていたが、その他にも、隠してあった秘蔵の研究が或る。

 世界に公表されたのは、あの七つしかないのだ。

 つまり、それ以上のテクノロジーを知っているのは、恐らく、雨傘 皧と、羽子だけなのだ。

 そして、生きているとすれば、朱未だ。

 あいつが何を企んでいるのか、分からない。

 私は、あの日、あの実験部屋には、いなかった。

 朱未が、私の脳に細工したのか。

 あの日、私の、脳を汚染したのか。

 

 ベッドから、起きると和香は、驚いていた。

 「羽子さん、が起きましたよ!!!。」

 「此処は何処だ。和香。」

 「覚えていないんですか。精神を病んで、ずっと、おかしくなっちゃってたんですよ。羽子さん、ずっと、此処に闇を抱えてたんすね、気づけなくてごめんなさい。」

 何を言っているんだ。

 私には、何を言っているのか、さっぱり分からなかった。

 「私は、精神を病んでいたのか・・・。」

 「重度の統合失調症と、双極性障害を患っていて、手の付けようが、無かったんですからね。もう、大丈夫そうっすか?。」

 「ああ、全く、記憶がないんだ。ずっと、長い夢を見ていた気がするんだが・・・。」

 病室の扉が開く。

 「羽子が、起きたんだってええーーーー!!!。」

 朱未だ。

 「朱未、死んでいないのか・・・。」

 「死ぬわけないじゃーん。何言ってんの。羽子。ちょっとおかしいよ。」

 「夢の中では死んでいたんだ。」

 病室に、沈黙が流れた。

 こそこそ話がきこえる。

 やはり、未だ、羽子は、頭がおかしいのかも知れない。

 すると、志郎が、扉を開けて入って来た。

 「調子は、どうだい。羽子」

 志郎は、マルマ国に、調査に行っていたはずだ。

 無事だったのだろうか。

 「マルマ国に行っていたのではなかったのだな。」

 「マルマ国。あんな危険な、国に、どうして行く必要があるのさ。」

 「今日は、何月何日だ?。」

 「今日は・・・、2031年、七月七日だよ。」

 確かその日は、和香の飼い猫が死んだ日だ。

 そして、誓いを立てた日だ。

 何を見たんだったか。

 何かを見た気がするのだが・・・。過去に起こった出来事を夢で見ているのだろうか。この時私は、高校二年生だった。。

 「退院祝いだ。」

 町の、カフェテリアで、食事を取った。

 其の後、ゲームセンターで遊んだ。

 午後四時を回った頃、和香が黒い猫の後を追って何処かへ消えた。

 和香を探していると、工場の前に和香は居た。

 「如何したんだよ。」

 「黒が、この工場の、窓から中に入っちゃって。」

 「そりゃ大変だ。」

 「其れにしても、此処は何処だ?。あの森を抜けるとこんな処に繋がっていたのか?。地図にも載って無いだろこんな処。」

 「何の工場だろう。」

 危険を察知していた。

 何か恐ろしい感じがして、工場、から離れた。

 あれからだ、和香が、語尾に、にゃ、と付ける様になったのは。

 あの、工場で、私は、脳を汚染された。

 違う、其の前からだ。

 何処かで、私は、・・・。

 そうだ、中学生の頃、あの工場に一人で、いった事があった。

 あれからだ、あれから、おかしくなった。怖いもの知らずだった私は、あの工場の中に、入った。中には、人が居た。

 外国人だった。

 それと機械ロボット人形が、いた。

 気味の悪い実験をしていた。

 私は、つまみ出された。

 工場の中に居た、おっさん、だ。

 このおっさんは、私にいった。

 「御前殺されるぞ。さっさと出ていけ。」

 といった。

 オレンジ色のレンズの、ゴーグルを付けていた。青い作業服を着た男だ。

 その、男は、弥次郎と名乗った。

 弥次郎は、私を、大きなケースに入れて、外に連れ出すと、速く帰れと、言った。

 「ありがとう。」

 私は、お礼を言って、其の場から、走って逃げた。

 後ろで、銃声がきこえた。

 あの時、どうして銃の音が聞えたのか。

 今にして思えば、分かる。あのおっさんは、殺されたのだ。

 私は、どうして、助かったのだろう。


 「あの事件から、よく幻覚を見る様になった。」

 警察にも言えなかった。

 国家が、敵に思えた。

 味方が誰で、敵が誰なのか、分からなかった。

 私は、調べた。

 一人で、はじめた、探偵ごっこ、だった。

 あれからだ。

 あの工場。

 

