第199話 失踪
帰国した後、親父と空港で別れ、英雄さんから預かったグローブをカバンに入れ、電車を乗り継いで中田ジムに向かっていた。
少しだけ変わってしまった街並みを歩き、期待に胸を高鳴らせていた。
もうすぐみんなに会える。
もうすぐ英雄さんに…
もうすぐ千歳に会える。
そう思いながら歩き続けていると、背後から駆け寄る足音が聞こえ、振り返ると凌が駆け寄ってきた。
「…奏介?」
「よぉ。 久しぶり」
「奏介! 生きてたんか!!」
「勝手に殺すんじゃねぇよ」
二人で冗談を言い合いながら笑い合い、中田ジムの前に行くと、ジムの中からは威勢のいい英雄さんの怒鳴り声が聞こえてくる。
思わず目頭が熱くなり、鼻の奥がツンっとしていると、凌が俺の背中を押し、中に入るよう促してきた。
ジムの中に入ると、英雄さんは少し固まった後、俺に駆け寄り、笑顔で切り出してきた。
「奏介じゃないか!! 一瞬誰だかわかんなかったぞ!!」
「お久しぶりっす。 お元気そうで」
「なーに改まってんだこのヤロ。 いつ帰ってきたんだ?」
英雄さんはトレーニングしている面々を他所に、マシンガンのように話してしまい、知らない面々からは『誰この人?』って言わんばかりの目で見られ続けていた。
『懐かしい… ここは変わんないんだなぁ… 英雄さんも』
そう思いながらジムの中を見回し、英雄さんに切り出した。
「あの、千歳って…」
「あいつの話はするな!!」
英雄さんから突然怒鳴られ、周囲に緊張が走っていた。
『また親子喧嘩?』
不思議に思いながら英雄さんにグローブを返すと、英雄さんが切り出してきた。
「どこに泊まるんだ?」
「とりあえず、親父が寮に入るんで、そこに行きます」
「うちに下宿しろ。 ちーの部屋使え」
「ちーの部屋って… え? あいつ、居ないんですか?」
「それ以上聞くな!!」
英雄さんは俺に怒鳴りつけた後、苛立ったようにリングの上に。
「大人しく行ったほうがいい」
高山さんに言われ、詳しいことを聞けないままに、隣の自宅に向かっていた。
英雄さんに言われた通り、千歳の部屋に行くと、千歳の私物は何もない。
クローゼットの中には制服が入っているだけで、グローブもシューズも何もなかった。
『どうなってんだ?』
不思議に思いながら親父にメールをすると、いきなりドアが開き桜さんが中に入ってきた。
「あ、桜さん、お久しぶっ!」
桜さんは俺の顔を見るなり歩み寄り、言葉の途中でボディに1発。
言葉を遮るように殴られてしまい、思わず息が詰まり、しゃがみながら咳き込んでしまった。
「な… なんで…?」
「千歳を泣かした罰」
「え? 千歳が泣いた?」
「あんたのメールが来るたびに泣いてたんだよ!! バーカ!!」
「ちょ、ちょっと待って! え? マジで泣いてたの?」
「あったり前でしょ!? メールくるたびに泣いて、返事ができなかったんだよ!! それなのにあんたはしつこく明け方にメールしやがって… 時差ぐらい考えろやボケェ!!!」
桜さんの言葉に何も言えずにいると、カズさんが慌てたように部屋に入り、桜さんを静止させていた。
「悪かったな」
「いえ… どうなってるんすか?」
「ちー、家出したっきり帰ってこないんだよ。 元々桜の家にいたんだけど、今は会社の近くに引っ越して、それ以降音信不通」
「い、家の場所ってどこっすか!?」
「さぁな。 ヨシの話だと、秀人さんが保証人になったって話だし、詳しいことは知らないんだよ」
カズさんの話を聞き、血の気が引いていくのが分かった。
千歳はここにいない…
あれだけ追い求めていた後姿は、どこかに消えてしまった…
出発前に、『離れたら探せなくなりそう』って直感で思ったことが現実となり、頭の中が真っ白になっていた。
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