交渉と覚悟

 栄一郎は、其の、男の後を追う。

 そもそも、の事件が、A=B、B=Cならば。A=Cの様な、単純な、論理で、犯人が分かるものなのか。其処には、人間の、厭なもの、目を伏せてしまは無くては、正常な心理を保つ事のできない程の、恐怖が隠れており、その呪により、事件が、世界規模で、解決していないだけではないのか。信じていた、世界の平和の前提が崩れるのを、惧れて・・・。

 しかし、孰れにせよ、考え過ぎかもしれない。

 叙述トリックは、所々にちりばめられている。物は、云いようなのだ。此の世界であったとしても、ある種の密室なのだ。閉じた世界なのだ。開いた世界を知っているのは、神様か、何かだ。P=NPなのか、そうでは無いのかは、神の有無、云わば、世界の外側と、内側の話だ。

 この世界のあらゆる事象は、復元可能か。

 復元できない、事象は存在するのか。

 例えば、物理学で、ある法則があったとして、其の法則どうりに、計算すれば、あらゆる事象は、復元可能か。やはり、この世界が一番速いのか。この世界を再現する方が速いのか。

 ん?

 と言う事は、世界の内側とは、世界を復元しているという事なのか。世界は、外から出来たのか?。内から出来たのか?

 そうなってくると、前提条件が、違ってくる。つまり、この命題は、偽だ。

 この世界は、密室なのか。そうでは無いのか。

 箱の中なのか。

 其れとも、無限に広がっているのか。

 世界が開くとは、一体、どういった事なのだろう。

 神の有無なのだろうか。此処で定義される神は、全知全能。全知全能とは、P=NPの状態。私の頭脳の作り出すあらゆる考えや、事象を、全く同じ時間に、同じ様に、等しく再現する、物の事。世界を再現するものの事、其れが神なのか。其れとも、世界其のもの、が神なのか。

 作り出された神は、NP側だ。

 オリジナルは、P側だ。

 人間は、そんな事を模倣しているのだ。

  

 殺人的な、表情だ。此方を呼んでいる。其れは、愛ゆえか。

 怖ろしい、人間の感情だ。受け入れがたい、恐怖の感情だ。見てはならない感情だ。其れは、物質か。将又、得体の知れない。魂や、精神の作用か。

 其の、恐怖ゆえ、他者から、愛される事を恐怖してきた。真実の愛こそ、彼女にとっては、脅威だった。

 彼女は、一見無機質に思われたが、其の実は、恐怖していた。

 引きこもりの症が、気が付けば出てきていた。

 「くそっ。気が付けば、この様な、恐ろしい、症状に陥る。」

 宇宙の虚無を考えて居ると、己が恐ろしく感じられるのだ。外部の者がまるで怖くて仕方がなくなるのだ。数学の問題を考えて居る時に、ふと話掛けられると、さっきまでの自分では無くなっているのだ。其の人間が、友人や、家族だとしても、恐怖のあまり身体中が震えだし、わなわなと、するのだ。

 「っく。どうしてだ。どうしてなんだ。」

 恐怖した。

 自分に向けられる、注目が、愛が、恐怖であった。

 「僕は、僕は・・・。」

 体中から覇気が抜け落ちて、まるで、幽霊のように、薄く、空気の様に、透明だ。

 「これが、論理の世界。なんて恐ろしい世界。」

 この世界が、論理でない理由は此れか。

 他者との、繋がりの為か。其の為に言葉が存在するのか。論理だけでは、他者の恐怖に打ち勝てないのだ。

 他者を無理やりにでも、理解するには、どうしても、言葉の力が必要だった。P=NPは理想だった。分からなくてもいい。そうで無きゃ、他人と上手くはやっていけない。

 其れが、朱未の出した答えだった。

 孰れにせよ、私は、人間と言う、枠組みを、打開する事こそ、が人生最大の目的であったのだ。

 

 あの、男のジャンバーに、小型追跡装置を何とか、付ける事が出来た。そして、見失わないように、後を追う。此の追跡装置は、投げれば、衣類にくっつく、強力な接着剤が付いているのだ。朱羽香志探偵事務所の連中が開発した、物だ。

 男は、駐車場でトラックに乗って逃走する。その後を、黒い、愛用のレクサスで、追う。男の車が、この駐車場に止まっている事は、調査済みだったのだ。

 こちらもプロなんでね。あんたら、に何て、捕まえられてたまりますかって話よ。

 男は、付けられている事に気が付いた。奴も車に乗っている。

 何とか、信号の多い通りにでて、振り切ろう。

 しかし、突如として、消えた。

 彼は、文字通り消えたのだ。跡形もなく。トラックには、誰も乗って良かった。更に、追跡機の反応は、完全に消えた。

 何だってんだ。前のトラックが急に暴走を始めた事で、玉突き事故が起こった。

 「あーあっ。災厄だぜ。」

 何か、明確な、情報が必要だった。犯人に対する明確な情報が。

 警察なのに、情ない。其れが、彼の心を苦しめた。

 奴が、乗っていた、トラックに入り込み証拠が残っていないか調べる。ハンドルに指紋の二つや一つを期待していたが、その期待は、外れた。

 トラックには、誰かの腕が、入った、箱が、あった。

 「こりゃ。なんだ。」

 腕には、番号が書かれていた。091。一体何の事だ。

 其の腕は、白い透通る様な、色合いをした腕であった。

 「誰の右腕なんだろう。」

 不思議な、事に其の腕は、腐っていないのです。まるで生きているような、そんな腕でした。

 ふと、気が付いた事がありました。其の切断された右腕が、くねくねと、蛇のように、動いていたのです。更には、指が、動いて、います。関節を開いたり、閉じたり、曲げたりしていますす。