  雨黙都 西奥の鳥区あまもくのと にしおくのとりくの、森を抜けた処にある。

 森は、自然文化遺産だか、何だかで、立ち入り禁止に成っていて、厳重に監視カメラで、監視されていた。

 あの日、監視されていた。

 だから、私の事は、バレている。

 そして、あの、施設は、LLLコーポレーションのもの、では無かった。

 確か・・・。

 思い出せない。

 其の組織が、今回の一連の事件の鍵を握っているのだろうか。

 

 どうして、家族が、いなく、なったのか。 

 公では、事故死と、言う事になっている。

 本当なのか。

 あの、三日後だ。

 両親の遺体が発見されたのは。

 私は、保健所に預けられた。其処で育てられた。

 学校に通った。

 高校は、名門高校に進学出来た。

 其れだけの学力があった。

 その間、私に親は、いなかった。

 和香と、志郎、朱未とは、小学生から、の友達だ。

 友達を越えた家族の様な存在だ。

 

 探偵事務所を設立する時には、付いてきてくれた。

 朱未は、警察に、なったが、私たちは、協力して、様々な事件を解決してきた。

 あの工場の中を知っているのは、私だけ。

 あの工場の存在を知っているのは、私と、和香だけ。

 私と和香は、監視カメラによって、小さい頃に、見られている。

 その時に、脳内を弄られている。

 だから、記憶がおかしい、記憶障害を引き起こした。

 如何して、組織は、私達を始末、しなかったのか。

 どうして、私を逃がしたのか。

 和香を逃がしたのか。

 真相を探るために設立したのが、赤羽和志 探偵事務所だった。

 そんな事さえ、忘れていた。

 忘れ薬である、M857薬だとか、いう薬を飲まされていたのかも知れない。其れならば、どうして、素の記憶を思い出せた。

 何か切っ掛けが、或るはずだ。あの、おっさんが、何か細工していたのか。

 あの時、弥次郎は、私に飴玉を寄越した。あの雨に、記憶を取り戻す成分が入っていたのかも知れない。

 その効き目が、十年後に発揮したのかも知れなかった。

 

 「思い出した事が、あるんだ。」

 羽子は、唐突に言った。

 「覚えているか、和香、あの黒の消えた工場の事を。」

 「何の事かニャ。」

 やはり、和香は、その事を忘れているようだ。

 やり直しの、世界には懲り懲りだ。時間が遡ったり、何度も繰り返す、世界の物語には、懲り懲りだ。

 過去には、戻れないし、やり直しも、きかない。其れが、現実だ。

 「夢で、思い出したんだ。」

 羽子は、夢で見た内容を話始めた。

 今現在生きている世界が、現実なのか、夢の世界が現実なのかは、もはや分からなくなっていた。その境界線は、曖昧なのだ。

 曖昧模糊な、世界だ。

 監視カメラは、私達を捉え、たが、私達は、捕らえられる事も、無かった。

 誰かが、助けてくれたのだろう。

 誰かが、見ていたのだろう、そして、無害だと判断して、見逃したのだ。記憶を消す事を条件に。

 其れが、羽子の推理だった。

 「ふーん。そんな眉唾ものな、話があったものかにゃ。」

 「信じられなくても無理はない。」

 「しかし、あのM857薬の存在については、渋沢 栄一郎の裁判の際に、証明積みだにゃ。そうすると、若干の信憑性はあるにゃ。・・・。只、全く記憶にないにゃ。本当に、十四年前、猫を飼っていたのかニャ?そして、工場で、恐らく殺されて、其れから、語尾にニャ、と付ける様になったのかにゃ。んー。思い出せないニャ。」

