第183話 修学旅行
初の公式戦で優勝した後、陸人たち4人で出かける予定を立てていたんだけど、なかなか都合がつかず、話は流れ続けていた。
と言うのも、俺と陸人のジム通いの他に、千歳のリハビリと、陸人の彼女である陸上部マネージャーの『菅野千夏』の都合が合わず。
話は流れに流れ続け、修学旅行の班決めの方が早く来てしまった。
修学旅行の班は、俺と薫と佐藤。
そして、千歳と陸上部マネージャーである『福岡早苗』と、陸上部部長の『岡田美奈』。
ボクシング部3人と、女子陸上部の3人で同じ班になっていた。
その数週間後、修学旅行に行き、自由時間には班行動をしていたんだけど、4人は興奮しているのか、歩く速度が速い。
千歳は必死に追いかけていたんだけど、時々膝が痛むのか、苦痛に顔をゆがめていた。
「痛む?」
「ううん。 大丈夫だよ」
千歳は苦笑いを浮かべながら、少し辛そうに告げてくる。
「疲れたから休憩しようぜ」
千歳の手を掴み、花壇に座らせながらそう言い切ると、千歳はホッとしたように小さく息を吐いていた。
すぐに薫に電話をし、先に行くよう告げた後、電話を切ると、千歳が申し訳なさそうな表情で切り出してくる。
「先行っていいよ?」
「置いて行く訳ないじゃん」
「でもさ… このままじゃ全部見れないよ?」
「全部見れなかったら、今度二人で来ればいいだけじゃん」
はっきりとそう言い切ると、暗く沈んでいた千歳の表情は、少しだけ明るくなり始めていた。
二人で並んで座り、話していると、担任の坂本さんが駆け寄ってきた。
「二人ともどうした?」
「4人とも、歩くスピードが速いから、疲れたんだよ」
坂本さんは納得したような声を上げ、千歳に膝の具合を聞いていたんだけど、千歳は苦笑いを浮かべながら「大丈夫」としか言わなかった。
「多分、大丈夫じゃないよ」
はっきりと言い切った直後、遠くから千歳を呼ぶ声が聞こえ、視線を向けると徹が駆け寄ってくる。
千歳は徹を見た途端、俺の腕をつかみながら立ち上がり、歩き出そうとしていた。
「いた! 千歳ちゃん、あっち見に行こうよ!」
徹はそう言いながら千歳の腕をつかもうとし、咄嗟に徹の手を払いのけた。
「お前別のクラスだし班も違うだろ?」
「はぁ? 関係なくね?」
「関係あるだろ?」
俺と徹が言い合う中、千歳は右足を引きずり、歩き出してしまった。
慌てて千歳の隣に駆け寄り、肩を抱きながら歩き始めると、坂本さんが切り出してきた。
「中田、無理しないでホテルで休んでてもいいぞ?」
「休んだから大丈夫」
千歳ははっきりと言い切った後も、右足を引きずり、時々苦痛に顔をゆがめながら歩き続けていた。
結局、すべてを回ることはできず、途中でタクシーに乗り、千歳と二人で先にホテルへ。
水を買った後、千歳の部屋に行くと、千歳は水を受け取りながら切り出してきた。
「サンキュ。 今買いに行こうと思ってたんだ」
「無理しすぎ。 痛いときは痛いって言えよ」
千歳は何も言わず、薬と一緒に水を飲みこむだけ。
千歳に近づき、頬に手を当て、千歳の顔を俺に向けながら切り出した。
「俺の前では無理するなよ。 な?」
千歳は申し訳なさそうに小さく頷くだけだった。
少し話していると、4人が部屋に入ってきたんだけど、4人は千歳に謝罪した後、岡田が興奮した様子で切り出してきた
「徹が『千歳ちゃんどこ?』ってマジしつこかったんだけど!」
「あいつ、俺と千歳が付き合ってること知ってるはずだよ?」
「え? それなのに言い寄ってんの? 裏で千歳の悪口ばっか言ってるし、ホント最悪じゃない?」
その後も岡田の愚痴は止まらず、千歳は苦笑いを浮かべるだけだった。
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