第75話 ライン

カズさんに送ってもらった翌日。


学校の廊下を歩いていると、向かいから千歳が歩いてくる姿が視界に飛び込んだんだけど、千歳は俺と目が合った直後、クルっと踵を返し、勢いよく走りだしてしまった。


『な! あのやろ… 俺がなにしたっていうんだよ…』


苛立ちながら教室に戻ると、隣の席に座る徹の話し声が聞こえてくる。


「女子陸上の中田っているじゃん? あいつ1位になった途端調子こいて、マネージャーの福岡早苗をパシッてんだぜ? マジムカつかね?」


『千歳はそんな奴じゃねぇよ』


徹の言葉にさらに苛立ち、机に突っ伏していた。



放課後、苛立ったまま歩いていると、追い打ちをかけるように角から春香が現れ、俺の腕をつかんでくる。


「んだよ!!」


「待ち合わせしたじゃん! 帰ろ」


春香は何事もなかったかのように俺の腕に絡みついてくる。


『なんなんだよ今日は!! 鬱陶しいなぁ!!』


苛立ちながら振り払った直後、千歳が俺をにらみながら通り過ぎようとし、慌てて千歳の腕をつかんで切り出した。


「お前さ、最近めっちゃ機嫌悪くね?」


「バイト遅れる」


「あっそ。 俺もジム遅れる」


苛立ったまま千歳の横にぴったりとくっつき歩き始めたんだけど、千歳の隣にいるだけで、安心感が膨らんでくる。


春香の呼ぶ声に耳も傾けずに歩いていると、千歳のじいさんの家についてしまい、千歳は何も言わずに中に入ろうとする。


このまま離れてしまうのが嫌で、千歳に切り出した。


「スマホ貸して」


千歳は素直にスマホを差し出し、ロックを外すように言うと、黙ったままそれに応じてくれる。


千歳のスマホで、千歳の番号とアドレスを自分のスマホに送信した後、ラインIDを登録し、スマホを差し出しながら切り出した。


「これ、俺の番号とアドレス。 ラインも入れといた」


「何勝手なことしてんの?」


「普通に聞いたって教えねぇだろ? 消すんじゃねぇぞ」


はっきりとそう言い切った後、勢いよく走りだし、自宅に向かっていた。



自宅に戻った後、急いで着替え、ジムに向かって一直線。


強引すぎるやり方だったけど、千歳の番号とラインを登録できたことに、胸が弾んでいた。



トレーニングを終えた後、自宅に戻り、千歳になんてラインを送ろうか考える。


『まずはお疲れって入れてみるか』


ラインで≪お疲れ≫のスタンプを探し、スクロールさせていると、誤ってタップしてしまい≪愛してる≫のスタンプを誤送信してしまった。


『あ、やべ。 まぁ嘘じゃないしいっか。 でもさ、付き合い始めたらジムってどうすりゃいいんだろ? 英雄さんにはバレないほうがいいよな… ヨシ君にも。 つーか、もし振られたら、辞めなきゃいけないの? 嫌すぎるんだけど… 愛してるスタンプ送っちったぞ? もし、千歳から【愛してる】スタンプ送られてきたら、俺マジで死ぬぞ?』


顔を綻ばせながら考えていると、千歳からスタンプが送り返されていた。


期待に胸の鼓動が高まっていると、千歳からは【死ね】のスタンプが…



『現実は甘くねぇか…』



大きくため息をつきながら、千歳にメッセージを送った。


《死なねぇよw 今何してんの?》


【もう寝る】


《早くね? ちょっと話そうぜ》


【いやだ】


《んじゃ添い寝する》


【お父さんにライン見せるわ】


《ごめんなさい》


【つーかマジで寝る】


≪4時起きだっけ? 朝起きたらラインで起こしてよ。 ロードワーク行きたい≫


メッセージを送った後、しばらく待っていたんだけど、千歳から返事が来ることも、既読がつくこともない。


『寝落ち? また切れさせた? どっちだ?』


不安になりながらも、スマホを眺め、気が付いたら朝を迎えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る