13・もやもやするばかり
誰もが、円環の事をあたしに隠そうとする。
でも、それがあたしとエドガーの為だとまでシャルムさまに断言されてしまっては、なんか知るのが怖くなってきた。エドガーに直接聞いてみようかという気も、ちらっと心によぎったけれど、なんだかそれはとても良くないことが起きる予感のようなものがして、やめておいた。
円環って、要するに輪っかの事だよね。あたしは色々想像してみた。教会で見た絵画には、天使の頭の上には輪っかが浮かんでいたけれど、実際には、輪っかがあるのは高位の天使さまだけのようだ。エドガーやシャルムさま、レガートさまやカステリアさまにはあるけれど、あたしにはないし、マニーさんにもない。
もしかしたら、円環の儀、っていうのは、あの輪っかを王様に相応しい、もっと立派なものに変える儀式、とか? それで、エドガーは王様になる? その為に、それまでに結婚しなければならない? いや、でもそれだと、あたしが知ってはまずい理由は特にないような気がする。
あーもう、考えてもわかんないっ!!
……という事で、とりあえずあたしは考えるのを諦めました。
『時が来れば、全ては自ずと明らかになる』とシャルムさまも仰ってた事だから、せいぜいその時が来たらビックリドッキリしてみましょうか。みんな、エドガーを敬っているし、あたしにも随分優しくなってきた。だから、エドガーにもあたしにも、悪い事な訳はない。そんな風に、あたしは自分を納得させた。……自分をうまく誤魔化した、と、後で思い知る事になるとは、思いもしなかった。
―――
あたしは、会う度にどんどんカステリアさまの事が好きになっていった。高慢ちきな女だと最初の頃に思っていたのが嘘のよう。多分、エドガーが嫌っている様子だったので、それがあたしにも影響してたのもあるかも知れない。
カステリアさまは子どもの頃からずうっとエドガーの事が大好きで、エドガーが何年も怒っていたものが普通の態度になったのが、どうも嬉しくて仕方ないみたい。事あるごとに、あたしのおかげだとお礼を言われる。
だけど、昔あった婚約話の事には触れたがらない。あたしが、『エドガーとカステリアさまはお似合いでは?』というような事を言うと、途端に哀し気になってしまう。
「もう、終わった話です。エドガーさまはわたくしを許して下さったけれど、わたくしを愛して下さる事などあり得ません」
なんて、何故にそんなに弱気??
あたしは思わず、
「そんな事はないでしょう。カステリアさまがお望みなら、あたしは後押ししますよ!」
なんて言っちゃった。言いながら何となくもやっとしたけれど、そうしたらカステリアさまは、
「え、でも……」
と言いつつ、少し嬉しそう。
もやつきながらも、言い出したからには後には引けない。あたしは、毎朝エドガーに会う度に、カステリアさまを褒め称えた。
だけど、エドガーは、
「ああ……あいつは昔からいい奴だったのに、俺は勝手にきつく当たってしまって悪かったなあ」
みたいな事を言うばかりで、ちっとも男女関係がどうのという流れにはならない。
「おまえのバカのおかげで、謝るきっかけが出来てよかった」
なんて言われる始末で……まあ要するに、エドガーは、カステリアさまの事を、旧友とは思っていても、結婚相手とは思っていない様子。
それで、あたしはちょっと行動に出てみる事にした。カステリアさまの為に。
エドガーの休日に、外に連れて行って欲しい、っておねだりしたら、エドガーは快諾してくれたのだけど、当日、あたしは風邪を引いて寝込んだ事にして、代わりにカステリアさまと、って言ってみた。ちょっとあたし的には残念ではあったけれど、機会はまだ後にもあるだろう、って思ったし。だってペットだからね? エドガーはちょっと機嫌が悪くなったようだったけれど、カステリアさまは感謝の眼差しを送ってくれた。
だけど、二人は昼過ぎには帰って来ちゃった。
「色々思い出話が出来てよかった」
と二人は言っていたけれど、特に進展したようには見えない。
「風邪は大丈夫か」
とエドガーはお土産に林檎をくれた。
『結婚なんか興味ない』
って言ってたのは、本当に本音なのかな。まあ、先は長いんだから、いくら親にせっつかれたって、自分がその気にならないんじゃ仕方ないのか。
―――
そんなある日、またあたしが、『あたしの樹』でお菓子を食べながら本を読んでいると、下を、シャルムさまとレガートさまが通りかかった。勿論お二人はあたしに気付いてはいない。
「シャルムさま。俺は、エアリスちゃんには荷が重すぎると思います。そりゃあ、エドガーさまの癒しになってるのはいいと思いますけど、でも、気休めでしょう、結局」
「気休めでも……兄上にはそれが必要なんだと私は思うが」
「本当に、気休めのペットなら、それが一番だと思いますけど、エアリスちゃんは女の子でしょ。むしろ人間の男だったらよかったのかもですけどねえ」
「何が言いたいんだ?」
「まあ……二人が本気で気づいちゃったら、後がきついんじゃないかなと。お互いに」
そんな会話をしながらお二人は歩き去っていった。
レガートさまの意見に、シャルムさまは別段怒った様子ではなかったけれど、考えは違うみたい。
また、円環の話? どうして誰も教えてくれないんだろう……。
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