第100話 嫉妬

英雄さんの家に入った後、千歳と二人で食事をとり、千歳がシャワーを浴びている間、英雄さんが切り出してきた。


「更衣室に着替えあるのか?」


「はい。 1着だけですけど、フルセット置いてあります」


「取りに行くぞ」


英雄さんに切り出され、ジムの更衣室に行ったんだけど、英雄さんは不安そうな表情で俺を見て切り出してきた。


「親父さん、正月は帰ってこないのか?」


「今年は帰れるかわかんないって言ってました」


「そうか… 親父さんに連絡して、冬休み中、ずっと居ろよ」


「でも… 千歳とお母さん、嫌がりません?」


「母さんから切り出してきたんだよ。 『一人暮らしは大変だから、下宿させないか?』って。 飯のことも心配だし、今回の件もあるしなぁ… 申し訳ないって思うなら、俺の手伝いをしろ。 住み込みのバイトだと思えばいいだろ?」


英雄さんの言葉を聞き、思わず鼻の奥がツンとしてしまったんだけど、英雄さんは俺の肩を叩き、二人で自宅に戻っていた。


シャワーを浴びた後、キッチンに行くと、そこには英雄さんの字が書かれた置手紙がある。


【吉野の家に行くから、何かあったらすぐに来い】


『吉野さんちってどこ?』


そう思いながら紙を見ていたんだけど、どこに居ていいのかもわからず、自然と千歳の部屋に向かっていた。


ドアをノックした後、ドアを開けると、千歳はストレッチをしている最中。


黙ったまま千歳の隣に座り、千歳の真似をしながらでストレッチを開始していた。




ストレッチを終えた後、千歳は言葉を交わすことなく水を飲み始める。


そんな姿を見ているだけで、抱きしめたい衝動に襲われ、思わず切り出した。


「千歳って、好きな男いるの?」


「は? 何聞いてんの?」


「いや、いるのかなぁって思ってさ」


千歳は何も答えず、黙ったまま俺を見てくるだけだった。


「で、いるの?」


「そんなの… わかんない! つーかそっちはどうなの?」


「いつも言ってるじゃん。 千歳が好きだって。 付き合いたいって思ってるよ」


はっきりと言い切った後、千歳は視線を逸らし、呟くように聞き返してきた。


「…付き合うって何するの?」


「ずっと一緒にいたり、二人で出かけたり、困ったときに守ってあげたりかな?」


「…それって友達と変わんなくない?」


「キスは付き合ってるやつとしかしないだろ? それ以上のことも」


「友達同士でそういう事をする人もいるよね?」


「そりゃそうだけど… 俺は付き合ってるやつとしかしないし、千歳以外の女としたいとも思わない」


はっきりと千歳を見つめながら言い切ると、千歳は眉間に皺を寄せて切り出してきた。


「…付き合ってるやつとしかしないって、春香とそういう事したの?」


「いや、あの… だって千歳だって思ってたから!」


慌てて本当のことを言ったんだけど、千歳は眉間の皺をさらに深く刻み込んでしまう。


「出てけ」


「過去のことに妬くなって」


「は? 誰が妬くか」


「思いっきり妬いてんだろ?」


「妬いてない! 寝るから出てけ!!」


千歳は怒鳴りつけるように言った後、立ち上がってドアを開けようとしてしまう。


慌てて千歳の腕をつかもうとした瞬間、みぞおちに衝撃が走り、息ができずにおなかを抱えながら蹲った。


『ノーモーション… しかも素手って…』


千歳はため息をつきながら壁にもたれかかり、咳込みながら呼吸を整えた後、切り出してきた。


「あいつと同じことをしたら、妬くのやめる?」


「は? やりたいからって理由つけてんの?」


「違うよ。 本音を言うと今すぐしたいよ。 けど、それだと千歳を傷つけるだろ? ちゃんと付き合って、千歳がOKするまで我慢しようって思ったけど、それが原因でキレてるならそうするしかねぇだろ?」


「…やっぱりしたいんじゃん」


「好きな女とやりたいって思うのは普通だろ? なんか問題あんの?」


真剣に、素直な気持ちをぶつけたんだけど、千歳は黙ったまま俯いているだけ。



何かを言わなきゃいけないんだろうけど、これ以上誤解されるのが嫌で…


ここまで言っても、冗談としか受け止めてもらえない自分が嫌になり、千歳の部屋を後にしていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る