第145話 約束
千歳に唇で唇を塞がれ、何も言えないでいると、千歳は俯きながら、ゆっくりと唇を離す。
恥ずかしそうに俯く千歳の髪に指を絡ませ、小声で切り出した。
「また夢だって言い張る?」
「起きてるじゃん…」
「俺、付き合ってるやつとしかしないよ」
「知ってるよ。 だからしたかった」
恥ずかしそうにはにかむ笑顔でそう言い切られ、思わず千歳を抱きしめた。
「好きだ。 マジで、冗談じゃなくて、本気で… 本気ですげー好き。 けど、今はまだ駄目だから… ちゃんと付き合えるようになったら、また告っていい?」
「記録並んでないから?」
「…違う問題があってさ。 それが解決したら、すぐに付き合おう?」
「その問題って何?」
「…今は言えないんだけど、すぐに解決するから! 俺が好きなのは千歳だから、すぐに解決する」
はっきりとそう言い切った後、千歳の唇に唇を重ねようとすると、千歳はプイっと顔を逸らし、不貞腐れたように聞いてきた。
「その問題って何?」
「今はちょっと…」
「言いたくない?」
「…俺自身、どうしていいのかわかんないし。 けど、すぐ解決させるから! だから、少しだけ待ってて」
「わかった。 約束ね」
千歳ははっきりとそう言い切ると、どちらからともなく顔を近づけ、唇を重ねていた。
『このままこうして居たい… このままずっと、千歳のことを抱きしめていたい…』
ジムの方から聞こえる、ヨシ君の叫び声を気にすることもなく、千歳の唇に夢中になっていた。
数時間後。
痛む体を引きずりながら帰宅すると、カズさんが夕食を作っていてくれた。
温かい食事に感動しながら食べていると、カズさんが飲みながら切り出してきた。
「なぁ、あの汚ったねぇミサンガ、本当に着けんの?」
『汚ったねぇ』とはっきり言い切られたことに、軽く傷つきながらも、切られたミサンガを手に取り、小声で答えた。
「…切られたんですよ。 試合前に」
「試合前? なんで?」
「嫌がらせですよ。 左腕に着けてたんですけど、バンテージ巻いたときに違和感あって、カバンに着けてたんです。 試合終わって戻ったら、切られてました」
「新しいの買えば?」
「ないんですよ。 全く同じ奴が… 自分の不注意でこうなったから、自分で作らなきゃ意味ないし…」
「…お前って、結構めんどくさいやつなんだな?」
カズさんにはっきりと言い切られ、何も言えないでいると、カズさんはクスッと笑いながら切り出してきた。
「ま、良いんじゃね? 自分がそう思ってるんだったらさ。 つーか、その汚ったねぇやつ、タッチング結びだろ? 切られた方は輪結びだぞ?」
「え? マジっすか?」
「途中から解けてるから、タッチングに見えるけど、反対側は色が途中で変わってるじゃん。 落ちてたこれは輪結び」
カズさんはそう言いながら、切られた長い方のミサンガを指さしている。
「…作れるんすか?」
「高校の時、学祭でフリマやったんだけど、商品が足りなくて死ぬほど作らされたからなぁ… 貸してみ?」
カズさんに糸を渡すと、カズさんは手馴れているのか、あっという間に千歳から貰った物と全く同じものを編み上げてしまい、思わず感動の声を上げてしまった。
「これですコレ! 作り方、教えてください!!」
その後、カズさんに教わりながらミサンガを編み続け、何とか完成させていた。
「いびつだけど、遠目に見る分にはわかんねぇんじゃね? これに懲りたら、手首には着けないで、足首に着けることだな。 ホント、うちの三男は手が焼けるわぁ~」
カズさんは笑いながらそう言い切り、思わず笑いながら、右足首にミサンガを着けていた。
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