第21話

既に川岸にしゃがんだ純也は、花火の詰め込まれたビニールバッグの口を開けて、大きな石の上に花火を並べている。

橋上の街灯の灯りが石混じりの川べりを照らしている。


「石がごろごろしてるから。手を貸してやれよ」

さり気ない友人の言葉に、克己と杏はぎこちなく手を伸ばす。

厚底コルクのサンダルが、気を利かせて杏をよろめかせてくれる。

ふらつく二人の足元を純也が掲げた花火がゆらゆらと照らす。

「杏、気を付けろ!克己どさくさ紛れに抱きつくかもしんねえぞ」

弾けるような笑いと共に茶化す純也。

花火に照らされた杏が、偶然か意図的か大きくよろめいて克己に体当たりする。

夏の河原に少年少女の笑いが弾けた。

ーーーーー


「小笠原の事、言って無いのかよ……」

七色に変わる噴出花火に嬌声を上げる杏を尻目に、身を寄せた純也が克己の耳元に囁く。

「いやそれが……」

言い淀む克己の様子に純也はみなまで聞かずに頷いた。

実を言えば純也は克己に対する杏の気持ちにはとうに気付いていた、が。

好かれている事なら敢えて言うまでも無いと思っていたのだが、まさか小笠原に告った後に杏と妙な関係になっているとまでは純也も思っていなかった。

杏の後姿を見つめる克己の横顔に、言いようもない淋しさを見た純也は軽く頭を振ってまなこを上げた。

「せめてできるだけの事はしてやれよ」

小声で耳打ちして、杏の元へ純也は向かった。


「何内緒話してたのかなー」

何時盗み見ていたのか。

鷲掴みした花火の束を押し付ける純也に。

ボブカットの細く茶色いカーテンを揺らした杏が微笑みかけた。

「答えを聞くのが怖くないなら、克己に聞いてみろよ」

快活に言う純也の言葉に、杏はちらりと克己を見ただけで純也に視線を戻した。

「純也君も意地悪なんだね」

「なにそれ、他にも杏に意地悪する奴居るみたいな言い方だな」

火も消えかけた花火のカスに足を向けていた純也が振り向いて、外灯の灯りに笑顔を晒す。

「まあ、俺と似てる奴なんて、一人しか思い浮かばねえけど」

「ちゃんとわかってるんじゃん」

声は笑っていたが、杏は顔を灯りには晒さなかった。


杏の気持ちを聞いてしまった今となっては。

(もう知らなかったあの頃には……)

河原で戯れる杏と純也の無邪気な姿に。

(俺に突然告られて……小笠原どんな気持ちで俺と接してたんだろう)

ぼんやりと思いを巡らして克己は石の上の花火の束に手を伸ばす。


先端にひらひらをつけた定番の二色に捩じられた花火は杏の腕の先で綺麗に曲線を描いて。

色付き火薬を練り固めただけの一見不愛想な見た目の花火は激しく爆ぜて純也の振り回す手の先で踊る。

克己が手にして二人の後に続いたのは、厚紙の持ち手に、太めのストローを思わせる先端に詰めた火薬を閃かせる花火。

自分の花火が消えた杏が克己に近づいて歓声を上げた。

「綺麗!」

弾けながら色を変えていく華の色に照らされた杏の笑顔は花火の輝きにも負けていない。

「うん、綺麗だ」

思わず言って杏の顔を見る克己の言葉が、杏の頬にも新たな大輪を咲かせた。


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