第91話 謝罪
千歳とジムまで走り、ジムの前に到着したんだけど、電気がついているのに物音がしないことを疑問に思っていた。
千歳は何も言わずに荷物を取りに行ってしまい、一人でジムの扉を開けていた。
ジムの扉を開けた途端、視界に飛び込んだのは、英雄さんがベンチに座り、腕を組んでいる姿と、少し離れた場所にいる中田ジムのみんな。
そして、その横で頭を下げる高山さんの姿と、広瀬での試合で、見学をしていた面々だった。
『わざわざ謝罪に?』
そう思いながら、中に入るのを躊躇していると、千歳が背後から近づき「どうしたの?」と声をかけてくる。
千歳の声に反応するように、英雄さんはこちらを向き、俺と千歳を手招きしていた。
二人で中に入ると、高山さんは俺と千歳に気が付くなり、慌てたように近づき、勢いよく頭を下げてくる。
「大変申し訳ありませんでした!!」
「ちょ! やめてくださいよ!!」
千歳が慌てたように高山さんの肩を上げると、高山さんが眉間にしわを寄せながら切り出してきた。
以前、中田ジムで行われた試合は、高山さんが英雄さんに切り出した試合だったんだけど、広瀬の上層部には内緒のまま。
高山さんは、ビギナーコースで筋トレばかりしている子たちを不憫に思い、ビギナーコースの子らだけを連れてくるつもりだったんだけど、それが上層部に漏れてしまい、広瀬のトップ3を連れてきた。
『絶対に勝てるわけがない』と確信しながら連れてきた結果はボロボロ。
結果を聞いた上層部が切り出し、広瀬で試合が行われたんだけど、理不尽な判定ばかりで納得がいかず。
中田ジムのメンバーが帰った後、練習生の前で抗議をしたんだけど、レフェリーをしていたトレーナーや、他のトレーナーも「これが広瀬流」と言い切り、聞く耳を持たず。
口論の末、広瀬のトレーナーを辞めることを告げると、同じことを思った練習生たちもすぐに親に電話をし、『退会申請』をした後、全員で謝罪をするために中田ジムに来たとのこと。
『謝罪って、高山さんたちは関係ないじゃん』
そう思っていたんだけど、高山さんは責任を感じているようで、何度も謝罪するばかり。
英雄さんは腕を組みながら何かを考えた後「行く当てはあるのか?」と切り出した。
「いえ… 何も…」
「そうか… いきなり無職は大変だろ? うちに来るか? そこの練習生たちも。 試合に出てないにもかかわらず、謝罪に来るってことは、それだけ誠意とやる気があるってことだろ。 これだけの人数を俺一人じゃ見れないし、高山、どうだ? 給料は減るけどな」
高山さんは最初、かなり遠慮していたんだけど、練習生たちに背中を押され、最後には英雄さんと握手をしていた。
話し合いを終えた後、千歳が英雄さんに切り出した。
「リング、使っていい? 奏介が負けて悔しいんだって」
「だろうな。 ビギナーコースの子らに見せてやれ」
英雄さんは笑顔でそう言い切り、元広瀬の面々が見守る中、千歳とミット打ちをしていた。
しばらくすると、リングサイドで見ていた英雄さんがリングに上がり切り出してきた。
「ちー、変われ」
『え? マジで? ミット打ちしてくれんの!? 合宿以来じゃね?』
悔しさは一瞬にして喜びに変わり、普段以上の力を込めてパンチを繰り出し続けていた。
憧れの英雄さんが構えるミットに、パンチを打ち込んだ瞬間、ミットが体を弾いてくる。
「躱せ! ガード!! 足!!」
みんなのヤジが響き渡る中、パンチをする度にミットで殴られ、ボコボコにされまくっていた。
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