 確かに、私は、語尾に、にゃと、付ける様になった。其れが何時頃からなのか、明確には記憶していない。

 どうして、その部分だけ、覚えていられたのかもわからない。

 記憶喪失には、幾つかのパターンが、或る、私は、其の時の特定の記憶だけ、M857薬で、商況されて居たのだろう。

 猫が、いなくなった、悲しみだけが、残っていたのだろう。

 「史可乃子 黒子から、預かった、この、白い、にょろにょろと、動く、左腕だ。」

 「元をたどれば、この手の話だったな。」

 工藤は、言った。

 「此の、情報を共有する為に、あの夜、集まったのだった。其れが、あの戦争の事もあって、なかなか、話が進まなかった。」

 「此れが、雨傘 皧が持ってきた、あの腕に酷似している。あれは、右腕だった。」

 工藤の一家の科学者が、瓶に詰めた、黒色に変色した、白かった腕の残骸。

 「まるで、石油のようだ。」

 羽子は、その黒いゲルの入った、瓶を手に取り、眺める。

 「此のゲルが、生き物の欠片。なのか。未だ生きているのか?」

 工藤は、其のゲルが、ドロリドロリと、動くのを見て、言った。

 「確かに、生きている。ゲルが、動いている。自分の意志を持って動いている。生命だ。」

 此れを解析すれば、何かわかるかも知れない。

 白い腕は、相変わらず何処かへ、向かってにょろにょろと、動いているが、大きな虫かごの中に入れられているために、其処から出られない。

 「一体、どこへ向かっているのか・・・。」

 工藤 美香子は、不思議そうに、いった。

 「腕の行きつく先に、いってくるよ。」

 羽子は、その手の後を、追う。

 「私は、命を狙われている。其れは、恐らく史畏莫国の人間からだ。この事件の黒幕は、寧ろ私達には、危害は与えないと見える。」

 工藤は、腕組みをして、ぶっきらぼうに、突っ立った。

 「そうだな、そりゃそうだ。」

 羽子も、うなづいた。

 工藤 美香子には、この黒幕探しに協力する、義理は、ないのだ。

 「私の、目的は、史畏莫国の脅威から、我が一家を守る事にある。我が一家に仇を成すものは、生きては、おかさん。」

 威厳のある、一家の棟梁としての、覇気があった。

 「そこで、私は、其の黒幕探しに協力すると、同時に、史畏莫国に調査を入れる事にした。もう手は打ってある。内の特殊情報部隊の、隊長、久里ヶ幸 楓くりがさち かえでが、史畏莫国に、潜入部隊を引き連れて、調査に向かっている、 射瑠間!!!。あの戦争の後で、疲れているだろうが、其の部隊に合流し、楓と、協力し、情報を集めて来い。そして、あわよくば、史畏莫国の、悪を、裁け。」

 「は!!!。工藤家の名に懸けて。」

 射瑠間は、時代劇に出てくる忍者のように、殺到と、其の場から、消えてしまった。

 「夢じゃあ、ないのか。あのような、超人がいたのか。」

 羽子は、驚いた様子でいった。

 「ああ、あの子は、特別でね、人間の限界を越えているのさ。」

 「特別?。」

 「ああ、特別さ、身体能力が、人ではない。猛獣さ、いいや、それ以上か、虎を右手で、殴っって其の一発で、仕留めた。あれは、超人さ。うちら、は第一級兵器って呼んでるよ。古代人の血が流れているんだろうだ。」

 「古代人?????・・・。」

 「ま、詳しい事は、未だに考古学者も、頭を悩ませている処さ。」 

 「へええ。古代人のねえ。其れは、全人類の祖先にあたるのかい?。」

 「其れは、ないだろうね。なんせ、あの身体能力だ。恐らく、宇宙人か、何かだろうよ。」

 「なるほどねえ。」

 宇宙人迄、出てくると、何でもありになって終うのではないか。

 「しかし、あれさ、そのテクノロジは、残っていないのさ。分かっているのは、ああいった、ずば抜けて戦闘能力の高い、人間とは違う、知性を持った、生き物の、血が流れている、末裔が、時折生まれてくると、言う事さ。」

 「末裔が。ねえ。胡散臭い話だな。」

 「それだったら、此れ迄だって、そういった、宇宙人が発見されているはずさ。そして人体実験をされて、ニュースに、でもなっているんじゃねーのか。」

 「彼等は、其の力をコントロールできる。人間社会に紛れて、自分が他とは、違う事を自覚して過ごしている、少数の個体さ。世界人口の一パーセントにも、満たないと、言われているよ。」

 「そんな。・・・。」

 「あの、身体能力じゃ、誰も捕まえられないさ。此れ迄、捕らえられた事もない。ああやって、暗闇の中で、動物を狩って、其れを食べて辺りを転々と、過ごしているのさ。」

 悪い、人間に、捕らえられて、利用されていないのだろうか。

 裏では、売買されているのかも、知れなかった。堅い檻の中で、苦しみを受けているのだ。

 「そりゃ、知っているのは、どれくらいなんだ?。」

 確かに、この赤羽香志探偵事務所の様な、世界中から、情報の集まる、場所の者でさえ、知らない情報だ、トップシークレットの事項なのだろう。

 「学者は、彼等を、八咫烏と、呼んでいると。月兎人と、呼ぶものもいる。八咫烏は、身体能力が、高く、羽が生えている。空を飛ぶ事も出来る。月兎人は、足がっ速く、大気圏を超える処迄、ジャンプできる、そうやって、惑星と、衛星を行き来したり、していたらしい。身体は、大気圏の熱に、対応できるように、堅い表皮で覆う事が、出来る。兎の様な耳が付いて、いて、意識的に、聴覚を、高める事が、出来る。高めきると、星の裏側の、会話まで、ピンポイントで、聞こえる、らしい。ま、雑音が、煩くて、大変らしい、だから、普段の聴覚は、人より、少し、よいくらいだ。」

