第172話 対面
部室とボクシング場の大掃除を終えた数日後。
年始を迎え、ジムのみんなが挨拶をしに来ていたんだけど、俺は去年のように、お酌をしたり、食事を取り分けたりと、慌ただしく過ごしていた。
ジムのみんなが訪問し、少し話していると、家のインターホンが鳴り、千歳が対応していたんだけど、玄関の方から千歳の大声が聞こえてくる。
「りんちゃんだぁ!!」
『りんちゃん?』
不思議に思いながら凌と顔を見合わせていると、千歳はリビングに駆け込み切り出してきた。
「父さん! りんちゃん来た!!」
「りんちゃん?」
英雄さんは不思議そうな表情をした後、千歳の背後を見て大声を上げる。
「秀人!! やっと来たか!!」
英雄さんの声に反応するように千歳の背後を見ると、そこには千歳がキックの大会で決勝相手の女の子と、中田秀人さんが立っていた。
「ま、マジかよ!!」
凌と智也君の3人で思わず声を上げてしまうと、秀人さんは英雄さんに促されて隣に座り、りんちゃんは千歳の隣に座り込む。
かつて、世界チャンピオン戦で、顔を合わせた二人と同じ場所にいることが信じられず、呆然とすることしかできなかった。
凌と智也君の3人で呆然としていると、英雄さんと秀人さんは肩を並べ、当時の話をし始める。
「あの試合は参りましたよぉ… 英雄さん、ラウンド数が増えるたびに、パンチの威力が増していくんすもん」
「あの試合は俺の中でもトップ3に入るくらいいい試合だったな」
二人は酒を酌み交わしながら、楽しそうに思い出話を続けている。
『すげー… 何ここ… 英雄さんだけでもすごいのに、秀人さんまでいるって
… 夢じゃねぇよな?』
思わず感動していると、千歳が秀人さんに切り出してきた。
「秀人さんが父さんとスパーしてるとこ見たいなぁ。 生で見たこと、全然覚えてないんだよなぁ… 生で見てみたいなぁ」
「スパーかぁ… 英雄さん、いつ空いてます?」
「え? お前やる気?」
「当り前じゃないっすか! ちーちゃんのお願いですよ? 聞かないわけにはいかないじゃないですか!」
秀人さんの声をきっかけに、思わず3人で歓喜の声を上げてしまった。
『すげー! 二人がいるだけでも嬉しいのに、英雄さんと秀人さんがスパーってマジかよ!! 千歳ってなんでピンポイントで俺が喜ぶことしてくれんの? ホント、最高すぎるんだけど!!』
胸の高まりを抑えきれないまま千歳を見ると、千歳はりんちゃんと桜さんに挟まれ、楽しそうに話をしていた。
秀人さんとりんちゃんが帰った後、千歳はさっさと2階に上がってしまい、慌ててそれを追いかけた。
部屋に入ってすぐ、浮足立つ気持ちを抑えきれず、千歳に切り出した。
「やべぇって! ここに英雄さんと秀人さんがいたんだぜ!? マジ信じらんねぇんだけど!!」
「秀人さん、詳しい場所までは知らなかったんだって。 うち、HPとか無いし、風の噂で聞いて『この辺かなぁ』って思ってたみたいだよ。 キックの試合の時に会って、試合後に裏でジムのこと話したら来てくれたんだ」
「それだけじゃなくてスパーも切り出すとか、ホント最高に嬉しすぎるんだけど!!」
「あの二人のことだから、明日あたりから自分のトレーニングし始めるよ。 父さんといっぱいスパーできるかもね」
千歳はそう言いながらにっこり笑いかけてくる。
その笑顔がうれしすぎて、喜びを表したくて、千歳に近づいた途端、千歳は慌てたようにグローブを手に持つ。
「プロテストまであと25日」
はっきりとそう言い切られ、八つ当たりをするように頭をグシャグシャっと撫でていた。
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