第140話 手作り
薫とアパートに帰った後、薫はさっそく作り方を教えてくれたんだけど、慣れない作業をしているせいか、指がまったく動かずにいた。
「ここをこうして、こうして編むんだよ。 あ、それ逆。 上から通した後は下にいくんだよ。 上下上下って… 違うって! そこは上!」
全くと言っていいほど覚えられずにいると、薫はあきれたように切り出してきた。
「疲れてるんだし、明日にしたら?」
「いや、今日中に何とかしたい」
はっきりとそう言い切った後、薫に教わりながら作り続けていると、薫は30分もしない間に余った色の糸で編み上げていた。
「そんなに早くできるもの?」
「タッチング結びは複雑な編み方じゃないし、慣れれば30分でできるよ。 初心者でも、1時間あれば完成するはず」
薫がそう言いかけると、薫の携帯が鳴り響く。
電話をする薫を気にも留めず、夢中になって作っていると、薫が申し訳なさそうに切り出してきた。
「ごめん。 もう帰らなきゃ…」
「ああ。 サンキュ。 今度、奢るわ」
「そんなのいいって! これでお詫びができるんだったら、いくらでも教えるよ。 わかんないことがあったら、いつでも電話して」
薫は申し訳なさそうな笑顔でそう言い切り、帰宅していたんだけど、一人黙々と作業を続けていた。
やっとの思いで一つを完成させたんだけど、結び目がぐちゃぐちゃで、千歳にもらった物とは比べ物にならないほど汚い。
その場で横になり、切れたミサンガと、自分で作ったミサンガを、比べるように顔の上に掲げながら見ていたんだけど、全くと言っていいほど、同じものには見えなかった。
『いきなり綺麗にできるもんじゃないんだな… 練習しないとダメか…』
大きくため息をついた後、再度全く同じ色の糸を使い、ミサンガを編み始めていた。
しばらく編み続けていると、だいぶコツをつかみ、さっきよりも短時間で編み上げることができたんだけど、千歳から貰った物とは全然違う。
『やっぱり違う… 何が違うんだろ? 色? 編み方? 薫の言ってた、タッチング結びじゃないのかな?』
二つのミサンガを眺めながら、考えていたんだけど、何が違うのか全く分からず。
かと言って、目が疲れているせいか、作り直す気力もなく、ボーっと二つのミサンガを眺めていた。
『疲れた… シャワー浴びて、もう一回作り直そう…』
テーブルの上にミサンガを置き、重い体を引きずるように、シャワーを浴び始めていた。
頭からシャワーを浴びていると、ふと星野から言われた言葉が頭をよぎる。
【奏介が裏切ったら、中田千歳がどんな顔するのか見てみたいんだよね】
【負けたら私と付き合いなさい。 で、私の前で中田に暴露してよ】
『あいつのターゲットは千歳だったんだ… 中学の時から、人のものを横取りして、誰かを不幸にして喜んでるって話だったもんな… 千歳、髪を結わいたらすげー可愛くなってたし、胸も隠さなくなってたせいで、周囲から注目されるようになっちったもんな… 正直に話しても、伝わらないんだろうな… 俺が千歳に追いついてたら、ちゃんと伝わるんだろうけど、負けちゃったし、伝わらないんだろうな…』
大きくため息をつきながら、シャワーを浴び続け、千歳にどう伝えたらいいのかを考え続けていた。
どんなに考えても、答えは出てこないまま。
『本当は勝ってたのに… 邪魔が入らなければ、千歳に並んで、付き合いえたはずなのに… 俺、千歳のこと、諦めたほうがいいのかな… そんなの… そんなのすげー嫌だ』
ふと頭の中に過った言葉に、拳を握り締めることしかできなかった。
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