第143話 羨ましい

ヨシの提案で始まった試合なんだけど、奏介は凌との4ラウンドを終えた後、ヨシと対戦。


奏介は疲れ切っているはずなのに、何度もダウンしては立ち上がり、圧倒的に格上であるヨシに食らいついていく。


時間が経てば経つほど、奏介とやり合いたい気持ちが大きくなっていくのを感じ、無言でシューズを履き、グローブを嵌めていた。


8ラウンド目を終えたとき、奏介は立っているのがやっとの状態。


試合後だし、いきなり切り出されて始まった試合だから、ボロボロになっているのはおかしくないんだけど、奏介は『まだまだ』と言わんばかりの目でヨシを見続けていた。


奏介と戦いたい気持ちを抑えきれず、リングに上がり、肩で息をしているヨシに切り出した。


「ヨシ、降りろ」


ヨシと奏介はポカーンとした表情で俺を見てきたんだけど、そんなことは気にせず、奏介の前に立つ。


すると、千歳がリングに駆け寄り、怒鳴りつけてきた。


「ダメだって! 死んじゃう!!」


「このままじゃ、かわいくねぇ妹を持っていかれんだろ?」


「かわいくないならいいじゃん」


「バカやろ… ベルト代わりにお前を賭けたなんて親父に聞かれてみろ。 俺らが殺されんだろ? だったらこの場で潰して口止めする」


はっきりとそう言い切ると、奏介はクスッと笑いながら立ち上がり、俺の前で構え始めた。



合図と同時に試合が開始されたんだけど、奏介は疲れが出てしまい、足は動いてないし、かろうじてジャブを出せる程度なんだけど、目が死んでない。


それだけではなく、右ストレートの威力は、凌と試合をし始めた時から衰えていないし、右ストレートをガードすると、ビリビリと電気が走るほど。


的確に急所を狙ってパンチを叩き込み、奏介はダウンをするたびに立ち上がっていたんだけど、ダウンするたびに闘志を燃やしているかように、目をぎらつかせ始める。


一瞬でも隙を見せたら、右ストレートの1撃で仕留められそうな空気を醸し出し、周囲の声も聞こえなくなっていた。


『やべぇ… こいつと同年代だったら良かったのに… こんなライバルが欲しかった…』


奏介の動きだけに集中し、一瞬の隙も見せずにいたんだけど、奏介は当たり前のようにノーモーションでパンチを繰り出してくる。


『やべぇ… 次の行動が読めない… めっちゃ楽しいんだけど…』


思わず笑みが零れそうになった瞬間、奏介の右手がボディに突き刺さり、怯むことなく奏介の顔面に右ストレートを叩き込んだ。


思わず膝をつき、蹲ってしまったんだけど、奏介はリングの上で大の字になり、息を乱し続けていた。


奏介が大の字になったまま20カウントを迎え、マウスピースを外した後、思わず声を上げてしまった。


「やべぇ!! こいつめっちゃおもしれぇ!!」


思わず声を上げてしまうと、奏介は横になったままクスッと笑い始めた。


「またやろうぜ」


奏介に向かって拳を突き出すと、奏介は横になったまま、力なく右手を上げ、軽くグローブを合わせていた。


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