 「そりゃ、捕まえられないわけだ。」

 「いいや、そんな事は、ないさ。彼彼女達が、無害で、あり、人間に危害を与えない事は、知られているが、最近は、人間社会で、権力を持つように成り、戦争や、スパイとして自らの意志で、動くように、成って来た。人間が、核兵器や、生物兵器、情報革命を起こし、洋様な技術を発明したのを、見て、彼彼女達は、人間に興味を抱き、人間に紛れて、活動をしている場合が多々ある。」

 「右翼の戦闘隊長 紅 色覇や、もう、解体した左翼の戦闘隊長 中川洋子は、 八咫烏さ、そして、射瑠間は、耳を隠しているが、月兎人だ。」

 確か、射瑠間さんは、何時も帽子を被っていたが、そういう事だったのか。

 おそらく、そういった、特異な力を持った、生き物で、さえ、人類科学の急速な成長をおそれ、其の、権利を握ろうとしているのだ。そうしなければ、やられてしまうから、なのだろう。

 工藤一家は、凄いものだ。

 そのような、希少な、月兎人が、仲間に、いるのだなんて。

 「どうやって、月兎人と、知り合ったの、ですか?。」


 

 人間社会に潜む月兎人は、学校に通わない。だから、働いていない。只時々、人里に降りてくるのが、一般的だ。だが、此奴は、学校に通おうとしていた、そして、人間を知ろうとしていた。出会ったのは、山奥さ。或る遺跡の発掘をしていた。その時に、此奴が居た。人間の俺を全く、脅えていなかった。

 「優しい、匂いがする。」

 そいつは、そう言って、覚悟を決めたように言ったんだ。

 「僕を、人間世界に連れてってくれ。」

 ってんね。

 何だか、っ放っておけなくて、俺は、彼奴を、仲間にした。

 耳を手術で、切り取った。そして、人間の耳を付けた。

 あいつが、幼い頃は、耳は、人間だった。高校を卒業して、大学に行って、好きなようにさせてやった、大学では、生物学を専攻していたらしい。その後、学者になる事も考えて居たようだが、其の身体能力の活かせる、スパイに成る事を自分から選んで、今じゃ、あの有様さ。

 

 美香子さん。は、まるで、我が子の事を語るかの様に、話した。其の目は、優しかった。

 

 「その、つてで、幾らかの月兎人の、人間とも、パイプが、或る。集団で、生活する、奴らも居る。そういった、集団の長と、親交が、或る、其の御蔭で、幾らか、情報が入ってくる。奴らは、この星の裏側の事情迄知っている。其の耳で、大抵の事は、筒抜けらしい。相当高性能な、防音システムの中か、煩い場所で、無い限りは、大体わかるらしい。」

 「そりゃあ。凄いね。」

 「其れに、軍事的な後ろ盾にも、なってくれる。此方は、物資を供給している。」

 此れが、工藤一家か、噂では、法律に触れる危険物の商売を裏でしている、恐ろしい、ヤクザや、極道の一家だと、訊いていたが、普通に、いいひとだ。

 

 メリーナが、嫉妬の目で、美香子さんを見ていた。

 美香子さんは、仲間から、慕われているのだ。

 「美香子さん。御茶が入りましたよ。」

 「ありがとう。」

 メリーナは、微笑んだ。

 「メリーナ 茅野 葦夜を、呼んできてくれ、奴に、俺が、留守の間、この一家を、まとめる様に、言っておかなければならない。」

 「留守になられるのですか?。」

 「ああ、、、此れも一家を守る為さ。」

 其の、一分後、其の男は、入って来た。

 眼光の鋭い、黒髪の、目の下に隈の出来た男だ。

 葦夜は、美香子さまから、の御呼出しに、浮足だって、歓喜していた。

 美香子さま、からの、おっよびだしい・ランランラン。

 美香子が、好きなのだ。

 「茅野 工藤 葦夜 参りました。」

 「おう。よく参った。」

 「汝に命を下す。我の留守中、この一家を守り抜け。」

 「はっ!!!。」

 厳格だ。此処まで、厳格な、一家は、戦国時代に滅びたものだと、ばかリ思っていたが。此の主従関係。涙さえ、出る。

 