 「気味が悪いぜええ。見間違いか?。」

 栄一郎は、目をこすり、もう一度確かめます。

 やはり、間違いないのです。その真っ黒な箱の中にあった腕が、動いているのです。

 「ひえ。生きてる・・・。」

 栄一郎は、恐怖し、慄きました。

 腕が、栄一郎めがけて、襲ってきます。

 首を、掴もうと、殺そうと、確かに、殺意がありました。明確に!!!。

 栄一郎の、首を掴み、明確に、殺そうとしている。

 その、腕は、一体なんだ???。

 栄一郎は、何とか、走り出して、腕を跳ね除けて、トラックから、抜け出します。

 箱の中には、何があるのか。開ける迄は分からない。

 腕かも、知れないし、女の生首かもしれない。

 女の生首が生えている、草原を見た。

 「わあ、なんて美しんだろう。」

 生首たちは、美しくつややかな色合いをしている。

 「綺麗な髪だ。肌だ、瞳だ。」

 栄一郎は、感激した。

 栄一郎は、夢を見ていたのだ。

 其処が、おかしな世界だという事に気が付けないほどに、意識は朦朧としているのだ。

 内臓公園へ、ようこそ。

 そんな、恐ろしい看板が見える。

 「フォロワー公園、登録者数、再生回数の踊り場、そして、PV地獄。」

 此処は何処?

 「其処はねえ。ネット空間だよ。」

 「へ・・・。ネット空間???。」

 「そうだよ。人間が、私利私欲をつくす、為に創りだした。コミュニテー。なんだ、科学もへったくれもない。危険な場所だよ。」

 とても危険な、ネット空間。

 「如何すれば、抜け出せるの、ねえ。」

 「他人の目が気になるだろう?。其れがネット空間だよ。恐ろしい恐ろしい、新種の病でねえ。近頃、流行っているんだよ。」

 人々、は、何時からか、ネット空間からの評価を気にする様になった。

 「どうだい、見られているかの様な、其の、世にも恐ろしい感覚は。身震いがするだろう?。」

 仮面を付けた男が、栄一郎の肩を掴んだ。気色の悪い感触だ。身体を震わせて、慄く。

 「どうして、なんだ。僕が、何をしたっていうんだ。」

 「投稿してるんでしょ、ねえ、ねえ、ねえ、見せてよ、見せてよ、ふふふふふふふふふふふうふふふうふふふふf。何でも、しってるんだから。」

 やめて。

 やめてよ。

 もう、厭だよ。

 「やめてあげない。」

 絶対の、絶対に、やめないんだから。

 地獄のネット、少女。

 引きこもりニートの、閲覧。叔父さんの閲覧。おっさんの閲覧。叔母さんの閲覧。おねいさんの閲覧。

 「確認しました。」

 あなたの指紋から、貴方の年齢、性別まで、確認しました。

 その、指の形や、大きさから、職業を判別しました。空気の軽さ、重力の密度から、住んでいる場所を特定しました。

 「貴方は、偽れない。」

 ネット空間の中で、人々は、決して、プライシーは、漏れない。素顔は隠されていると、信じ込んでいる。

 だからこその、恐怖が必要なのだ。現実にはあり得ない、恐怖が。

 「ネットは、人間の魂を喰らって大きくなる。ネットの化け物、お化け。そういった存在が、物語が、必要なのだ。」

 インターネットサイト会社は、儲かっている。

 其れ等の管理システムに、関する、神話が必要なのだ。

 「分かっておる、全ては、フィクションなんじゃろ。」

 髭を生やした、叔父さんが、訊ねる。神様だろうか。どうやら、栄一郎の事を知っている様子であった。

 「さあ。分かりませぬ。ありそうな事でござります。」

 「うーん。分かっておるよ。分かっておる。そなたは、自分の信じる、物語を歩めばよいのじゃ。他人の意見など、耳に留めるな、真の傑作となれ、偉大な人間となれ。儂の言う事が、そなたに、成らばきっとわかるであろう。妥協するでないぞ。決して、大衆の言いなりには、成るでないぞ。そなたの、好きなようにするのじゃ。」

 其れが、覚悟だ。と、叔父さんは、云った。一体あの、叔父さんは、誰だったのだろうか。

 

 気が付くと、栄一郎は、ごみ箱に棄てられていた。

 トラックは、見失ってしまった。

 臭い、生ごみの中で、栄一郎は、考えて居た。

 「どうして、生きなきゃなんねーのかな。」

 栄一郎は、考えて居た。

 糞みてーな、世の中だ。

 右翼の何が悪いっていうんだ。

 栄一郎は、共産主義が嫌いだった。

 「この世から、共産は消えればいいのに。」

 こんな、事を言っていると、また、暗殺される。

 分かっている、御法度だ。どうだっていい。私は、只の人間だ。何主義でもない。只の死体だ。死んでいるようなものだ。

 小銭を見つけて拾った。

 馬鹿だ、手掛かりなど、要らないんだ。

 そもそも、が、密室トリックでさえ、無かった。あのトラックは、窓を介して外へ出られるではないか。自動運転システムがあるではないか。あの腕は、朱未の腕ではないか。見覚えのある腕だ。きっと、研究されているのだ。

