第204話 指名

ヨシ君がチャンピオンになった後から、日々のトレーニングにより一層磨きをかけていた。


新しいシューズを履いてトレーニングをしていたんだけど、足にぴったりとフィットし、裸足の時のように軽いせいか、すっかり気に入り、変えのシューズも注文していた。


毎日のように光君とスパーリングをするようにし、カズさんが休みの日には、カズさんともスパーをしていたんだけど、カズさんはヨシ君とは違ってトリッキーな動きはせず、距離を保ちつつ、一瞬の隙をついて攻撃し、また距離をとるというアウトボクサー。


ヨシ君が対戦相手になる場合、トリッキーな動きを見せる凌のほうがいいとは思うんだけど、凌は階級を下げてしまったし、大学があるからなかなか相手にしてくれなかった。



来る日も来る日もトレーニングを続け、帰国から2年が経ったころには、公式戦にも出続けていた。


凌は下宿する際、親と「大学院に進む」と約束していたようで、大学に通いながらボクサーとして実績を積み続け、陸人と学は大学卒業と同時に、プロテストを受けようとしているようで、日々のトレーニングに磨きをかけていた。



そんなある日の公式戦で、世界ランク15位の選手と対戦し、3ラウンド目で綺麗な右ストレートが決まりKO勝利。


この試合のおかげで、世界ランク15位に俺の名前が入ったんだけど、翌日には事務所に連絡が入り、現チャンピオンであるヨシ君が、世界タイトル戦の対戦相手として、俺を指名をしてきた。



ヨシ君は会見も行い、この報道がされた翌日には、スポーツ新聞各紙の1面には【中田英雄vs中田秀人 世代を超えたリベンジマッチ!】の文字が躍っていた。


『大袈裟すぎるだろ…』


そう思いながら事務所のソファに座り、記事を読んでみと、目を疑う事ばかり。


【中田義人と菊沢奏介は犬猿の仲】


【オーナだけではなく、この二人にも過去の因縁が!】


【菊沢奏介は中田英雄の隠し子だった!?】


完全に呆れ返り、何も言えないままテーブルに新聞を置くと、向かいに座っていた光君が笑いながら切り出してきた。


「どうかしたか? 中田英雄の隠し子」


「隠し子って… なんなんすかこの記事?」


「面白おかしく書いて注目されたいんだよ。 『ボクシングブーム再来か?』なんて言われてるし、今のうちに売り上げを伸ばしたいんだろうなぁ」


「呆れるわ…」


「それがプロの世界ってもんだよ。 この新聞社の【隠し子】はやりすぎだし、名誉棄損で訴えられてもおかしくねぇけどな。 ヨシとの因縁はあるだろ? 凌から聞いたけど、お前いろいろやられてたらしいじゃん。 蚊取り線香とか、メントスコーラとか」


「懐かしいっすね」


「世界戦になったらちーも来るんじゃないかな? 4年以上も帰ってきてないし、ヨシとの試合の頃には大学も卒業してるだろ」


「知ってるんすか?」


「ああ。 夕べ、カズから聞いた。 姿は見てないけどな」


光君はそう言い切り、大きく背伸びをした後に立ち上がる。


「絶対に勝てよ。 ちーの彼氏」


はっきりとそう言い切られ、思わず吹き出すとともに、千歳のことばかりを考えていた。


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