第184話 二人
翌日は、1日自由行動だったんだけど、集合場所についた途端、4人に切り出した。
「千歳と二人がいいんだけど、別行動しない?」
4人は間髪入れずに了承し、ハイペースで歩き始める。
その後、ずっと千歳のペースで歩き、時々ベンチに座って休憩したり、気になった店で買い食いしたりと、のんびり過ぎるくらいのんびりと観光していた。
しばらく歩きまわった後、街中に置かれたベンチに座っていると、千歳が申し訳なさそうに切り出してくる。
「行きたいところ行っていいよ?」
「行きたいところねぇ…」
そう言いながら周囲を見回すと、ホテルの看板が視界に飛び込み、千歳の耳元で囁いた。
「ラブホ行きてぇな」
「バっ! 何言ってんの!?」
「本当の事じゃん。 行っていいなら連れて行くけど?」
「ダメ! 行かない!」
「横になって休憩できるよ?」
「そういう問題じゃない!!」
千歳は顔を真っ赤にしながら言い切った後、ゆっくりと歩き始め、笑いながら千歳を追いかけた。
「冗談だって。 半分マジだけど」
千歳は照れ隠しのつもりなのか、俺のことを軽く突き飛ばし、自然と手をつないで歩き続けていた。
修学旅行を終えた後から、俺の留学手続きが本格化してしまい、千歳と会うのは登下校の時だけ。
手をつないでバス停まで行くようになり、バスに乗った後は、自然と手を離したまま学校や家に向かうようになっていったんだけど、日を追うごとに千歳の口数が減り、時々寂しそうな表情を浮かべていた。
ある日の下校時、千歳と手をつなぎながら歩き、切り出してみた。
「リハビリ、うまくいってないのか?」
「なんで?」
「元気ないから」
「靭帯は良くなってきたんだけど、半月板の状態があんまりよくなくて… 歩いてると、引っかかるような感じがするんだよね」
「そっか。 無理するなよ?」
「うん。 ありがと」
寂しそうな表情で笑いかける千歳が寂しすぎて、繋いだ手を握りしめていた。
テスト期間を終え、試験休みに入ると同時に、千歳は自宅に戻っていたんだけど、それと同時に英雄さんが親父を説得し、千歳の家で下宿が再開。
ジムを手伝うようになっていたんだけど、千歳の膝はかなり悪いようで、ずっと着けていたサポーターが、ゴツイものに変わっていた。
そのまま夏休みを迎え、結局千歳は膝の水を抜く処置をしていたんだけど、ずっと部屋に籠りっぱなし。
毎朝、英雄さんとロードワークに行っていたんだけど、千歳が姿を見せることはなかった。
毎日、夕食後に、千歳の部屋に行っていたんだけど、千歳はカズさんからもらったタブレットPCで海外ドラマを食い入るように見ている。
その隣で一緒にドラマを見ていたんだけど、千歳は途中で寝てしまうことが多く、なかなか先に進まなかった。
そんなある日のこと。
光君の指導の下、ジムでトレーニングをしていると、秀人さんがジムに来たんだけど、光君は秀人さんを見るなり休憩するように切り出し、二人が話しているのを聞いていた。
英雄さんが千歳の話を切り出すと、秀人さんはうなり声をあげた後に切り出してきた。
「ちーちゃん、進路ってどうするんですか?」
「『大学で駅伝やらないか?』って話も来てたんだけど、あの調子じゃなぁ…」
「なるほど… 実は、俺の知り合いがスポーツメーカーに勤めてるんですけど、ボクシンググッズに力を入れてる会社なんですよ。 怪我した試合も見に来てて、『うちに就職してくれないかな?』って話が出てるんですよね。 うちの梨花もそこに就職決めたし、ちーちゃんもどうかなって思ったんですよ」
「そうか… 奏介、ちー呼んできてくれるか?」
返事をした後、千歳を呼びに行ったんだけど、千歳がジムに現れた途端、ジムの中は静まり返り、周囲は話に集中し始める。
千歳は話を聞くなり、平然としたまま切り出してた。
「今月中に、父さんと秀人さんが、ここでスパーやってくれるなら行く。 そうじゃなきゃ、大学も行かないで、カズ兄の店でバイトする」
英雄さんと秀人さんは千歳の言葉を聞くなり顔を見合わせる。
「秀人、ちーの将来のためにやるか!」
「いいっすよ! 今月末なら来れます!」
ジムの中は歓声に包まれ、思わず興奮しながら拳を握りしめていた。
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