 右翼と、左翼の戦い。殺し合いなのだ。

 新しい技術の奪い合いなのだ。

 そして、重要人物を暗殺し合っている。其れだけだ。おかしな、右でも左でもない、売国者が出てきた。あれは、、、。恐ろしい、発展途上国からのスパイか、何かか。ああいうのが、国の偉い人間に成っている。もう、此の国も終いか。

 まあ、よいわ。その様な事を言った処で、国は変わらないのだ。

 

 午後の紅茶を飲みながら、本を読んでいた時、栄一郎の死が、知らされた。八月五日の午後三時直ぎである。

 其れは、急にだった。次から次へと人が死んでいく。

 「此れは、仕方のない事だ。」

 羽子は言った。

 「奴もその覚悟で、事件の解明に挑んでいたのだからな。」

 ふと、その時、妙な案が浮かんだ。

 「仮に、正義のヒーロが、探偵が、実の悪で、まるで正義の様に、その通りな論理で、他人に罪を被せていたとすれば、一体どうだろう。誰一人真実を知ることは、出来ず、其の悪人が、正義の探偵扱いされるのだ。そして、其れが、其の世界では、認められている。」

 怖ろしい事だ。無惨な事だ。

 「百パーセント白はいない。数パーセントの黒が必ず存在する。その可能性は誰にだってあるのだ。」

 叙述トリックだ。語るものが、云っていることが、真実とは限らない。其の保障を、誰かがしなければ、世界のプロットを進める司会者が、裁判官が居なければ、この世界は、嘘で塗り固められるのだ。第三者の存在が無ければ・・・。

 

 史可乃子 黒子は、画家だ、画伯だ。

 史可乃子 黒子の絵には、潜在的な、予言めいたものが、交っている。予言と言うのか・・・。予測めいたものでは、あるのだが、彼女は、非常に頭脳が明晰であった。其の為に、彼女は、絵の中に、様々な、学問的知識が、詰まっていた。一つの絵画から、複数の、事実が、浮かび上がるのだ。

 部屋の中の、自殺と、奇怪な、少年。

 は、正に、其の予言なのかもしれない。彼女は、彼の情報を、知っていた。

 「三日月家は、そもそもが、変わった一族だった。」

 黒子は、筆を動かし、考える。

 「そうだ、そういえば、栄一郎が、死んだそうだ。」

 黒子は、栄一郎の事まで知っていた。

 「どうだい、久方ぶりの、家族は。」

 「黒子は、栄一郎の死体を眺めた。」

 兄だ。私は、結婚して、苗字を変えた。

 「お兄ちゃん・・・。死んじゃったんだね。」

 黒子は、死んだ兄の表情を見て、歓喜した。そして、筆を動かした。

 「お兄ちゃんの死体を描くよ。お兄ちゃんが永遠に成るように・・・。」

 黒子の目には、涙の後と、其の恐ろしい、程の、芸術家としての狂気があった。

 「でも、若いうちに死んでくれてよかったよ。お兄ちゃんが老い耄れていく処なんて、見たくなかったしね。」

 黒子は、筆を動かす。

 「ん・・・。この遺体。ちょっと。おかしい。どうして、腕だけ、こんなに、色白なんだろう?。」


 私は、栄一郎を殺した。

 殺した筈だ。

 しかし、商品を、トラックに忘れるという、へまを、した。最悪だ。

 腕を忘れた。

 此れで、私は、間違いなく、消される。其れが。この組織の習わしだ。

 まあ、よい。死んだ処で、何も変わりはしない。この世界は、終わりへ近づいているのだから。

 おかしな、アルバイトもあったものだと、思った。時給一千万と、書いてあった。其れを見つけたのは、ネットで、架空請求か何かの一種で、画面にポンと突然現れた。

 私は、其れをクリックした。

 すると・・・。

 「おめでとうございます。貴方は、此のバイトへの、参加権を得ましたと出ていた。」

 その後、登録を済ませると

 銀行口座には、一千万が入っていた。

 しかし、其れは、恐ろしい、仕事だった。其の実は、闇だった。

 あの腕は、実験で、造られた腕らしい。奇妙な腕だが、とても重要な、腕で、世界が此の腕を狙っているという。

 その、黒づくめの、男は、私に、云った。

 「その、腕の運搬だ。御前の様な一般人が、腕を運んでいるとは、誰も考えないだろう。」

 永遠の実験だ。と、男は、云った。

 私は、承諾した、確かに御金は、振り込まれていた。二日働いた。二日で、一億六千万一億六千万円稼いだ。其れで、いい気になっていたのだ。三日目に事件は起こった。

 爆破事故に巻き込まれたのだ。

 巻き込まれたというより、あれは、狙われていたといってもよいだろう。私は、予め用意、されて居た、プランで、トラックを爆発させた。

 後は、トラックから、抜け出して、逃げて、別のトラックに乗り換えれば、いいだけだ。

 この煙の中では、誰も私の姿には、気が付けない、煙玉を投げたからだ。

 そういった計画だった。なのに、あの、栄一郎とか、云う、男・・・。付けてきていた。いいや、張り込んでいやがった。 

 そして、あの、女だ。

 あの、取引上で、あの、暴力団の棟梁の女 工藤 美香子は、私を狙っていた。その後を、あの栄一郎とか、云う、のが、追っていた、尾行していたと、でも言えばいいのか。

 美香子の乗っていた、トラックの方は、私が、爆破させた。あの時、トラックは、二台爆発している。

 しかし、どうだ。あの煙の中で、あの栄一郎とか、いうのは、よく、私の後を付けて来られたものだ。恐ろしくって、つい、腕を忘れてしまった。

 其れが、最後だ。

 今、あの腕は何処にある?。

 

