第102話 嬉しい

結局、深夜までアルバムを見ながらヨシ君の話を聞き、ヨシ君は話疲れたようにベッドの中へ。


布団なんて敷くスペースがなく、雑誌をかき分けた後、その場で横になっていたんだけど、掛けるものがヨシ君のベンチコートしかなく、寒さに震えながら夜を過ごしていた。


やっと寝付いたと思ったら、肩を叩かれ、目を開けると呆れた表情の英雄さんの姿が飛び込んでくる。


「あ、おはようございます」


ゆっくりと起き上がると、英雄さんが呆れたように切り出してきた


「…お前ここで寝たのか?」


「はい」


「今日はカズの部屋で寝ろ。 こんな如何わしい写真に囲まれて寝るんじゃねぇ」


「わかりました」


俺の返事を聞くなり、英雄さんは雑誌を避けながらベッドに近づく。


「片付けろ!」


英雄さんはヨシ君の頭をペシッと叩きながらそう言い、ヨシ君は声にならない声を上げていた。


英雄さんと部屋を後にすると、玄関のほうからドアの閉まる音が聞こえてくる。


「千歳、ロードワークですか?」


「いや、雨だからジムで縄跳びだ。 奏介も行ったらどうだ?」


英雄さんは、何かを訴えてくるような表情でそう切り出してくる。


「行ってきます」


はっきりとそう言い切ると、英雄さんは嬉しそうな顔をし、俺の肩を叩いてきた。


「寝起きだから、ストレッチは念入りにしろよ」


すぐにジムへ行き、ストレッチをしている千歳の隣でストレッチを開始。


言葉を交わすことなくストレッチを終え、縄跳びを開始した。


千歳のペースに合わせ、腿の高さを気にしながら駆け足飛びをし続けていたんだけど、普段よりも早いペースで飛び続けているせいか、かなりきつい。


けど、千歳の隣でトレーニングができているだけで、不思議と疲れに襲われることなく、いくらでも飛び続けることができそうな気がしていた。


タイマーの音が鳴り響くと、千歳は肩で息をしながらタイマーを止め、スポーツドリンクを一口飲んだ後、俺の前に差し出してきた。


それを一口飲み、1分の休憩後には、再度千歳のペースに合わせて飛び始める。


15分間飛び続けること3セット。


縄跳びをまとめ、所定の場所に片付けようとしていると、千歳は筋トレを始めていた。


千歳の真似をし、筋トレを始めたんだけど、かなりペースが速く、何度もバランスを崩し、倒れそうになってしまう。


必死に千歳のペースに合わせ、筋トレを終えると、千歳は座りながら呼吸を整え始めていた。


「次は?」


「…もう終わり」


「そっか。 …昨日はごめん」


小声で呟くように言った後、隣にある自宅に向かうと、リビングに居た英雄さんに呼ばれてリビングへ。


英雄さんは俺の前に水を差し出し、切り出してきた。


「親父さんにメールしたら、『しばらくお世話になります』って言ってたぞ。 向こうでトラブルがあったらしくて、早くても、年明けに帰国することになりそうだって」


「そうですか。 いろいろありがとうございます」


「気にするなって。 下宿してくる奴がいること自体、初めてのことじゃないし、俺のことを実の父親だと思ってもいいぞ?」


「そんな…」


「気にしなくていいから、自分の家だと思ってろ。 荷物はもう少ししたら取りに行こう」


英雄さんはそう言い切ると、奥の部屋に入ってしまい、申し訳ないような、嬉しいような、不思議な気持ちでいっぱいになっていた。

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