第178話 ロードワーク
お母さんに下宿を切り出され、トレーニングを終えた後にアパートに戻り、荷物を抱えて英雄さんのいる自宅へ走っていた。
家のインターホンを鳴らすと、英雄さんが対応してくれたんだけど、英雄さんは何も聞いていなかったようで、不思議そうな顔をするばかり。
お母さんに言われたことを話すと、英雄さんはため息をついた後、家の中に案内してくれた。
そのままヨシ君の部屋に行き、部屋のドアを開けると、少し綺麗になっていたはずの部屋は、初めてヨシ君の部屋に入った時のように、雑誌やDVDが散乱していた。
『掃除から始めなきゃダメじゃん…』
小さくため息をついた後、部屋の掃除をしていると、英雄さんが部屋に入り、呆れたように声を上げた。
「掃除していかなかったのか! あのバカ、『立つ鳥跡を濁さず』って言葉を知らねぇのかよ」
「すぐ帰ってくるつもりだったんじゃないですか?」
「社員寮に入ったんだし、すぐ帰ってくるわけないだろ。 よりによって秀人のところに移籍するって、喧嘩売ってんのかよ…」
英雄さんはブツブツ言いながら手を動かし、掃除を手伝ってくれていた。
翌朝、アラームの音で目が覚め、準備をした後にリビングでストレッチをしていたんだけど、英雄さんが起きてこない。
『まだ寝てんのか?』
不思議に思いながら、英雄さんのいる部屋のドアをノックすると、英雄さんは眠そうな顔のまま部屋から現れ、不思議そうな声をあげた。
「え? 何?」
「ロードワーク行きますよ!」
「えー… 一人で行って来いよ…」
「何でですか! 行きましょうよ!!」
「明日! 明日行くから、今日は寝かせてくれ!!」
英雄さんは勢いよくドアを閉めてしまい、一人取り残されてしまった。
『んだよ… 英雄さんとロードワーク行きたかったのに…』
軽く不貞腐れながら、ポケットにスマホとMP3プレイヤーを入れ、走り出していた。
真っ暗な中、街灯を頼りに走り出し、土手沿いに抜ける。
千歳の入院している病院に近づくと、自然と病室の方に目が向いていた。
『7階だったから… あの辺かな? まだ寝てるか…』
千歳のいる病室を見ながら走っていると、窓に近づく千歳の姿が視界に飛び込む。
千歳は俺に気づくことなく、窓の外をボーっと眺めているようだった。
自然と足を止め、ポケットからスマホを取り出した後、千歳にラインを送ろうとしたんだけど、言葉が思い浮かばず、素直な気持ちを送っていた。
【愛してる】
千歳は窓際から姿を消した後、すぐに窓際に戻り、何かを探すように辺りを見回す。
街灯のすぐ下に移動し、再度ラインを送っていた。
【街灯の下だよ】
千歳は俺に気が付いた後、手元を見ていたんだけど、その後すぐにメッセージを受信していた。
≪いた≫
たった二文字のメッセージを見ただけで、抱きしめたい衝動に襲われてしまい、病院に向かって駆け出した。
中に入ろうとすると、警備員に止められ、怒られてしまい、渋々ロードワークを再開。
軽く不貞腐れながら走り出すと、千歳からラインが来た。
≪ばーか≫
『うっせ』
千歳に合図をするように右手を上げ、ロードワークを再開。
土手沿いを走り抜け、英雄さんの家の庭に辿り着き、呼吸を整えた後に筋トレを開始。
午前中はジムの手伝いをし、午後になるとロードワーク兼お見舞いへ。
病室に入ると、千歳はタブレットPCを手に持ち、耳にはワイヤレスイヤホンが着けられていたんだけど、千歳は俺に気が付くなり、イヤホンの片耳を外し切り出してきた。
「ねね、この曲かっこよくない?」
そう言いながら聞かされた曲は、カズさんからもらったMP3プレイヤーに入っていて、俺がよく聞いていた曲。
両方とも、カズさんに貰ったものだから、入っている曲は同じなんだけど、俺が気に入った曲は千歳も気に入っているようで、思わず笑みが零れてしまう。
二人で音楽を聴きながら話し、少し休憩した後にロードワークを再開する日々を過ごしていた。
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