 奥村 和香は、猫なのか?。

 和香は、時折、自分が猫なのでは、ないか。と思う事がある。

 猫じゃらしを見ると、つい、手が出てしまうのだ。動くもの、を見るとつい、目で追ってしまうのだ。

 和香は、塀の上に、飛び乗り、歩く。一メートルは、ある塀を、ひょい、と飛び乗る。そして、その体幹で、細い、塀を歩いて行く。

 まるで、忍者のようだ。

 此れが、彼女の日課である。

 彼女には、世界は、何処迄も輝いて見えた。殺人事件の中でも、彼女は、其れをたのしんでいた。無邪気な子供のように。

 「どうしてかにゃ。どうして、簡単に死んで終うのかニャ。」

 和香は、悲しそうに、栄一郎の遺体を眺めている。

 「けれど、この遺体変だにゃ。」

 和香は、その遺体の奇妙な点に気が付いた。

 「うーん。そうだな。確かに、変だ。」

 黒子は、答える。

 「此の腕だろ?。」

 「そうだにゃ。」

 其れについては、羽子の奴も、いっていた。事だ。

 「腕だけ、付け替えられたような。そんな奇妙な遺体だにゃ。」 

 「そうだろう。そうだろう。奇妙だろう。」

 美香子は、そう言って、煙草を吸い始めた。

 「兄貴は、殺されたんだ。事故に巻き込まれたんじゃあない!!!。」

 美香子は、そう言って、テーブルに、拳を打ち付けた。

 「その気持ちが解らんでもないが・・・。あれが、事故で無いとして、一体何なんだ?。」

 「奴は、犯人の手がかりを得たが、途上で見つかり、始末された。と考えるのが妥当だ。」

 栄一郎は殺された。

 「と言う事は、やはり、あの、女。暴力団の棟梁 工藤 美香子が、怪しいか。」

 工藤 美香子。あの日、栄一郎が尾行していた、女だ。

 「しかし、美香子の乗っていた、トラックも爆発した。」

 「一体どういう事だ。」

 「わからない。」

 

 「っ痛いぜ。彼奴う。此の俺が、爆発事故なんか程度で、死ぬと思ったかああ!!!。」

 工藤 美香子は、火傷した、肌に巻かれた包帯を見る。

 「美香子さま。じっとしていてください。」

 看護人のメリーナが、包帯を巻く。

 工藤一家に逆らうとは、あの、男、覚えて置けよ。

 あの、男。使いぱしりかも、知れぬ。その線も濃厚だ。あれは。組織的犯罪だと、いう結論に至ったではないか。

 あの男は、誰に雇われた。

 百円ショップ爆破事を起こした組織は、右翼による、攻撃だろう。百円ショップの店長が、売国者で、外国人を多く、店に居れていた。そして妙な組織をつくっていた。其処迄は、此の、工藤一家も調べがついている。

 そして、東雲通り の町長殺害事件。此れは、左翼による、犯行だ。あの町長は、史畏莫国に対して、反抗的であった。あの考えが、左翼の反感を買って、干されたのだ。そして、奇怪な殺人事件となった。

 マーマーレード通り皇族殺害事件、内閣総理大臣殺害事件へと、左翼の反日輪国勢力は、犯行を過激化していった。そんな折に起こったのが、世界各国で、の、権力者の殺害事件である。

 「混沌した、世の中に、成ったもんだ。」

 「近頃は物騒ですからねえ。工藤さま、如何か御気御付けください。貴方も、狙われているでしょうから。」

 どうして、私が狙われなくては、成らない。確かに、核放射物の密貿易や、麻薬取引、などの犯罪で、利益を得ているが、バレなければ何の問題もない。 

 「メリーナ。温かい、卵とじ野菜、鳥ガラスープを出せ。」

 「分かりました。」

 其れを啜る。

 「分かっておるだろうが、御前、自分の国に帰るつもりか?。」

 「いいえ。あの国に未来はありませんよ。」

 メリーナは、この国の人間では、無い。発展途上国で育った、女で、何も知らないバカだった。が、其の目が気に入って買った。売られていたのだ。こういう、仕事をしていると、人間の売買なんて言う事にも、よく、出くわす。

 「お前は、幸せか。」

 「はい。幸せですとも。」

 おそらく、此の女。別の人間に買われて居れば、奴隷の様に、不当な扱いを受けていただろう。

 「お前は、賢い。其れに、優秀だ。此の国の馬鹿どもよりずっとな。危機感がある。平和ボケがない。其れなのに、絶望はしていないようだ。何時か、必ず、見返してやるといったような、野心を感じた。そう、其の目だ。いい目をしている。若い頃の、私そっくりだ。って、未だ私は、三十歳だがなあ。ははははは。」

 美香子は、笑った。

 メリーナが生まれた国。ザンボラ国は、或る政治団体による、独裁政治により、不当で、無慈悲な高額税金と、税金を払えないものは、商品にして売ると、云う、余りにも非人道的な、政治体制を取った国であった。

