第20話
「どういう風の吹き回しだよ」
笑顔でイートインに収まる純也に克己は満面の笑顔で山盛りのおでんを運ぶ。
無論克己の奢りだ。
日も暮れ客足も途切れがちな夜勤に、克己が救援を依頼したのは他でもない親友純也。
「恩に着てくれてるんならさ」
克己にそう言われては純也に断れる筈もない。
「バイトが終わるまで店に居てくれりゃそれでいいから」
およそ意味不明な依頼だったが、「好きな物、飲み食いしていいから」という申し出に心動かされた訳でも無い。
純也もそれ程不人情な男ではない。
レジで並ぶ克己と杏の様子に、何事か気配を察したのか純也はそつのない挨拶を交わして、克己との間で小芝居を打つ。
「急におでん食いたくなってさー」
旧知の友の以心伝心に心から安堵する克己。
(持つべきものは友、だよなあ)
杏に対する申し訳なさと、玲子に対する申し開きが出来る安堵とが入り混じって、克己は疲れる一夜になりそうだと肩を竦める。
おでんの大きな容器の横に、ぶっかき氷を並べる純也に杏が呆れた声を上げる。
「お腹の中で喧嘩するんじゃない?それ」
杏の容赦ないツッコミにも、昔の純也ならいざ知らず、克己の擁護もあって鍛えられた今の純也のコミュニケーション能力は余裕で切り返して見せる。
「星野は俺のネゴシエーション能力知らんと見えるな」
笑顔の返しに杏が切り返す。
「そもそもネゴシエーションの意味知ってる訳?」
二人きりならばぎこちなくなっていたであろうこの時間も、純也のおかげで乗り切れるどころか、楽しく終えられそうだと、克己は胸を撫でおろす。
「二人は何時までな訳?」
割りばしに茹で卵を突き刺した純也が、卵を振り回しながら聞いた。
「9時には上がるけど」
克己の返事に純也が席を立つ。
「ならちょっと寄り道しようぜ……」
純也が向かったのは入り口近くのファミリー花火。
ーーーーー
「帰り道に丁度いい河原有るよな」
そういって純也は当然のように杏の帰り道についてくる。
橋が近ずくと純也が言い出す。
「星野?降りる階段有ったよな?」
杏が橋の欄干が始まる傍にある外灯に照らされた階段を指差す。
「滅多に来れないんだ。夏の思い出作ろうぜ」
唐突に提案すると、純也は二人の返事も待たずに階段を足早に降りていく。
振り回す大量のファミリー花火の透明なビニールが外灯の光を反射して、それ自体が花火のようでもある。
友人がここまで事態を読んでくれるとは思っていなかった克己は、親友の策に乗せてもらう。
「男子二人でお見送りなら親父さんも怒らないだろ?」
克己の呼びかけに戸惑いがちな笑顔を返す杏。
「あいつ、いい奴なんだよ」
克己のダメ押しに杏の笑顔が花開く。
「知ってる」
流石に今夜は手を握る事無く並んで純也の元へと向かう。
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