第26話
振り向いた少女の笑顔は、卵型のべっ甲ぶち眼鏡に飾られて、如何にも文学少女を思わせる。
肩の上で綺麗に切り揃えられた襟元が、少女の性格を覗かせて清々しい。
長身の純也が抱きしめたら、すっぽり身体が隠れてしまいそうな小柄な少女の身の丈が、杏には妙に羨ましい。
「途中でクラスメートと行き会っちゃってさあ」
さらりと言って、少女をコンビニの入り口に
少女は杏にお辞儀して純也に続く。
和気あいあいの二人の背中に嫉妬を覚えながら杏は店内に足を踏み入れた。
「いらっしゃいませー」
示し合わせたかのような、克己と玲子のレジ越しのハーモニーに杏はげんなりする。
(なにも友人二人であたしをいじめなくたっていいじゃないよ!)
口を尖らせて店に入った杏に克己がさらに追い打ちをかける。
「杏。ゴメン今日は相席で」
克己が指差した先のテーブルには見覚えの有る少年が後生大事にタピオカミルクティーを啜っていた。
既にもう一つのテーブルはちゃっかり純也達に占領されている。
テーブルの上に置かれた可愛い麦わら帽子の存在に雄馬はそれだけでどぎまぎする。
さっきの姉の曰くありげな物言いに、何か含むところが有るのだろうと思いはしたが、まさか杏と同席することになろうとは思っても居なかった。
ここに来るのは姉に教えていた訳でも無いし、偶然だとは思いはしたが。
(まずい、まずいぞこれは)
女子と二人で、面と向かってお茶を酌み交わす経験など、まだ中坊で奥手の雄馬にある訳もない。
助けを求めるようにレジの姉に視線を送るが意地悪そうな笑顔を返すだけ。
(帰ったら覚えてろよ)
腹の中で毒づきながら今度は克己に視線を向ければこちらも困ったような笑顔を返してよこすだけ。
片思いの杏との仲を取り持ってくれたのは嬉しいが。
未経験の俺をこんなシチュエーションに放り込んでどうしろというのか。
雄馬はときめきと戸惑いの気持ちがないまぜになって身悶えする。
目の前にちょこんと佇む洒落た小ぶりのストローハットのデザインに雄馬は魅入られる。
女性用にありがちなつば広の物ではなく、小ぶりの中折れ帽というやつだ。
シンプルなデザインだが、幅広の紺のリボンが巻かれ、つばの縁からリボンの端が僅かに垂れて可愛らしく、まだ少年の雄馬にムズ痒さを覚えさせる。
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