 言うのも、気分が悪くなるがは、奴隷は、発展途上国では、平然と売られている。

 メリーナは、此処に来る前、其の身体をほしいまま、に、飼い主に、犯され、鞭打たれ、散々な扱いをされてきたそうだ。身体には、その痣が残っている。

 「ま、私にあ、奴隷を助ける力もないんだがねえ。何時かは、こういった非人道的な商売を辞めさせれればと思うよ。」

 メリーナは、麻薬取引をしている奴が、よく言うといった表情をした。

 「人間は、高値で、売れるんだがね。いい商品だよ、けれど、御前の様な、優秀なやつもいる、其れは、如何も助ける必要が或る。人間には、二種類あるようだ。」

 美香子は、分かっている。如何しようもない、クズ人間がこの世にいる事を。

 「生まれが悪いだけで、可哀そうな物さ。此の権利の認められた日輪国の中では、奴隷以下の、クズ政治家や、悪人が、うじょうじょ、してるってのによ。」

 メリーナは、思い出すのも、憚られる。奴隷時代を思い出し。頭痛に苛まれた。此の話を聞くと、鬱病患者の様に辛い気持ちになる。

 「どうした?。メリーナ。」

 「ちょっと・・・。頭が・・・。」

 美香子は、察したようす、で

 「ああ、悪かった。此のことは言わない約束だったな。」

 メリーナは、精神安定剤を飲んだ。

 「私は、もう、あの頃の私とは、違います。自由を保障された、日輪国の人間です。工藤 芽理菜です。」

 國を捨てた女だ。貿易船に紛れ込んで、此の日輪国までやって来た女だ。

 

 私は、奴隷じゃない。私は、もう、自由なんだ。美香子さんが、借金も全て返済してくれた。美香子さんは、私の自由も保障してくれた。そして、日輪国の国民になったのだ。

 だから、私は、学校に通った。

 だから、私は、平和を知った。

 だから・・・。私・・・。

 

 メリーナは泣いていた。

 美香子さん、が死ぬような事があれば、どうだろう。

 彼女は、何時だって私を肯定してくれた。どうして彼女が私にこうまで親切にするのかが分からなかった。私の目が好きだといった。私の態度が面白いといった。他の奴隷とは違うようだなと言った。

 不思議な人だった。人を惹きつける何かのある人だ。

 メリーナは、考える。もう、二十歳になっていた。親の愛情を知らない、メリーナに、愛情を与え育てたのは、此の、美香子だった。

 美香子は、メリーナの親代わりになったのだ。そして、我儘を教えてくれた。欲張りを教えてくれた。人間として、当然持っている感情を教えてくれた。

 知らなかった。あの切望の国に居た時は。

 けれど、私は思う。何時か自分の国を取り戻せられればと、其れは、美香子さんには、内緒の話だ。どうしてだろう、此の日輪国は、いい国なのに、どうにも、あんな糞みたいな国でも、ザンボラの、草花や、建物、自然、海が、懐かしい。

 日輪国の人間で、ありながら、やはり、ザンボラの人間なんだ。と、メリーナは思った。

 ザンボラ人は、反日輪国勢力でも無ければ、何でもない。奴隷の様に、先進国家に、奴隷を売ったり、国を売ったりしているだけだ。土地の殆どは、先進国家の手に渡っており、実質、支配されている。工場の管理者や、プランテーションの管理者は、大抵が、異国の人間なのだ。

 不当だ。

 屈辱だ。などと、思うものは、殆どいない。誰もが諦めている。けれど、私は、諦めなかった。許せなかった。こんな境遇である事が、そして、貿易船に乗って、日輪国に亡命した。

 其れがみつかって、商品にされる処だったのを、偶然、奇跡的に、美香子さん、に買って貰えた。美香子さんは、懐から、五百万をだすと、商売人は、

 「旦那さま。分かりやした。此れで、此奴は、旦那さまの者ですぜ。」

 と言った。

 此れで、私は、この人の、もの、にされると、恐怖していたが。美香子さんは、私を不当に扱う事は、無かった。私を育て上げて、一流の暗殺者に、一流の暴力団幹部としての実力を、此の国の事を世界の事を教えてくれた。まるで親のように。

 今だから、こそわかる。私は可哀そう、な子だったのだ。御飯も碌に食べさせてもらえない程の可哀そうな、子だったのだ。

 こんなに、美味しい食べ物がある、と言う事さえ知らなかった。

 人が温かいという事さえ、知らなかった。

 けれど、今は、暴力団の幹部だ。誇りと、威厳、権力を手に入れた。

 ある日、ザンボラ国が、或る先進国家に、壊滅させられたと、、いうニュースを見た。あれから、ザンボラ国の事が心配だった。

 人口知能と、ロボットにより、奴隷の価値、が下がってきた今日。奴隷商売は、衰退し、ザンボラ国の、支配層の人間も、頭を悩ませていた。其処で、あの悪魔の同盟を結んだのだ。実験動物として、ザンボラ人を、外国に売り渡す、魔の同盟だ。