 「それじゃ。行きましょう、美香子さん。」

 「そうだな。此の腕の行く先には、何が、待っているのか。そして、そなたの言う、工場には、何があるのか。」

 「面白くなってきたにゃ。」

 三人は、少年少女の様に、事件の真相に、迫る、歓びを感じていた。

 腕を、頑丈な、虫籠から、取り出す。

 すると、其の白い腕が、扉の襖にぶつかり、先へ進んでいく。

 なんて、のろま、なんだ。

 腕が、速く進める様に、腕に、乗物の操縦機を渡して、其れに乗せる。

 すると、腕は、其れを器用に、動かして、工藤家の外に出てきた。

 其の乗物の後を、追っていく。

 はたから見れば、奇妙な、光景だろう。いい、大人が、小さな乗物に、乗った変にリアルの、腕が、動くさまを、追っている、のだ。気味の悪い玩具で、遊ぶ、駄目な、大人にしか見えない。

 けれど、此れが、重要な、手掛かりに繋がっているかも、しれないのだ。

 其の腕、の後をついていく。

 道路の路肩を、進み、誰も通っていないような、川沿いの道を通り、山を抜けて、谷を越えて、進んでいく。

 もう、百キロ近く、は、歩いていた。

 夜が来ていた。

 其れでも、休む事なく、腕は、進み続けるのだ。

 見失えば、あとは、無い。

 一睡もせずに、腕の後を追う三人の、大人達。

 世間は、国家首脳の暗殺や、例の戦争で、騒がしく、世も末だと、嘆いているのだ。

そんな、中、三人は、腕の後を、一睡もせずに追っているのだ。

 腕は、その後三日三晩、止まる事なく、進み続けた。

 七百キロ先に、其の場所は、あった。

 其の場所に近づいている時、なんとなく予言は、していた。

 あの場所だ。

 男子高校生殺害事件のあった、人里離れた、山奥の、研究施設だ。

 そこで、腕は止まり、大きな木の下に、止まった。

 そして、その気の麓を掘り始めた、やがて、スコップを持ってきて、掘るのを手伝う。

 すると、其処には、箱があった。厳重な、箱で、鍵が掛かっていた。

 鍵は、何処に・・・。あるのか。

 腕の人差し指が、鍵の形に変形している。

 鍵は、・・・、腕が、その役割を果たすのか。一体何が、入っているのだろうか。

 箱の中には、試験管が、入っていた。

 「試験管???。」

 其レには、コルクの様な物で、栓がしてあった。

 緑色の液体だ。

 手紙が、添えてある。

 「其れを掛けると、活性化し、成長します。」

 一体何を言っているのだろう。

 「細胞分化剤。テロメアの複製と、細胞の分化による、復活剤。緑00号。」

 腕は、其れを見つけると、一目散に、其のコルクを外しにかかった。

 まるで飢えた者の様に。

 飢餓状態の人が、食にありつけた時の様に。

 喉が渇いた時に、水を飲み干す様に、腕は、其の液体を被ると。

 其の反応は、始まった。

 全ての始まりの反応が、起きた。

 私達は、其れを見ていた。

 腕が、進化していく様を、細胞分裂を開始し、臓器を作っていく有様、を、皮膚が、造られていく有様を、見た。

 其の神々しい有様を見た。

 其の姿は、誰もが知るあの人だった。

 あの人は、やはり、生きていたのだ。

 その形へ、変化していく。

 彼女が、事の真相を知っているのだろうか、それとも、其れは、本人に聞けばいい事だ。

 この事件の真相は、この先に有るのだ。

 まるで用意されていたかの様に、其の樹の裏側には、警察服が、干してあった。

 彼女は、其れを着ると、言った。

 「やあ。久方ぶりだね。羽子、和香。元気にしてたかい。」

 人騒がせな奴だ。

 羽子は、泣いていた。

 赤羽香志探偵事務所には、誰一人も、欠けてはならないのだ。

 「此の!!!!。御前こそ!!!。もう、死んじまったかと、心配したんだぞ!!!。」

 三人は、抱き合って抱擁した。

 外は、晴れ、風が心地い、樹々の隙間から、木漏れ日が、差し、三人を照らす。

 「さあ。此処からが、本題だ。一体何があったんだ?。朱未。」

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

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