第14話

「ただいまー」

およそ場違いな挨拶と共に入って来たボブカットの少女に向かいの雄馬が背筋を伸ばして(この子だよ)と玲子に無言の合図をする。

「いらっしゃいませ」

何処か怒ったような声であいさつする克己に、玲子は首を傾げる。

(知り合い?)

「自分とこの店に来たんだからただいまでもいいじゃん」

笑顔で馴れ馴れしく克己に話しかける少女に玲子は思い当たった。

名前までは知らないが、確か克己と同じ2年生。

気付いた玲子は目の前の雄馬に視線を戻して歪んだ笑顔で睨んで見せる。

(あたしより上級生に惚れるとかませすぎでしょアンタ)

心の中で毒づく。


「今日は何貰おうかなー」

聞こえよがしに言って店内をうろつきだした杏が商品棚の向こうに姿を消したのを確かめて、玲子は雄馬に顔を近づけて小声で訊ねる。

「本気なの?」

信じられない気持ちで聞く玲子に、意外にも雄馬は真顔で頷く。

「何とか仲良くなりたいと思ってさあ……」

小声で言う遊馬に玲子も小声で返す。

「雄馬。もうすぐ転校なんだよ?分かってるの?」

「だからだよ」

迷いもなくキッパリと答える雄馬の真剣な眼差しに玲子は雄馬と克己の姿を重ねて見る。

「もう会えないかもしれないからこそ……」


雄馬の言葉に玲子は胸を締め付けられた。

(先輩も同じ事考えたんだろうか)

玲子と克己の間に大した交流もなかった。

会話も風紀委員としての短いやりとり位。

(まだ中学生の雄馬とあの女の子に交流なんかある訳ない)

それでも弟は良く知りもしないあの少女と仲良くなりたいと言う。

(好きになるってそう言う事?)

玲子は心の中で弟に質問する。

図書室の前で告白された玲子は、相手の克己に対して、(どうして?何故?)と答えを求めていた。

(理由なんて無いの?説明なんて出来ないの?)

目の前で視線を泳がせながら背後の少女の気配をきにしている雄馬と、カウンターで作業している克己の気配に。

(あたしが勝手に膨らませて……)

視線を外の車の流れに向けて玲子はひとりごちる。

(独りで騒いで一人で落ち込んでたのはあたし?)

周囲の視線も気にせず、玲子は雄馬にこれ以上ない位顔を近づけて力強く言う。

「行きなさい。思い残す事が無いように」

言いながら、玲子は今晩克己にメールを返そうと心に決めた。

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