 ザンボラ国民は奴隷処か、もはや、先進国の実験動物として、飼育されている。

 私、は、ザンボラ国の自然は好きだが、ザンボラ国民は嫌いだ。ザンボラ政府のやり方も嫌いだ。何時かは、ザンボラ国の政権を倒して、あの国を取り戻すのだ。

 メリーナ、は、そんな事を考えて居たが、現状、不可能である事は分かっていた。暴力団の幹部とはいったものの、其処迄の国を動かせる程の権力も、御金も力もないのだ。

 そんな折、に、あの高校生の殺害事件、その偉大な発見が明るみになった。

 其れを見て、メリーナは歓喜した。

 美香子は、其の事件より、直ぐに情報を集めた。そして、取引した。其れにより、彼女は、知った。世界情勢が変わりうる程の強大な、軍事力を、科学力を。

 「其れが、あれば、実質、世界を支配したようなものだ。」

 と、美香子は、云った。

 

 世界を支配する、とは、例えば、どういった事だろうか。完全に世界を支配する事など出来るのか。未だかつて、世界征服を成し遂げた者は、いなかった。

 「どうして、世界征服は、不可能なのか、わかるか?。」

 人類学者問いかける。

 「どうしてか・・・。云うまでもない事じゃ。其れは、人類がそう選択しておるのだ。全員が賛成する世界などいらん。其れでは、種が滅びてしまうわい。」

 大学爆破事件が起こったのは、あの授業の途中だった。

 突然。教授は、呻きだして、其の禿げた頭をした、教授の痩せた顔が膨らむ、風船のように、歪む、そして、癌細胞が増殖する様に、肉が、其の教授の肉が教室を埋め尽くさんとしている。

 そして、教授は爆発して死んだ。私は、咄嗟に、危険を感じ取って、窓から逃げた。

 そして、爆風にされされたが、何とか、巻き込まれる事は無かった。総勢、百人程の生徒や、研究者、学者が死んだ。

 どうして、爆発が起こったのか、知るものは、いない。何故ならば、人間爆弾だったからだ。爆発の原因が確かめられず、未解決事件として有名だった。

 私は、其の真相を知っている。二年前の あの日、確かに、あの教授 牧内 太郎は、爆発した。

 アレによって、私は、放射能を幾らか浴びた。あの人間爆弾、放射線を放出するようだ。一体どういう原理なのか、全く見当がつかなかった。

 

 私は、ザンボラ国の、実験テロ体だ。

 ザンボラ国では、人間爆弾の製造を行っている。子供を、先進国を送り込み爆発させて、軍事的な脅威を作り出そうとしているのだ。もはや、ザンボラ国も、その周辺の途上国も、自棄が回ったらしい。

 生れてくる子供は、直ぐに核爆弾にされる。そして、其れを海外へ送って、先進国を脅すのだ。

 幾らかのザンボラ人は、先進国の実験動物という名目で、臓器を売っている。臓器売買だ。健康なザンボラ人や、周辺の国の、臓器は高くで買い取りされて居る。実験場では、ザンボラ人が飼育されている。再生医療や、ウイルス研究を、マウスでは、なく、人間を使ってしているのだ。

 私も、何時、死ぬのか。何時、先進国家に送られるのか、分からない。

 テロの道具に使われるのだ。証拠のでないテロの。

 私は、国籍も無ければ、人権もない、ザンボラ人なのだから、こういった、最下層のザンビア人は、送り込まれるのだ。

 

 羽子と、和香は、工藤 美香子の素性を調べて居た。

 「どうやら、工藤 美香子は、あの爆発から逃れられたみたいですにゃあ。」

 「そうらしい。な。その証拠に、工藤一家は、何時も通だ。それどころか、奴らもこの事件徹底的に調べ出しているようだぜ。近隣で、栄一郎の事を聞きまわる奴がいるらしい。其れと不可解なのは、トラックに乗った黒い服の怪しい男の噂だ。どうも、臭い。」

 羽子は、此の男がこの事件の鍵を握っているので無いのかと睨んでいた。 

 「ま、どんな男かもわからん。全て噂ばなしだ。」

 工藤一家は、如何やら、其の黒い服を着た男の素性を追っているらしかった。

 羽子と、和香は、此の工藤一家へ、乗り込み、直に、工藤 美香子から、話を受けようと、いう算段となった。

 その間、神崎 志郎殿は、別の案件で、調査をしていたそうな。

 其れで、此の時、志郎は、ありませなんだ。探偵事務所には、ありませんで。別の案件で、アテリー国のロルマンゼノス銃撃魔事件の調査をしておりますた。

 そういった訳で在りやして、此のあと、二人で、工藤一家に乗り込んだでありやす。

 

 「ごめんくださーいい。」

 羽子が大声で、語り掛けます。

 「ごめんくださーーーい。」

 門の前で、叫びます。呼びます。

 豪華絢爛で、荘厳な、二重門で御座います。キラキラと輝いております。金箔で御座いましょうか。銀箔で御座いましょうか。そして、その門の横には、三メートル程の塀で囲まれております。桧や、松、が、その塀の外から見えます。何て大きな、樹なのでしょう。五メートルはありそうです。

