第174話 剥奪
「カズ、奏介と凌、受かってたぞ」
仕事を終え、帰宅するなり親父に切り出され、何の話か分からず。
「何が?」
「プロテストだよ。 あいつら二人、今日からプロだ」
「へぇ~。 うちのジムからプロが出たのって何人目?」
「お前と桜だろ? あとヨシと奏介と凌だから5人目だな」
「あれ? 智也って受けてなかったっけ?」
「あそこはお母さんが反対してるからなぁ… アマチュアはいいけど、プロはダメなんだと。 公式戦で何度か結果を出してるし、いきなりB級受けても良いと思うんだけど、あのお母さんじゃなぁ…」
親父はため息交じりに言い切り、それ以上のことは何も言わないまま、食事をとり終えていた。
数日後には、店に新米パティシエの慎也が入り、俊がケーキ作りに参加するように。
慎也は提供とドリンク作り、俺たちのサポートを任され、休みが少しだけ取りやすくなっていた。
数週間後。
この日は千歳の公式戦があったため、午前中で仕事を終え、バイクを走らせ会場へ。
会場に入り、周囲を見回していると、背後から名前を呼ぶ声が聞こえ、振り返ると凌が歩み寄ってきた。
「カズさん、仕事上がれたんすか?」
「ああ。 ちーの試合は?」
「これから準決勝っす。 相手が中山和香って言ったかな? 対戦相手に恵まれたって感じっすよ」
凌の後を追いかけながら話を聞き、通路のすぐ脇にある観客席に座ってすぐ、奏介の姿がないことに気が付いた。
「奏介は?」
「光君とトレーニングっす。 光君、どうしても今日しか空けられなかったみたいで、ぶーたれてましたよ?」
凌の話を聞きながら、リングの上を眺めていたんだけど、リングの上では東条ジムの『綾瀬梨花ちゃん』が苦戦を強いられていた。
『あの子… 正月に秀人さんとうちに来たよな? キックのキレが良くないし、千歳戦に向けて、体力温存しながら戦ってるのか? 負けたら意味ないだろ…』
ぼーっとしながらリングの上を眺めていると、肩を叩かれ、視線を向けると連盟の会長である島田さんがにっこり笑いかけてきた。
「あ! ご無沙汰してます!!」
慌てて立ち上がり、挨拶をすると、島田さんが切り出してきた。
「俺の隣空いてるから来なよ」
羨ましそうに見てくる中田ジムのみんなを尻目に、島田さんの後を追いかけ、リングサイドにある関係者席に向かっていた。
島田さんの隣に座ると、島田さんはリングを見ながら切り出してくる。
「妹のちーちゃん、すごい強いねぇ」
「親父がスパルタですからねぇ… 毎日、あれの扱きに耐えられる女は、片手で数えるくらいしかいないっすよ」
「なるほどな。 カズは試合に出ないのか?」
「俺は… 仕事が忙しいっすからねぇ… ちーのスパー相手で手いっぱいですよ」
リングを見ながら島田さんと話をしていると、試合終了のゴングが鳴り響き、梨花ちゃんの勝利が告げられ、島田さんが嬉しそうに切り出した。
「やっぱりあの子が勝ったか。 そういえば広瀬が潰れた話、聞いたか?」
「詳しくは聞いてないっすけど、前回のちーの試合でやらかしたんですよね?」
「あれは引き金でしかないよ。 過去の試合を調べたら、田中忍が優勝した年の試合で八百長が発覚したり、ビギナーコースの子らに『筋トレしかさせない』とか、『トレーニングマシーンも触らせない』とか、詐欺紛いのことが色々出てきたからな。 話し合っても反省しないし、ライセンス剥奪したんだよ」
「なるほどねぇ…」
ため息交じりに言い切り、準決勝の準備をする千歳のことを眺めていた。
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