第131話 変化
桜さんと二人で、英雄さんからボコボコにされた翌日。
疲れ切っていたせいか、物音に気が付かないまま朝を迎えたんだけど、体が痛くて起き上がるのがやっと。
普段通りに起きることができたんだけど、痛みのせいで歩く速度が遅く、千歳の背中を追いかけることができないまま、学校に着いていた。
俺の腫れた顔を見て、クラスの奴らは「試合でもあった?」と聞いてくる。
「トレーニング」
不貞腐れながらそう言いきり、退屈な授業を受けていた。
授業を終え、教室移動があったため、痛む体を引きずりながら廊下を歩いていると、ペンケースを落としてしまった。
仕方なく、ペンケースを拾おうと振り返ると、誰かがペンケースを拾ってくれたんだけど、ワイシャツのボタンが大きく開いているせいで、はっきりとした谷間がチラッと見えていた。
無言でペンケースを差し出され、それを受け取ったんだけど、拾ってくれた相手がまさかの千歳。
千歳は誰かに結わいてもらったのか、サイドの髪がカチューシャのように編み込まれ、普段以上に可愛らしく見え、思考が固まってしまい、言葉が出ないままでいた。
「千歳~ 先行くよ~」
「待って~」
千歳は福岡に声をかけられた後、すぐにその場を駆け出していたんだけど、呆然とその後姿を眺めていた。
「あれって、中田千歳だよな?」
「…ああ」
佐藤の言葉に、短い返事をするのが精いっぱい。
「谷間あったけど、隠れ巨乳ってやつなのかな?」
思わず佐藤の胸倉を掴んだんだけど、周囲にいた男子は千歳の話でもちきりになっていた。
散々、千歳の悪口を言っていた徹ですらも、千歳のことを「かわいい」と言い始め、その言葉を聞くたびに、嫉妬心が大きくなっていた。
放課後の部活の時間になっても、千歳は髪を結わいたまま。
普段は『まな板の方が膨らんでるんじゃないか?』ってくらいに、凹んでいた胸も、その存在感をアピールするように膨らみ、千歳が動くたびに揺れまくっていた。
周囲に見せたいような、見せたくないような気持ちのまま、谷垣さんがみんなを集合させ、6月の大会についての話を始めていた。
話なんてほとんど聞かずにいると、部活の時間が終了してしまい、後片付けをしていた。
後片付けを終えた後、部室に行ったんだけど、部室では千歳の話でもちきりに。
陸人と学、畠山君の3人は、千歳の怖さを知っているせいか、話に入らなかったんだけど、他の部員たちは千歳の話ばかりをしていた。
『ちょっと髪型変えただけでこれだもんな… 確かにかわいいかったけど、あんまり話題に上げないでほしいなぁ…』
人知れずため息をつき、学校を後にすると、公園の先で千歳に言い寄る徹の姿が視界に飛び込んだ。
千歳は鬱陶しそうにしていたんだけど、徹はヘラヘラ笑いながら千歳に言い寄っている。
慌てて千歳に駆け寄ると、千歳は少しホッとしたような表情を浮かべていた。
「悪い。 遅くなった」
「遅すぎ」
「悪かったって! みんな話してて、なかなか抜け出せなかったんだよ」
不思議そうな表情をする徹を気にせず、千歳と急ぎ足で歩き始めた。
千歳の隣にぴったりとくっつき、急ぎ足で歩いていると、千歳がため息交じりに告げてきた。
「サンキュ。 マジ助かった」
「なんか言われてた?」
「陸上部のみんなとカラオケ行こうって。 急に何なんだっつーの」
「それはこっちのセリフ。 急にどうしたんだよ? 髪結わいて、ボタンだって開けすぎだぞ? んなもん見せられたら、襲い掛かるぞ?」
「誰が?」
「俺が。 ちゃんと閉めないと、キスマーク付けんぞ」
「出来もしないこと言うな」
千歳の言葉にイラっとし、思わず千歳の腕をつかんで足を止めた。
「できるよ。 千歳が良いって言えば。 今すぐにでもできる」
はっきりとそう言い切ると、千歳は俺の頬を軽くペチっと叩き、笑いながら告げてくる。
「ドスケベ。 良いって言う訳無いじゃん」
千歳は逃げ出すように駆け出してしまい、ため息ばかりが零れ落ちた。
『まただ… また冗談として受け止められた… やっぱり、今度の大会で優勝して、千歳の記録に追いつかないと、本気だって受け止めてもらえないのかな…』
軽く肩を落としながら、千歳の後を追いかけ続けていた。
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