 入口は、東西南北に四つありますが、二人は北門に居ました。北門の二重門の場所にいました。

 門から、人が出てきました。

 門番だとかいう、人です。

 「何の用かね。」

 と、聞いてきます。

 凄く、強靭な肉体をしているのが、其のスーツの上からでもわかりました。がっつりと、した身体つきでございます。

 そして、その威圧感ときたらもう・・・。見るものは、恐ろしくて逃げかえる程のモノでしょう。

 しかし、

 「工藤 美香子殿に、お会いしとうて、参った。」

 羽子は、はっきり、とそう申し上げます。

 「ほう。其れは、無理な願いだ。話だけは、通してやらんこともないが、羽子様は、お忙しい。」

 「其れでは、ふむ。どうしても駄目かの???。」

 「うむ。近頃は、特に、忙しいらしく、外せない用事あるのなんのって、だから、ねえ、難しいねえ。」

 「うむ。承知した。では、此れを、美香子殿に、渡しておいては呉れないか?。」

 羽子は、要件を簡潔に書いた、書簡を手渡した。

 「うーん。通るかは、分からんが、事務には渡しておくよ。」

 「ありがとう。」

 

 二人は、落胆して、手紙の返事を待っておりますれば、

 其の二日後

 手紙を拝借した。八月十日木曜の午後二時過ぎ、でどうだろう。待っている。と、書かれた手紙が、返ってきました。

 すぐさま返事を書きまして、二日後、その手紙をもちて、工藤一家の北の二重門へ、行きました。

 「おめえら。美香子様と、話が出来るなんて、凄いな。あの方は、遠いお方だ。私なんぞは、見た事しかない。口をきいた事は、一度もないのだぞ。」

 「此れでも、有名な探偵でしてね。」


 門を通り、中に入ると、其処は、広い庭が広がっていた。さすがは、工藤一家だ。

 工藤一家は、二千坪の土地を持っている。其処に、百坪程度の豪邸が、三つ立って居る。まるでお城のようだ。池や、森のようなものが庭にはある。動物が放し飼いに成っており、寅や、ライオンが、飼育されいる、動物園のような場所がある。珍しい動物を集めて管理しているのだという。

 

 工藤 美香子が、云っていたのは、此の巨大な土地の中にある、三つの館、函和館、山城館、城山間の内、函和館の、中の、千住の広間だと言っていた。

 函和館は、黒塗の建物だ。燃えない、ガラスコ―テングをされた木で出来た、豪邸だ。

 玄関では、係の者が、受け付けをしていた。家の中に、受け付けがあるのだ。其処で、要件を伝え、それが通らなければ、此の広間のロビーから先には、いけないのだ。

 防犯カメラが作動している。

 「美香子殿に用事があって、証明の書簡だ。」

 美香子からの手紙を渡す。

 「お待ちしておりました。六階の、天守にて、お待ちしております。」

 其の、受け付けの男は、畏まって、一礼をした。

 礼儀の出来た、人間だ。さぞ、此の工藤 和香子と言う、のも、出来た人間なのだろう。

 広間に入ると、其処の、畳の一番奥の、上座の渓谷の墨絵が飾られてある、場所に右ひざ立てて、手を其の膝に掛けて、不敵に、待っていた。

 「よう。てめえ、が、九条羽子か。噂には聞いていたよ。数々の難解事件を解決した探偵だってね。俺は、工藤 和香子 此の一家の棟梁だ。」

 「はじめまして。お目にかかれて、光栄です。」

 「何言ってんだ。俺は、そんなに偉くねえよ。おめえさん、の話に興味があってね。何でも、あの死んだ、渋沢 栄一郎の 友達だったそうじゃねえか。俺は、そいつに付けられてた、其れで、別の事件に巻き込まれて死にかけた。」

 「わかります。あの日の事は、覚えています、確か、栄一郎は、此れ迄の不可解な事件には関連性があると考えました。単に無作為に、権力者を狙った犯行では無いと、見抜いていました。」

 そうだ。あの日。栄一郎は、云った。

 此れは、此れから始まる更なる悲劇の序章に過ぎないんだ。恐らくこれは、組織的犯罪で、右翼と左翼の紛争だ。そして、其れは、世界を巻き込んだ。あの、・・・。あの、恐ろしい、研究によって。

 と、いっていた。何の事だかさっぱり分からなかった。

 が、云える事は、あの日、栄一郎は、此の美香子が、狙われると分かって、尾行をしていたという事だ。あの日だけではない、必ず美香子が狙われると、確信をもち、此の一週間張り込みをしていた。其の事は知っていたが、まさか、別の、勢力の人間に殺されるとは・・・。

 「美香子さん。どうして、狙われていたのですか?。」

 「そりゃ。恐らく、武器だろ。うちらは、核兵器を所持している。バレれば、逮捕だがな。秘の研究施設で、場所は言えないが、其処で、研究して、完成させたものが或る。此れは世界に取っちゃ脅威だからなあ。」

 あの、赤ん坊も、何か、そのような、事をほざいていたような気がする。

 「まあ、其れだけじゃ、ないだろうね。私が、あの、おぞましい研究の事をしっていたから。其れが、バレたから、と言うのが、恐らく本音だろうがね。また、殺しに来るさ。何て言ったて、あれは、世界にとっても、隠さなくてはならない、重要事項だからね。」

 「其れは、一体・・・。」

 「君には、云えないよ。君は、探偵だろ。其れに、此れは、世界を変えた。表面的には、未だ誰もそのことには気が付いていないが、一部の権力者や、政治家、財界人、その他の力あるものは、其れを奪い合っている。」

 何の事かさっぱりわからない。

 「ヒント。は、あの高校生自殺事件さ。」

 分からない。全く、確かに、あの事件は、衝撃的では、あった、世界を革新させる技術が、詰まっているだとか、と、テレビは言って報道していたが、結局、何一つ変わらなかったし、事件の詳細は、全く国民には知らされなかった。あの事件が一体なんだというのだろう。

