第15話

「小笠原玲子と言います。よろしくお願いいたします」

コンビニの決して広いとは言えない事務室に立つ克己達の前で、真新しい制服に身を包んだ玲子が事務員に頭を下げた。

克己はその玲子の姿に、初めて玲子を意識した職員室前の情景を思い出す。

外ではそろそろセミがその存在を主張し始めていた。

ーーーーー

「アルバイトの口利きをお願い出来ますか?」

そう玲子からメールを受け取った克己がすぐに杏の父親に連絡を取ったのは言うまでもない。

(小笠原にどんな心境の変化があったのかはわからないけど……)

根が単純な克己は浮かれそうになる自分に釘を刺す。

(俺はついこないだ彼女を傷つけたんだ……)

あの時の玲子の表情を思い出すと今でも克己は胸が痛む。

(あんなに綺麗な顔なのに……)

その痛みは、克己に反省を促すには充分過ぎた。

ーーーーー

「滅多に無いけどカードで支払いするって言われたらこっちで……」

客の居ない方のレジで作業手順を教える克己の、玲子に対する態度も自然丁寧になる。

「一度に全部は覚えられないから。どんどんみんなに聞いてやってね。俺もそうだったから」

小さく頷く玲子の姿は、克己にとって初めて一緒に巡回した時の玲子を思い出させる。

(あの時の俺は今みたいに丁寧に小笠原に接していたんだよな)

克己にキツイ顔を見せた先日とはうって変わった玲子の素直な態度は、寧ろ克己の反省を促す。

(俺の身勝手な解釈が彼女を怒らせたんだ……俺が最初の謙虚な気持ち忘れて無かったら……)


「こっち、いいですか?」

込み合ってきたレジに、後ろの女性客が玲子が立つレジの前に来た。

克己の顔を見上げる玲子に優しく頷くと克己は半歩下がってレジを玲子に譲る。

半身を玲子の立つレジに向けたまま、棚のタバコのカートンを整理する。

何のことは無い。克己は玲子のサポートがしたいだけなのだ。

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