第70話 モンスター
春香のあり得ない嘘を聞き、千歳と二人で帰った後、自宅の前で縄跳びをしていると、背後から駆け寄る足音が聞こえ、手を止めると凌が駆け寄ってきた。
凌は呆れた様子で歩み寄り「ちょっといいか?」と切り出してくる。
不思議に思いながら家の中に案内すると、凌は不思議そうな表情で切り出してきた。
「え? 一人暮らし?」
「ああ。 そうだよ。 親父が海外出張中。 で、話って何?」
「今日、学校に達樹の親が来たんだよね。 『この前の招待試合でうちの子がケガした』って、校長室で大騒ぎしてた」
「マジで?」
「うん。 『他校の奴らが負けた腹いせに袋叩きにしてきた』とか、『パイプ椅子で殴ってきた』とか『金属バットを使ってきた』とか、話が二転三転してたんだって」
「そんな事してねぇじゃん」
「そうなんだけど、あの親、『モンスターペアレント』で有名だからさ。 録画してあった映像見せたんだけど、駄目だったらしい。 『教育委員会に話す』って言ってたから、多分、廃部か停部になるんじゃないかな? 部長が呼ばれて同席してたんだけど、『たっちゃんを見てなかったお前が悪い』って退部させられたって、マジでキレてたよ。 顧問も辞めさせられてた。 明日辺り、そっちの学校にも話が行くんじゃないかな?」
「マジかよ…」
「松坂、弱い者いじめが好きだし、プライドが高い我儘モンスターだからさ。 あいつ、逃げるばっかりで、俺とは1回もやりあったことないんだよね。 ま、喧嘩売った相手が最強モンスターだったって話だよ」
凌の話を聞き、一番に浮かんだのが千歳の顔だった。
もし、この事を千歳が知ったら、責任を感じてしまうんじゃないか?
千歳は売られた喧嘩を買っただけなのに、責任を感じ、ボクシング部のマネージャーを辞めてしまうかもしれない。
そう思うと、いてもたってもいられなくなり、凌に切り出した。
「千歳って携帯持ってんのかな?」
「あるけど、もう寝てるよ? 部屋の電気消えてたし」
「マジで?」
「うん。 毎朝、4時に起きて10キロ走ってんだって。 その後筋トレして、じいさんの家まで6キロ走って学校行ってるって。 スパルタモンスターの英雄さんが言ってたよ」
「朝からそんなハードワークしてんの!?」
「うん。 最初は3キロだったんだけど、どんどん距離が伸びて10キロになったって。 週末の早いときは18時台に寝てるよ。 そりゃ陸上部も欲しがるよな」
「え? けど、体育祭の時とか全然目立たなかったよ?」
「家族の事がばれたら、引っ越しするって思ってたし、手抜いてたんじゃね? 今まで5回? 6回? 引っ越したんだって。 千歳が小1のときに、英雄さんの追っかけが自宅に来て、警察沙汰になったらしいんだけど、千歳が踏みつぶされて大怪我したって言ってた。 千歳、すげー小さかったらしいから、追っかけが化け物に見えただろうな。 カズ君から聞いた話だから、間違いないよ。 ヨシ君だったらあれだけど…」
『それでいきなり引っ越してたのか! 家庭の都合で引っ越したって言ってたけど、実はそう言う事だったんだ!』
自分の中で納得しながら、凌の話を聞き続けていた。
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