第209話 再会

智也君と凌を追い出した後、グローブを嵌めてもらっていたんだけど、ドアがノックされ、再度係員の男性が中に入ってきた。


「こちらです」


男性がそう言った後、ゆっくりと中に入ってくるヒールの音が聞こえてくる。


『記者? あ、桜さんかな?』


すぐさま英雄さんが影になってしまい、チラッとしか姿が見れなかったんだけど、チラッとだけ見えたその人は、髪が長く、スーツをバッチリと着こなしていた。


『すげー綺麗な人だな…』


「え? 誰?」


高山さんと光君が俺に聞いてきたんだけど、誰だかわからないし、英雄さんが邪魔して姿が見えない。


英雄さんは女性に歩み寄るなり、いきなり頭をバシッと叩いた。


「痛…」


「痛いじゃねぇ! いきなり出ていきやがって! 正月くらい帰って来いっつーの! 4年もプラップラしやがって… 親の顔が見てみたいわ!」


女性がカバンを漁った後、英雄さんが再度頭を叩くと、女性は英雄さんに怒鳴りつけた。


「いちいち叩くな!」


思わず立ち上がり、聞き覚えのある怒鳴り声を出した女性を見たんだけど、足がすくみ、動けなくなってしまう。


「ちーじゃん! 誰かわかんなかったよ! うわぁ! 久しぶりじゃん!! スカート履いて、髪も長くて、どっからどう見てもOLじゃん!!」


光君は千歳に駆け寄り、歓喜に近い声を上げながら、肩をバシバシと叩いていた。



『千歳… マジで? すげー綺麗…』


短く切り揃えられていた髪は、長く光の加減で茶色く見えるし、トレーニングウェアばかりだった服も、タイトスカートのスーツ姿に。


幼く、元気いっぱいでかわいらしかったその顔は、化粧のせいか、昔の面影がなく、完全に大人の女性へと変貌を遂げていた。


思わず呆然としてしまうと、千歳は俺と目が合った途端に目をそらし、英雄さんに切り出した。


「ヨシ兄は?」


「あいつはチャンピオンだから赤。 それくらい基本だろ?」


「ヨシ兄にチケット貰ったんだけど、こっちって間違いじゃない?」


「チケット見せてみろ」


千歳はカバンからチケットを取り出し、英雄さんに見せると、英雄さんはチケットを見た後、呆れたように答えていた。


「縁が青だから合ってる。 しかもこの番号、俺の管理番号じゃねぇかよ」


「管理番号? え? ヨシ兄がくれたよ?」


「そんな訳ねぇだろ? この番号は俺だし、俺しかもらえないはずなんだよ」


英雄さんと千歳の話を聞き、光君が切り出した。


「カズしかいなくない? チケットをすり替えられたとか」


「あ! それならあり得るかも… この前、チケットがどうのって言ってたし…」


「この前? お前、カズに会ってたのか?」


英雄さんは言葉と同時に、徐々に顔を赤くする。


「英雄さん! トイレ行こうトイレ!! 試合始まったら行けないからね!!」


高山さんと吉野さんは、慌てたように英雄さんの背中を押し、みんなは控室の外に。


突然千歳と二人っきりにされてしまい、一気に緊張が走ってしまう。


千歳はみんなの出て行ったドアをぼーっと眺め、立ちすくんでいるだけだった。



「…久しぶり」


必死に絞り出した言葉は、なんてこともない、どこにでもある言葉。


千歳は振り返ると同時に俯き、言いにくそうに答えていた。


「…久しぶり」


『千歳の声だ…』


抱きしめたい衝動をグッと堪え、ベンチに座ると、千歳は近くにあったパイプ椅子を動かし、そこに座り、カバンを抱きしめるように抱えていた。


言いたいことを頭の中で整理し、大きく息を吐いた後に切り出した。


「なんで連絡しなかった?」


「真夜中にメール来ても返信できないし…」


「日本に戻った後も連絡してたぞ? 何回も」


「残業と勉強ばっかだったから… そ、そのシューズの開発したんだよ。 そのせいで毎日残業してた」


千歳はそう言いながら、俺の履いているシューズを指さす。


「これ? …そっか。 千歳が開発したんだ… 通りで俺好みな訳だ」


はっきりと言い切ると、自然と沈黙が訪れ、離れた場所に座る千歳をずっと眺めていた。


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