第136話 ミサンガ
翌朝。
千歳からもらったウォーターボトルにスポーツドリンクを入れ、ミサンガを左腕に着けると、不思議と気持ちが落ち着き、リラックスしたまま、待ち合わせ場所に向かっていた。
待ち合わせ場所につき、みんなで話している最中も、不思議と気持ちが落ち着いている。
去年の試合前は、かなり緊張していて、みんなと話すこともなかったのに、中田ジムに通い始めたせいか、千歳のミサンガのおかげなのか…
リラックスしたまま、みんなと話すことができていた。
落ち着いた気持ちのまま電車を乗り継ぎ、会場についてもリラックスしたまま。
着替えを終え、ベンチに座りながらバンテージを巻いていると、隣でバンテージを巻いていた畠山君が切り出してきた。
「ミサンガなんか着けて、お守りのつもり?」
「千歳からもらった」
「ほぅ… つーか、千歳とどうなってんの?」
「今日の試合で優勝したら、また告って付き合うよ。 今もすげー落ち着いてるし、負ける気がしないんだよね」
「物好きなやつ。 最強キックボクサーってだけでもハードル高いのに、英雄さんの娘だろ? カズさんはあれだけど、ヨシ君は何されるかわかんねぇじゃん」
「普通に楽しいよ? 痛い目にも合うけどね」
そう言いながら左のバンテージを巻き終え、拳を握りしめたんだけど、妙な違和感を感じていた。
不思議に思いながら拳を握ったり、手を開いたりしていたんだけど、どうしても違和感が拭えない。
何度も同じ行動を繰り返していると、薫が不思議そうに聞いてきた。
「手、痛いの?」
「いや、なんか違和感あるんだよね…」
「ミサンガのせいかもよ? 前に千歳ちゃんが『奏介君は、少しきつめに巻くのが好きだから、少しきつめに巻いてあげて』って言ってたんだよね。 それで違和感を感じるのかもよ?」
思わぬところで千歳の話を聞き、思わず顔が緩んでしまう。
畠山君に冷やかされながらバンテージを解き、ミサンガをカバンに着けた後、薫にバンテージを巻いてもらっていた。
薫にバンテージを巻いてもらったんだけど、千歳が巻いてくれた時のように、手にフィットしている。
「上手くなったな…」
「みんなで中田ジムに通ってる時、桜コーチに特訓してもらったんだ。 言葉はきついけど、すごく優しいんだよ?」
薫の言葉に何も言えず、周囲に目を向けると、凌と目が合ったんだけど、凌は急に立ち上がり、右腕を突き出してくる。
それに答えるように右腕を突き出すと、畠山君も同じように立ち上がり、右腕を突き出す。
陸人と学にも声をかけ、4人で同じように右腕を突き出すと、凌は口を尖らせ、姿を消すように座りこんでいた。
「あ、いじけた」
4人で笑いながらベンチに座ると、スマホが点滅していることに気が付く。
スマホを手に取り、ラインを開くと、凌から号泣しているスタンプが送られてきていた。
凌に返事をせず、スマホを手に持ったまま、第1試合が開始され、自分の出番を待っていたんだけど、試合の準備をする直前、千歳にラインを送りたくなってしまい、我慢ができずにメッセージを送ると、千歳からすぐに返信が来ていた。
【これから第1試合行ってくる。 作戦は?】
〈全力で突っ走れ〉
【雑!】
思わず笑みがこぼれると、薫がスマホを取り上げ、グローブをはめ始める。
リングに上っても、緊張することはなく、リラックスしたまま試合に挑んでいた。
初戦は体調を伺うように動き回り、ノーモーションは打たないまま。
ほとんどのパンチをガードし、2分3ラウンドの試合を終え、判定で勝利し、薫にお願いしてグローブを外してもらい、ウォーターボトルに入ったスポーツドリンクを飲みながら、千歳にラインを送る。
【勝った! 判定勝ち!!】
千歳からの返事はないままに、カバンに着けたミサンガを握りしめながら、次の試合を待ち構えていた。
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