第173話 テスト

秀人さんの訪問から数日たち、冬休みが終わると同時に下宿期間も終わりを迎えていた。



始業式を終えた翌日。


千歳と学校へ向かっていると、千歳が切り出してきた。


「そういえば、3月にキックボクシングの公式戦があるって言ったっけ?」


「え? 聞いてないよ」


「あれ? そうだっけ?」


「出るのか?」


「もち! りんちゃんと『また決勝でやりあおうね』って約束したんだ」


まるで遊びに行く約束をしたかのように、そう言い切る千歳の横顔は、キラキラと光って見えていた。



学校を終え、ジムと部活でトレーニングを続けるしていると、千歳がジムに入って来たんだけど、千歳を見るなり、学が千歳に駆け寄り切り出した。


「千歳さん、俺、キックボクサーに転向しようと思ってるんです!」


「やめときな」


「え? なんで?」


「ボクシングもまともに出来てないから。 中途半端な状態で転向したって碌なことないよ。 本気でやりたいなら、ボクシングを極めてから転向しな」


千歳にはっきりと言い切られ、学は肩の力を落とし始める。


千歳は何も言わず、学の肩をポンと叩き、サンドバックに向かい始めていた。



翌日の部活時から、学は普段以上にトレーニングに力を入れ、ちょっとした隙にも筋トレをするように。


学が腕立てをしていると、バンテージを巻いていた千歳は、学の背中に座り、何事もなかったかのようにバンテージを巻き続けていた。


その後、俺がミットをもってパンチを受け、3分5ラウンドが終わった後に交代。


『学がキックボクサーかぁ…』


そんな風に考えながら、千歳の持つミットを殴り続けていると、突然、ミットが肩を吹き飛ばしてくる。


「こら! 集中しろ!!」


頭の中を見透かされ、思わず吹き出しそうになりつつも、千歳の構えるミットを殴り続けていた。



部活を終えた後、薫と谷垣さんにプロテストのことを切り出すと、二人とも感心したような声を上げていた。


「先生、今って部長は奏介君じゃないですか。 部長って佐藤君に任せるんですか?」


「いや、薫がやれ」


「僕が? だってボクシングできないですよ?」


「完璧にサポートできてるだろ? 中田も『薫にしろ』って言ってきたし、お前なら安心して任せられるからな」


谷垣さんは自信満々にそう言い切っていたんだけど、薫は不安そうな表情ばかりを浮かべている。


「大丈夫だよ。 俺も辞めるわけじゃないし。 試合に出れなくなるから、部長を変えるってだけの話じゃん。 気にすることねぇよ」


はっきりそう言い切った後、妙な寂しさが胸の奥に残っていた。



あっという間に月日が経ち、プロテスト数日前には、英雄さんに言われた病院へ。


散々迷った結果、結局、受けることにしていた凌と二人で検診に行った数日後には、電車に揺られ、テスト会場に向かっていた。


会場につき、しばらく待っていると、簡単な挨拶の後に筆記テスト開始。


筆記テストといっても、ボクシングについての簡単な問題ばかりだったから、ペンが止まることもないままに筆記テストを終えていた。


筆記テストの後に計量し、コミッションドクターによる検診が始まる。


検診を終えた後、実技試験があったんだけど、積極的に攻撃をし続けていたせいか、特に注意を受けることもなく、テストを終えていた。


帰りの電車に揺られている最中、凌に切り出した。


「どうだった?」


「俺やばいかも…」


「え? なんで? 注意されてなかったじゃん」


「頭部のCT…」


「生まれつきだから大丈夫」


凌の言葉を遮るように言うと、凌はいじけたように口をとがらせていた。

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