第81話 確認
「カズ! 久しぶりだな!!」
仕事を終え、忘年会会場に足を踏み入れた途端、専門時代の同期である哲也が話しかけてきた。
「よお。 久しぶり」
簡単な挨拶をした後、空いている席に座り、乾杯をした後に飲み始めた。
忘年会参加者は10人の予定なんだけど、店があるせいか、その場にいるのは、俺を含めてたったの4人だけ。
近況報告をしながら飲んでいると、徐々に人数が増え、10人全員がそろったのは21時前。
全員が揃い、改めて乾杯すると、哲也が切り出してきた。
「そういやさ、この先にあるケーキ屋、雑誌に1回載っただけなのに、すげー人気だよな」
みんなは俺の店の話でもちきりになり、桜の提案で開発した生クリームは、かなり好評だということを確認できたんだけど、何も言わず、話を聞くだけで黙ったまま。
『俺、そこで働いてるよ』
なんて言葉を言ってしまえば、話が一点に集中するし、分量や配合方法を聞かれるに決まっているから、何も言うことができなかった。
しばらく話しながら飲んでいたんだけど、仕事の愚痴が多いせいか、心底楽しめない。
『桜と飲んでるほうがよっぽど楽しいな…』
ふと、頭の中に桜のことが浮かぶと、その場にいることが嫌になってしまい、みんなに切り出した。
「悪ぃ。 明日、仕事なんだわ」
会費を払い、慌ただしくみんなに挨拶した後、コンビニに立ち寄り、急ぎ足で奏介の家に向かうと、奏介の部屋の前には女が立ち、奏介は呆れた様子で対応していた。
『彼女? …なんか様子がおかしくね?』
何気なく二人に近づくと、二人はこっちを見てきたんだけど、女は涙を隠すことも、拭うこともせずにいた。
「あ、お帰りっす」
「取り込み中?」
「いえ、大丈夫っす。 入ってください」
奏介に言われ、中に入ろうとしたんだけど、女が声を大にして訴えかけ、思わず足を止めてしまった。
「お兄ちゃんに追われてるの! また暴力を振るわれたし、必死で逃げて…」
「だからぁ!! 俺には関係ねぇって言ってんだろ!?」
言葉を遮るように言い放つ奏介の言葉に、思わず口をはさんだ。
「兄貴に暴力ってやべぇんじゃねぇの?」
「気にしないでください。 全部嘘なんで」
「本当なの!! どうして信じてくれないの!?」
言い合う二人の話が掴めず、女が邪魔しているせいで、中に入ることもできずにいると、女が切り出した。
「お父さん、トレーニング中に倒れて、意識不明の入院中なの! それなのに、お兄ちゃんが家に押し掛けてきたし… 必死に裏口から逃げてきたの!!」
「…警察行けば?」
思わず女に言ってしまったんだけど、完全にシカト。
俺の存在自体を見ないようにしているのか、奏介しか見ていないのか…
俺の発言は普通に流されてしまい、呆れながらコンビニで買ってきた缶チューハイを開け、その場で飲みだした。
「だから! 英雄さんには毎日会ってるって言ってんだろ!?」
「は? 英雄?」
「はい。 こいつ、千歳に成りすまして俺に近づいてきたんです。 暴力振るってる兄貴っていうのは、カズさんの事です」
思わずチューハイを吹き出し、咳き込んでしまうと、奏介は慌てたように俺に近づき、背中を摩ってくれていた。
「大丈夫っすか?」
「…こいつ何なの?」
「千歳曰く、虚言癖があるんじゃないか?って…」
「千歳は知ってんだ」
「はい。 ヨシ君にも会いましたけど、お互い初対面だって言ってたので、カズさんの事かと… 英雄さんの隠し子だとかなんとか…」
奏介の返事にブチっと来てしまい、女の腕を掴み、苛立ちながら切り出した。
「奏介、こいつ連れて家に行くぞ。 準備しろ」
「え? なんでですか?」
「親父に確かめさせる」
はっきりとそう言い切ると、奏介は慌てたように支度をし始めた。
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