 「探偵なんだろ。検討はつくはずだ。あの事件のあと、国際状況は一変した、国民は知らないさ。あの技術が世界を変えられるだなんて、分からないどころか、教えてはくれないのだから、ニュースやテレビで報道された、技術は、その高校生の発明し、発見した技術や、法則の方程式の本の一部に過ぎなかった。もう、ピンときただろう。」

 つまり、美香子さんは、その事に気付き、直ぐに情報を集め、隠蔽されるまでに、その技術の情報を得たという事か・・・。

 驚愕の色を浮かべた。

 「そういう事だ。」

 美香子は、ニッと笑った。

 確かに其れならば。今回の事件も納得がいく。恐らく、栄一郎は此のことに気付いていたのだろう。あの男は、あの事件の捜査をした、と以前言っていたからな。

 今は、もう・・・、死んで終ったが。

 「其れで、敵は、誰だ。って事だ。敵は・・・。右翼でも、左翼でも無かった。確かに彼奴らは、技術の奪い合いで、攻撃をし合っている、総理を殺し、皇族を殺したのは、云うまでもなく左翼だ、外国人太子を殺し、外国人労働施設を爆破したのは、右翼だ。しかし、事件が不可解と成り始めたのは、大統領殺害事件、そして、史畏莫国、独裁政党代表殺害事件あたりからだ、外国人の首脳が相次いで殺害された。」

 美香子は、羽子を見た。

 「そうだ、恐らく、技術の奪い合いは、国際問題に迄発展している。つまりは、赤と青だ。」

 「ああ、赤と青の戦いだ。そして、第三勢力の人間爆弾だ。」

 羽子は、思った人間爆弾とは何なのかと。

 「人間爆弾???。何ですかそれは。」

 「ああ、そうだった、日輪国の人間が、此のような、物騒な言葉は知らないのも、無理はないな。」

 と、美香子は、手を振った。

 「ありゃ、恐ろしいぜ。原理は未だわかってねえが、人体を破裂させる爆弾らしくてなあ。何でも、発展途上の反先進国の国家が、開発した爆弾らしくてな。」

 「ほう。」

 「水素爆弾並みの威力が或るらしいんだよ。此れが、人間が、膨らんで、爆発するんだ。其れを途上国では子供に背負わせる。」

 怖ろしい事だ。

 「其れを軍事的背景に、第三勢力も力を付けてきているんだ。」

 そう言えば、神崎の奴は、マルマ国に、情報収取に行っていたが無事だろうか。

 そこで、緑の髪をした、肌の茶色い、目の大きな、女がお茶を持って、広間に入って来た。

 「御茶と、御菓子をお持ちいたしました。」

 「ご苦労、メリーナ気が利くな。」

 「ありがとうございます。」

 メリーナ・・・。外国人だろうか。

 「あの子は、元奴隷でね。今は、違う、よ日輪国に寝返った。」

 「ああ、そうですか。奴隷なんて、本当に存在したんですね。」

 「そうだね、あんたらは、知らん方が幸せかもしれん。途上国は酷いもんじゃ。」

 と、美香子は、残念そうにした。悔しがっていた。このような、美香子の姿は、初対面の羽子や和香にも、衝撃的であった。

 「難しいもんだ。民族問題ってのは。あの、可愛いメリーナでさえ、本心では、自分の国の方が大切だと、思っているかも知れない。彼奴は、国籍は、日輪国でも、純粋な日輪国民では、ない。本人の前では言ってはならないがな。差別されて当然なのさ。だから、私が変わりに育ててやった。彼奴が未だ十にもならない頃から、育ててんだ。今じゃ、優秀なうちの、幹部さ。」

 どうも、訳アリらしかった。

 「へええ。そりゃ、難しい問題ですねえ。」

 「ああ、難しいよ。全くにね。」

 メリーナ、確かに見どころのある、女ではあった。

 「なあ、あんた、奴隷についてどう思う?。」

 美香子は唐突に聞き出した。

 「奴隷か。私は、嫌いだね。奴隷なんて、ゾッとするよ。」

 「そうだね。俺も嫌いだ。人間兵器も嫌いだ。もし仮に・・・。を考えるとぞっと、するよ、自分が奴隷にでもされればと考えるとね。」

 「ああ、絶対奴隷にだけは成ってはならないな。其れに、奴隷自体禁止するべきだ。此の国や、先進国家がそうであるように。」

 「ま、現実は、そうは行かないがね。いずれ、力が付けば、何か、奴隷を助けられないかとは、思っているが、役不足さ。其れに他国の俺が、関わった処で、国は何も良くならない。」

 「自国の人間が立ち上がり、政府を打破しなければ、意味がない。」

 「その通り、その道理が、よく分かっているね。あんた。気に言ったよ。」

 そう言って、美香子は、握手を求めた。

 羽子は、その手を取って握手し返した。

 「御前とは、長くなりそうだ。此の事件が解決するまではな。情報交換相手だ。同盟を結ぼう。」

 

 其れから、幾らか話をする、内に、栄一郎の遺体のありかについての話になった。

 栄一郎の遺体は、彼の妹が、所持しているらしい。

 栄一郎の遺体から、何か情報は得られないかと、次は、栄一郎の妹の家に行く事となった。

 

 

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る