第175話 結果

島田さんと話をしながらリングを眺めていると、千歳がリングに上がっていたんだけど、千歳は大きく深呼吸をするだけで、落ち着いたままリング中央へ。


千歳はかなり集中しているのか、試合開始のゴングを待ちわびるように、対戦相手の中山和香を睨みつけていた。


試合開始のゴングが鳴り響き、千歳はステップを踏みながら距離を詰めようとしていたんだけど、相手はジャブで牽制するばかり。


『ちー、絶好調って感じだな』


そう思いながらリングを眺めていると、中山が右フックを放った直後、拳を引きながら肘を突き出し、ファイティングポーズに戻っている。


『止めてください』


俺が切り出す前に、島田さんが怒鳴り声を上げた。


「止めろ!! 肘うちは反則だ!!」


島田さんの声に反応するように、ゴングが鳴り響いた瞬間、千歳の右ハイキックと肘うちが同時に決まり、二人とも倒れこんでいた。


『あれは絶対やばい!!』 


カウントが進む中、中山はリングで大の字になっていたんだけど、千歳は痛みに歪んだ表情をしたまま、ゆっくりと片足だけで立ち上がり、ファイティングポーズを取る。


立っていることすら辛そうな表情のまま、試合終了のゴングが鳴り響くと同時に、千歳は糸が切れたように座り込み、必死に右足を抑えていた。


親父と吉野さんと共に、リングドクターがリングに駆け上がり、千歳の様子を見ていたんだけど、リングの上からは怒鳴り声ばかりが響いてくる。


「担架! 早く!!」


観客席からもざわつく声が響く中、千歳は担架に乗せられ運ばれていた。



島田さんに挨拶をしないまま、吉野さんのもとに駆け寄ると、吉野さんが真っ青な顔のまま切り出してきた。


「病院が決まったら連絡するって」


「右足っすよね?」


「ああ。 折れてる感じはなかったけど、検査しないとわかんないだろうな。 ちーちゃん、小さい頃に怪我したのって右だよな?」


「そうっす」


「最近、右膝を気にしてたんだよね… 『違和感がある』ってさ。 古傷がうずいてたのかもな」


「そうだったんすね。 あいつ、何にも言わないから知らなかったっす」


しばらく吉野さんと話をしていると、リングの上には梨花ちゃんが一人で立っている。


対戦相手不在のまま、梨花ちゃんの優勝が告げられていたんだけど、梨花ちゃんは悔しそうな表情をしながら、涙をボロボロとこぼしていた。


『一番きつい勝ち方だよなぁ… うちに来た時もちーと楽しそうに話してたし、ちーと戦いたくて、体力温存してたもんなぁ…』


リングの上で無理やりベルトを着けられる梨花ちゃんを見ていると、吉野さんが切り出してきた。


「病院決まった。 行くぞ」


「どこっすか? 俺バイクなんで、直行しますよ」


病院の場所を聞いた後、急いで観客席を通り抜けようとすると、智也と凌が駆け寄り切り出してきた。


「ちーは?」


「帰ったら話すから、ジムに戻ってろ」


はっきりそう言い切った後、観客席にいた中田ジムの面々を見ると、みんなは心配そうな表情を浮かべている。


何の反応もすることができないまま、その場を駆け出し、病院へ向かっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る