第67話 絆創膏

「あ、カズ兄、おかえり」


玄関を開けた途端、聞こえてきた声に目を向けると、千歳の左目の上には絆創膏が貼られ、思わず切り出した。


「それ、親父?」


「ヨシ兄」


「ヨシ? え? 今日、文化祭の招待試合だったんだろ?」


「ヨシ兄と父さんが飛び入り参加してボコられた」


千歳の言葉に完全に呆れ返りながらキッチンに向かうと、親父とヨシが晩酌をしていた。


千歳はそのまま2階に上がってしまい、試合結果を聞くことができず。


キッチンにある椅子に座ると、ヨシが切り出してきた。


「ちーの左ハイキック、かなり威力上がったよ」


「ハイキック? あいつマネージャーだろ?」


「それがさ、計6試合やったんだけど、3ー3の引き分けで終わったんだよ。 そしたら観客から『ケリつけろ!』ってヤジが飛んで、対戦校の生徒が出てきたんだけど、ちーを指名したんだよね。 『ハンデでキックとタックルしていい』っつっててさ。 リング上がったと思ったら、その男がちーのこと挑発して、顔を突き出しててんだけど、ちーがキレて、左ハイキックが首に直撃。 そのままリングアウトしてたよ」


「マジで? 生きてた?」


「ああ。 しばらく動けなかったけど、普通に立ち上がってた。 みんなシーンとしてたんだけど、すげー笑っちった」


「で? お前とやりあって怪我したと」


「うん。 ボクシングでやりあってたら、思わずマジになっちった。 薬塗っとけばいいだけなのに、奏介が絆創膏貼ってたよ。 血も止まってたから必要ないのにな」


「で? 親父は何しに行ったん?」


「暇だったから見に行った」


なぜか偉そうにはっきり言う親父に何も言えず、夕食をとり続けていた。



翌朝。


顔に絆創膏を貼ったままの千歳を後ろに乗せ、バイクで店に向かったんだけど、まだ開店前だというのに、短い行列ができていた。


何も気にせず、裏口から店に入ると、オーナーが千歳に切り出す。


「ちーちゃん、その顔どうしたの?」


「切れちゃって…」


「あー… それじゃあ表に出すわけにはいかないねぇ… 今日は洗浄と、ドリンクのヘルプだけやってもらえるかな?」


「わかりました」


千歳はそう言った後、更衣室に駆け込んでいたんだけど、申し訳ない気持ちが膨れ上がり、オーナーに謝罪。


オーナーは「仕方ないよ。 急遽頼んだんだし、忙しい中、よくやってくれてるからね」と、苦笑いを浮かべていた。



翌朝。


早い時間に目が覚め、1階に降りると、トレーニングウェアに身を包んだ千歳は、玄関を出ようとしていたんだけど、剥がれかけた絆創膏の上から、絆創膏を貼っていた。


「ちー、もう傷口乾いてんだろ? 剥がしたほうがいいんじゃないか?」


千歳は何かを考えるように眉間にしわを寄せ、絆創膏を剥がすことなく、何も言わないままに玄関を飛び出した。


『なんだあれ? 相変わらずなんも言わねぇし…』



不思議に思いながら朝食をとり、仕事に向かっていた。

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