第186話 ヤバい
英雄さんと秀人さんがリングに上がり、吉野さんがレフェリーとしてリングに上がった後、ゴングが鳴り響いていた。
試合形式のスパーリングではなく、あくまでもトレーニングの一環として行われたから、勝敗を決めることはなかったんだけど、ゴングの後にどちらかがパンチを繰り出す度に、ジム内外からは歓声が上がっていた。
どちらかがパンチを繰り出すたびに興奮し、ジッとしていられずに足をバタバタさせながらはしゃぎまくり。
周囲も同じように興奮しまくり、隣に座る光君までもが興奮したように足をバタつかせていた。
二人は徐々に白熱し、現役時代のように打ち合いはじめると、高山さんと親父、レフェリーである吉野さんまでもが歓喜の声を上げていた。
『すげー!! マジで!? 夢じゃないよな!!?? ヤバい嬉しすぎるんだけど!!』
リングの上を見ながら手に汗握り、終了のゴングが鳴ると同時に拍手が起こり、二人は抱き合いながら何かを話している。
その後、ヨシ君とスパーをしたんだけど、ヨシ君は今までとは比べ物にならないくらいにパンチが早く、1撃1撃が重くなっている。
けど、英雄さんのトレーニングに付き合い続けていたせいか、耐えられないことはないし、フェイントのタイミングも掴みかけてきていた。
周囲のことが気にならないくらいに自然と集中し、お互いダウンすることなくゴングが鳴り響いた後、ヨシ君が息を切らせながら小声で切り出してきた。
「やるじゃん」
「まぁね」
「楽しみにしてるわ」
「何を?」
「焼肉」
ヨシ君はそう言いながら右手を突き出してくる。
それに応えるように右手を突き出し、リングを降りていた。
その後、英雄さんが切り出し、その場にいたみんなで食事に行ったんだけど、陸人と隣に座る千夏ちゃんは、お互いを見ようとしない。
スマホに映る映像を見ながら、みんなで話していたんだけど、映像を見るだけであの時の興奮がよみがえり、興奮しながらみんなと話していた。
学は俺とヨシ君のスパーも映像として残していたようで、それを見ながら笑い合い、話をし続けていた
食事をとり終え、未成年のみんなはその場で解散し、成人したみんなは2次会に。
この食事会がきっかけで、東条ジムの面々とも話せるようになったんだけど、東条ジムのみんなは英雄さんの強さを初めて目の当たりにしたようで、英雄さんの話ばかりを聞いてきていた。
凌は英雄さんとの付き合いが長いせいか、『英雄さんの強さの秘訣』っぽいことを流暢に話し始める。
「英雄さんは家族を大事にしてるからあんなに強いんだよ。 何があっても家族だけは守り抜くって言ってるし、俺たちも守られてる安心感があるんだよね」
流暢に話す凌の後ろで、千歳は凌の話を聞きながら首をかしげるばかり。
「あんまり言うと怒られるぞ」
はっきりと凌に言うと、凌は怯えた表情をし、千歳の3歩後ろを歩き始めていた。
みんなと話しながら駅に向かい、みんなを見送った後は千歳と二人。
千歳と並んでゆっくりと歩き、自宅に戻っていたんだけど、千歳の部屋に入るなり、千歳を抱きしめた。
「今日、マジでサンキューな」
「なんもしてないよ?」
「きっかけ作ったのは千歳じゃん。 マジでヤバいくらい興奮した」
「明日もトレーニングでしょ? シャワー浴びて、もう寝ないとまずくない?」
「興奮して寝れねぇって」
「じゃあ一緒に寝る?」
「…違った意味で寝れねぇよ。 マジでヤバいくらい愛してる」
そう言いながら唇を重ね、強く抱きしめ合っていた。
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