第185話 きっかけ
千歳がきっかけで、英雄さんと秀人さんのスパーする日が決まった翌日から、英雄さんもロードワーク時に走るように。
流石と言うかなんと言うか…
てっきり『途中でバテる』と思っていた英雄さんは、難なく10キロを走り切り、早いペースの筋トレを始める始末。
憧れの英雄さんとロードーワークで肩を並べて走れることは、この上なくうれしかったんだけど、英雄さんよりも先に俺がバテてしまいそうになり、超人的な体力に呆気にとられるばかりだった。
筋トレの後はミット打ちをしていたんだけど、英雄さんのパンチは手が痺れそうになるくらい強い。
『年齢制限がなかったら、今でも現役で世界チャンプだったでしょ?』
そう思いながら英雄さんのパンチを受け、交代した時には殴られまり、改めて光君の優しさと、英雄さんの厳しさを実感していた。
英雄さんと秀人さんのスパー1週間前には、俺の2回目となる公式戦があったんだけど、英雄さんの厳しいトレーニングのおかげか、難なく勝利。
別階級の試合に出ていた凌も初勝利をし、笑顔で英雄さんの家に戻り、3人でカズさんとお母さん、そして千歳に試合の話をし続けていた。
翌週、待ちに待った英雄さんと秀人さんのスパーをする日。
朝からみんなと念入りにジムの掃除をし、話しながらカメラやスマホをセットしていると、千歳が陸人の彼女である千夏ちゃんを引き連れてジムの中へ。
陸人は千夏ちゃんを見た途端、顔を真っ赤にし、どこかのアニメで見た、白い仮面をかぶった黒い化け物のように「あ… あ…」と声を上げるばかり。
陸人の横を通り過ぎ、千歳に切り出した。
「連れてきたんか?」
「映画行けそうにないからさ。 父さんと秀人さんのスパーだったら、映画みたいなもんじゃん?」
「確かに、ドキュメンタリー映画で放映されてもおかしくないよな」
話しながら二人をベンチに座らせると、親父と英雄さんが1階から上がってきた。
『親父、見に来たんだ… 英雄さんが誘ったのかな?』
不思議に思っていると、ジムのドアが開き、ヨシ君と東条ジムの面々が中に入ってきたんだけど、杉崎はなぜかヨシ君の荷物を持たされていた。
「よお、奏介。 久しぶりじゃん。 俺の部屋で下宿してるんだってな?」
「久しぶりっすね。 つーか、出ていくなら掃除して行ってくださいよ」
「やだよ、めんどくせーし。 そうそう、俺、B級ライセンス取ったから」
「マジで? 早くね?」
「ああ。 親父たちが終わったら、飯賭けてスパーしようぜ。 俺が勝ったら焼肉おごれな? お前が負けたら焼肉でいいや」
「どっちみち俺のおごりじゃないっすか!」
「バレた? 久しぶりに会ったんだし、なんかおごれよ」
「良いけど… なんで荷物持たせてるんすか?」
「移籍してすぐ、喧嘩売ってきたからボコった。 今じゃパシリ」
昔と変わらない口調で言ってくるヨシ君に、少しだけ安心しながら話し続けていると、千歳は梨花ちゃんと千夏ちゃんに挟まれ、楽しそうに話をし続けていた。
それに気が付いたのか、ヨシ君は小声で切り出してくる。
「ちー、相当悪いみたいだな」
「靭帯は良くなったらしいっすけど、半月板の方が悪いみたいっすね。 歩いてると引っかかる感じがするみたいですよ」
「ロッキングか… 無理してリハビリしてんだろ。 下手したらまた手術になるかもな。 あのバカ、ジッとしてるってことを知らねぇし」
「ですね。 油断すると走りそうで、気が気じゃないっすよ」
「彼氏みたいなこと言ってんじゃねぇよ」
ヨシ君が笑い飛ばすと同時に、英雄さんと秀人さんがリングに上がり、一瞬にして興奮してしまった。
ジムの中は歓声に包まれる中、カメラをセットしていると、ジムの外からも歓喜の声が聞こえてくる。
ふと視線を向けると、ボクシング部のみんなを押しのけた谷垣さんと坂本さんは、窓にへばり付き、目を輝かせていた。
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