ケース2 研修中の先生の卵


 「こんにちは」


 建付けの悪い扉を開いてやって来たの眼鏡をかけ卸したてのリクルートスーツに身を包んだ青年だった。


「あら、いらっしゃい」


 アンジェラがいつも通り椅子に腰かけたまま艶めかしい脚を組み対応する。

 一見尊大な対応に見えるが彼女にその気は一切ない。

 誰に対しても媚び諂わない、これが彼女のスタイルだ。

 青年も特に気にする事無く前へ出る。


「私はこの占い館の主アンジェリーナよ、今日はどういった要件で?」


「この占い館は相談者を必ず幸せにするという噂を聞きました、どうか私も導いてはくださいませんか?」


 真新しいスーツに丁寧な物腰……アンジェリーナはある職業を思い浮かべる。


「あなた公務員? そのスーツの着慣れていない感じ……研修中なのかしら?」


「わかりますか? 凄いですね……はい、あなたのおっしゃる通り私は公務員を、教師を目指しています」


「そう、では詳しく聞かせてもらえるかしら」


 アンジェラは煙管きせるに火をくべひとふかし、煙をくゆらせながら訪ねる。


「はい、それで相談なんですが、今現在私はとある男子校で教育実習中なのですが私が教壇に立って授業をしていても誰も目もくれずしゃべってばかり……暴言は飛ぶわスマホをいじったり中には早弁をする生徒もいる始末……しっかり生徒たちに授業を受けてもらうにはどうしたら良いでしょうか?」


 青年が相談内容を言い終わる前からずっと彼を観察していたアンジェリーナは突然席を立つと何も告げず奥の部屋へ入っていってしまった。


「あの、ちょっと」


 青年は困惑気味だ。


 数分後、アンジェリーナが紙袋を下げ戻ってきた。


「その問題を解決したいならこれを使いなさい」


 青年は渡された紙袋を覗き込み仰天する。


「こっ、これは……!!」


「あなたが本気で教師を目指すならこのくらいの羞恥、耐えられるわよね?

 出来ないのなら教師になるのは諦めるのね」


 アンジェリーナの冷たい視線が眼鏡の彼を貫いた。


「いえ!! 私は絶対に教師になりたいんです!! 見ていてください!!」


 眼鏡の青年は紙袋を胸に抱えるといそいで館を出て行った。





 数日後。


「こんにちは!!」


「あら、あなたはこの前の……」


「はい!! 晴れて教師になれましたのでそのご報告に参りました!!」


 アンジェリーナの目の前にはサラサラロングヘアーの眼鏡の美女が立っていた。

 紺色の女性用スーツに身を包んだ彼は、胸ははち切れんばかりの巨乳、タイトのミニスカートからはデニール値の低い肌の色が微かに透けて見えるストッキングを止めるガーターベルトが露出している。


「私が言うのもなんだけど随分と見違えたわね」


 普段ポーカーフェイスのアンジェリーナも僅かに眉が動く。


「はい!! 頂いたスーツに合うように色々研究しましたから!!」


 さすが教師の卵、女装に対しても研究に余念がない。


「この女装で教壇に立ってから男子生徒たちの視線は全て私に集中しました、

 その生徒たちの絡みつく様な劣情丸出しの視線を浴びるうちに私も気分が昂ってしまい、ついスカートのスリットからわざと脚を出したりして……おかげで生徒の学力は向上しました

 今度生徒たちがホテルでお礼の会を開いてくれるっていうので今から楽しみです!!」


 上気し、恍惚の表情で虚空を見つめる眼鏡教師。


「納得ずくならいいけどお幸せに」


「はい!! 私、とても幸せです!!


 アンジェリーナは自身が予想したより斜め上の結果を導き出した彼の行く末を案じるとともに祝福の言葉を贈るのだった。


 そう、ここは魔女のいる占い館……相談に訪れた者は必ず幸せになるという。

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