第82話 真実
奏介の二人で、嫌がる女を引きずるようにジムへ向かう途中、赤ら顔のヨシが駆け寄り、歩きながら切り出してきた。
「兄貴と奏介じゃん。 何してんの?」
「親父に確かめに行く」
「何を?」
「こいつ、親父の隠し子なんだと」
とぼけた表情をしていたヨシの顔は、一瞬にして怒りに変わり、女を担ぎ上げて走り出した。
走ってジムの前に行き、ヨシは女を担ぎ上げたままジムの前に立ち、奏介と二人で自宅に飛び込む。
奏介は慌てたようにカギをもってジムのほうへ行き、風呂から出てきたばかりの親父に切り出した。
「話あるから来てくれ」
「なんだよいきなり…」
「ジムで話す」
そう言った後、二人でジムに行くと、親父は奏介と女を見ながら「奏介? この子どうした?」と、不思議そうな声を上げるばかり。
親父と二人で3人に歩み寄ると、ヨシは入り口を塞ぐように立ち始めていた。
まるで打ち合わせをしているかのような、ヨシと奏介の行動を気に留めることなく、親父に切り出した。
「元世界チャンプの中田英雄」
「何改まってんだよ?」
「隠し子がいるって本当か?」
「隠し子? んなもん居る訳ねぇだろ」
「本当のこと言えって」
「いない。 絶対にない」
親父の言葉を聞き、女を見ると、女は真っ青な顔をしたまま小刻みに震えていた。
親父はまじまじと女を見て、思い出したように切り出す。
「この子、田中忍の妹だよな? 広瀬のスポンサーの娘。 広瀬があれだけデカくなったのは、田中のおかげっつっても過言じゃないぞ? 相当額を資金援助してるみたいだからな。 その代わり、広瀬は田中に逆らうことができないんだよ。 逆らった結果、俺は広瀬のトレーナーを辞めた」
「マジで?」
「だってそうだろ? 『ビギナー会員は金にならないから筋トレだけやらせとけ』だの、『VIPは金になるから、怪我をさせないようにトレーニングして勝たせろ』だの、言ってることが無茶苦茶なんだよ」
親父は広瀬の愚痴を言い始めてしまい、本当に聞きたいことは聞けないまま。
しばらく話を聞いていたんだけど、親父の愚痴は止まらず、話を止めるように切り出した。
「本当に隠し子じゃないんだな?」
「当ったり前だろ!? 俺、女は母さんしか知らない」
偉そうに言い切る親父に何も言えず、変なことを聞いてしまったことに、軽く後悔していると、ヨシが興味津々と言った感じで歩み寄り、親父に切り出してくる。
「マジで母さんしか知らねぇの?」
「なんだよ? 悪いか?」
「だってさ、親父が世界チャンプになった時って、ボクシングブームの真っただ中だったろ? それなのに一人しか知らないっておかしくね? 言い寄ってくる女もいたろ?」
「世界チャンプになったときは、3人とも生まれてたし、その前はトレーニングに夢中でそんな暇無い。 母さん、昔はかなりモテて、追いかけるのに必死だったんだよ。 余所見する暇なんか無い」
「じゃあこの子は隠し子でも何でもないと」
「当たり前だ。 なんならDNA検査してみるか?」
自信満々に言い放つ親父とは反対に、女はうろたえながら涙をこぼすばかりだった。
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